【MaaS体験記】デジタル活用で一歩先を行く…東京臨海副都心エリア「マルチモーダルの先行モデル」

実証実験のエリア内にある東京テレポート駅
実証実験のエリア内にある東京テレポート駅全 10 枚

今回取材したのは、2020年1月16日~2月14日まで実施した東京臨海副都心エリアにおける観光型MaaSの取り組みだ。

今回の取り組みで利用するアプリ『モビリティパス』は、東京都が公募した「MaaS社会実装モデル構築に向けた実証実験プロジェクト」に基づくもので、このプロジェクトには6社(ナビタイムジャパン、ドコモ・バイクシェア、JapanTaxi、東京臨海高速鉄道、東京臨海副都心まちづくり協議会、KDDI)が参加する。

プロジェクトの主体として参加するナビタイムジャパンに話を聞くことができ、実際に新しいモビリティを体験してきた。

東京臨海副都心エリアのMaaSとは

実証実験のエリア内にある東京テレポート駅実証実験のエリア内にある東京テレポート駅
東京副都心エリアを対象にするこの実証実験は、もともと路線バスが走っていなかったエリアに新しい移動手段を提供するものだ。とくに、東京モーターショーやコミケなどの大規模イベント時には多くの観光客を呼び込む一方、一箇所の訪問で終わってしまう観光客の足を、そのほかの観光地に回るキッカケを提供する。勝どき駅前からお台場へのルートも追加し、お台場の回遊ルートにも接続する。

MaaSアプリ『モビリティパス』では、この回遊ルートを運行している「東京臨海シャトル」の予約ができ、りんかい線からの接続が可能。りんかい線1日乗車券のプレゼントや、シェアサイクルのキャッシュレス決済にも対応するため、鉄道やバスで来る観光客や車で来てから歩いて回る方にとって、短距離移動に適した移動手段がいろいろ選べるのは心強い。観光型MaaSではあるものの、こうした移動手段が増えることで、このエリアの生活者にとっても利便性が高まることが期待できる。

東京臨海シャトルの乗車体験

『モビリティパス』アプリの画面『モビリティパス』アプリの画面
実証実験で利用するMaaSアプリ『モビリティパス』をダウンロードし、お台場回遊ルートで国際展示場駅(りんかい線)行きのシャトルを予約した。デマンド交通ではないが、時刻表では約1時間に2本くらいある。予約画面には、乗降場所が示され予約番号が表示される。JapanTaxiが提供している『JapanTaxi』アプリに近い操作体験でアプリを利用することができる。

このときの乗車場所は、東京テレポート駅のロータリーだったが「東京臨海シャトル」専用のバス停がないのも特徴だ。アプリの画面表示を見ながら乗降場所を確認する。時刻表どおりに決まって運行しているが、今後は利用者が多い時間帯の本数を増やしたり曜日毎に変えたりなど、利用傾向を考慮しながら、フレキシブルに時刻表を更新していく。

また、バス停が固定ではないため、天候が悪いときなどは屋根がある場所で乗り降りできるようになるだろう。最近、京都では繁華街にあったバス停を移設するニュースもあったため、リアルな移設をするよりはこうしたデジタルの取り組みのほうが今後は増えていくだろう。

専用のバス停はない専用のバス停はない
乗車中に、渋滞で次の到着が遅れることを運転手から教えてもらったが、同等の遅延情報をアプリで見ることもできた。道幅が広く比較的整備されたこのエリアでも遅延があることを考えると、都心やターミナル周辺ではさらに渋滞や遅延が発生する可能性もある。それを考えるとリアルタイムで遅延情報が手元でわかるのは助かる。

国際展示場駅に到着。近くにはドコモ・バイクシェアのサイクルポート(駐輪場)がある。シャトルからシェアサイクルに乗り換えて近場への移動ができる。この日はほとんど借りられていたが、事前登録をしなくてもアプリからすぐに利用ができるのも今回の取り組みの特徴だ。経路検索に表示されたシェアサイクルの「一日パスを購入して予約」を押して簡単な入力だけで予約ができる。すぐにロックを解除しシェアサイクルを利用することができた。

ドコモ・バイクシェアのシェアポートドコモ・バイクシェアのシェアポート
また、このエリアに接続する東京臨海高速鉄道では、アプリでアンケートに答えると一日乗車券がもらえるというキャンペーンを行っていた。駅には『モビリティパス』のポスターが貼られているのですぐに気づくことができる。アンケートに記入して引き換え番号を駅員に提示するとすぐに、法人向けに作られたというレアな一日乗車券がもらえる。帰りはこの乗車券を使って帰途についた。

東京臨海高速鉄道の一日乗車券東京臨海高速鉄道の一日乗車券

お台場エリアの観光客の回遊に課題

【MaaS体験記】デジタル活用で一歩先を行く…東京臨海副都心エリア「マルチモーダルの先行モデル」【MaaS体験記】デジタル活用で一歩先を行く…東京臨海副都心エリア「マルチモーダルの先行モデル」
東京都として、チームラボボーダレスやお台場など観光客は多いものの、観光客の回遊に課題があったためそれを解決する取り組みとしてスタートした、とこのプロジェクトの主体でもあるナビタイムジャパンMaaS事業部長の森氏は話す。とくに、回遊したくなるコンテンツとして、観光地の情報はもちろん、その目的地に行くためのマルチモーダルのルート検索は、沖縄でも実証実験を展開しているナビタイムジャパンならではの取り組みだ。

