高齢者事故のきっかけを減らすには足元から…マツダが考える安全とペダルの関係

マツダが開催した、安全戦略・技術についての体験会
マツダが開催した、安全戦略・技術についての体験会全 40 枚

踏み間違い事故は高齢者だけではないが…

昨今ニュースを賑わせている、高齢ドライバーによるペダル踏み間違い事故。高齢者だけがアクセルペダルとブレーキペダルを踏み間違えるケースが多いと思われがちだが、実際はそうではない。平成22年から27年のデータ(公益社団法人交通事故総合分析センターによる交通事故統計)によると70歳以上のペダル踏み間違い事故が9246件なのに対し、29歳以下は1万0243件と若者世代のほうが多いのだ。

一方でそのうち死亡事故だけをカウントすると、75歳以上が全体の48%を占め、65~74歳は31%、65歳未満は21%にしか過ぎない。アクセルとブレーキの踏み間違い事故における死亡事故率をみると、75歳以上が2.10%なのに対し、75歳未満は0.45%となる(警察庁交通局「高齢運転者に係る死亡事故の特徴について」より)。

つまり、アクセルとブレーキの踏み間違いによる事故は高齢者よりも若者のほうが多い。しかし、死亡事故となるケースは75歳以上の高齢者が多いということだ。

また、高齢者ペダル踏み間違い事故の実態として、駐車場など道路以外の場所で多く発生していることがあげられる(交通事故総合分析センターによる平成16年から25年の交通事故統計)。高齢者は発進や後退時に踏み間違いのミスを起こしやすいといえるだろう。今月には、65歳以上の高齢運転者に対し、衝突被害軽減ブレーキやペダル踏み間違い急発進等抑制装置が搭載された安全運転サポート車の購入等を補助する「サポカー補助金」の受付も始まった。踏み間違い事故の防止は喫緊の課題と言える。
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高齢者疑似体験セットをつけ、クルマ運転を再現

先日、高齢者疑似体験セットをつけてクルマの運転を再現する機会があった。O脚と前のめりの姿勢をつくり、筋力の低下により思ったより足が上がらないことを再現する靴を履き、前のめりの姿勢を再現する上半身のおもり(3kg)を身に着け、さらにひざの動きを制限する膝サポーターを装着。それらを身に着けることで、平均的な70歳程度の身体感覚になるというものだ。

レポーター自身は44歳だが、いきなり25歳も年を取って感じたのは身体が思うように動かない感覚である。足の動く感覚が不自然で、歩くだけで何ともぎこちない。セダンタイプのクルマに乗り込む際は、ドアを開けて腰を降ろしたあと、膝が曲がりにくい脚を車内へ引き込むのに苦労することに驚いた。

まずは駐車のための後退時を想定し、(クルマは動かさず)後方を振り返りながら足をブレーキペダルからアクセル移動させ、急に人が現れてブレーキを踏むという状況を体験。そこで感じたのは、高齢者疑似体験セットにより足の動きがギクシャクするとともに、一体どこ(どのペダル)を踏んでいるのかわかりにくいこと。そのため、踏み換え操作に時間がかかることを実感した。

次は状況を変え、駐車場利用時にチケット発券機からチケットを取るシーンを再現。ブレーキを踏んだままチケットを取ろうと上半身を捻ると、内旋角(曲げた膝を内側へ傾ける角度)に制約を受けていることで気が付かない間に足がブレーキペダルよりも右へ移動し、危ないと思ってブレーキを踏んだところ、なんとアクセルを踏みそうになった。これがすべてのパターンではないが、駐車場での暴走の原因のひとつであることは疑いようがないだろう。
まずはアクセラで体験まずはアクセラで体験

ペダルレイアウトにこだわる理由

この体験機会はマツダが企画したもので、2009年に発売した世代の『アクセラ』と最新の『マツダ3』を乗り比べることができた。最初はアクセラ、次いでマツダ3で体験。すると驚くことに、マツダ3のほうが踏み替えはスッとスムーズかつ楽に行えることを実感した。マツダによるとこれは「ペダルレイアウトの違い」なのだという。

大きな違いはまず、第6世代(2012年発売の『CX-5』)以降のマツダの新型車はペダルの位置を右側へ寄せていること。たとえマツダ3は旧世代のアクセラに比べて、アクセルペダルもブレーキペダルも右側へ寄っている(それぞれ20mm)。これは人間の足が自然に動く位置にペダルを配置することで、アクセルとブレーキの踏み替えの内旋角変化を