回遊性の課題は以前からあり、地域の「まちづくり協議会」からは、もっとこのエリアを使ってほしい/活動してほしいと言う意見もある。東京ビックサイトなどでイベントがあり観光客は来るが、一箇所にとどまるケースが多いため、目的が終わったらすぐに帰ってしまうのだ。

JapanTaxiが東京臨海シャトルの運営を一社でまかなうことにより、乗車に関するデータを集めることも今回の取り組みの狙いでもある。りんかい線からの接続(鉄道との結節点)やシャトルとバイクシェアの利用など一連の利用データを分析することで、どのくらいの人が鉄道から流れてくるのか、対応するにはどれくらいのキャパシティが必要なのかが計画しやすくなる。また、利用者がどういう方か、アプリの起動時のアンケート画面により言語選択状況もわかるため、起動場所を特定すれば利用者の判定や、国内旅行者の人流がつかめると言う。

「改善サイクルがすごく早く回る」と森氏は話す。物理的なコストをおさえ、デジタル上でバーチャルなバス停やフレキシブルな時刻表を持つことで、柔軟にニーズに対応することが可能になる。今後は、旅前やエリアに入る前からのデータ分析をしていくことも視野に入れ、マルチモーダルの出発地がどこかといったことや、一連のカスタマージャーニーの中で利用者ニーズや行動様式を見ていくことが可能になっていくと話す。

運転手向けタブレット上で乗降を管理している運転手向けタブレット上で乗降を管理している

相乗りサービスのニーズが顕在化

今回の東京臨海シャトルを運行しているのが「移動で人を幸せに。」を掲げているJapanTaxiだ。『JapanTaxi』アプリと『NAVITIME』アプリの連携もあり、今回のお台場エリアの実証実験に参加した。

これまで、他人同士が同情する相乗りタクシーの実証実験に合わせたアプリ開発は行ってたが、8人乗りの相乗りシャトル(ハイエース・キャラバン)という、複数契約をベースとするタクシー以外のモビリティ運行を行うのははじめて。今回用に追加開発したと言われる運転手向けタブレット端末では、座席数を管理することが可能なため、乗車可能人数を随時見ることができる。今回の期間で「貸し切りでのシャトル運行に対して、常時満席には至らなかった」と座席数を管理できたことではじめて見えた課題をJapanTaxi 次世代事業開発部の黒木寿乃は話す。

実際の利用者は、土日祝の利用が多かった。それも今回開発した「勝どきからお台場へのルート」の利用が想像以上に多かったようで、勝どきや晴海にお住まいの方や勤務先の方がVenusFortやお台場まで行かれる移動に利用された。とくに「ベビーカーを乗せて乗車できるか」といった具体的な要望もあり比較的ITリテラシーも高い方が多かったことは、今回の取り組みの対象ユーザーに合致した結果だった。

一方で、アプリの画面で乗降ポイントを見つけることによる不安や、100~200円であれば通常の路線バスと同様に利用する意向があることがアンケート結果でわかり、今年度中には解禁になるであろう相乗りサービスの商用化に向けた先行事例として大きく前進した取り組みとなった。

都市型MaaSと呼んでも遜色がない

観光型MaaSの中でも、この東京都の取り組みはいろいろな面で先行していると言える。

まず、これまで路線がなかったところに新たに路線を引いたことが非常に大きく、その移動手段に新しいモビリティサービスであるシャトルバスやバイクシェア、それらへの接続のための鉄道とが連携していること、クーポンなどのコンテンツとを合わせて全体でマルチモーダルを体現している。

これだけでも現在のMaaS代表例と言ってもいいだろう。 観光客を呼び寄せるための取り組みは他県でも見られるが、観光に来た人をさらに回遊させる目的でモビリティを整備したエリアは全国でも数少ない。観光型MaaSだが、都市型MaaSと呼んでも遜色がない取り組みだ。

また、デジタルに重きを置いた取り組みも他地域のそれとは一線を画す。都市部で日常駅に使うタクシー配車アプリ『JapanTaxi』の延長線に『モビリティパス』アプリがあると感じることができる。UIデザインも完成度が高く、はじめての人でもすぐに使い始めることが可能だ。

全体を通じて、実証実験であることとデータ利活用を見越した取り組みであることは自明だ。観光地に流れてくる観光客をいかに回遊させるか、そのための機会としてのアプリ提供と新たなモビリティの導入。この2つは今後のモビリティ体験の向上には欠かせない施策として、おおいに実感することができた。

■3つ星評価
エリアの大きさ:★
実証実験の浸透:★
住人の評価:★
事業者の関わり:★★
将来性:★★★

坂本貴史(さかもと・たかし)
株式会社ドッツ/スマートモビリティ事業推進室 室長

グラフィックデザイナー出身。2017年までネットイヤーグループ株式会社において、ウェブやアプリにおける戦略立案から制作・開発に携わる。主に、情報アーキテクチャ(IA)を専門領域として多数のデジタルプロダクトの設計に関わる。UXデザインの分野でも講師や執筆などがあり、2017年から日産自動車株式会社に参画。先行開発の電気自動車(EV)におけるデジタルコックピットのHMIデザインおよび車載アプリのPOCやUXリサーチに従事。2019年から株式会社ドッツにてスマートモビリティ事業推進室を開設。鉄道や公共交通機関におけるMaaS事業を推進。

《坂本貴史》

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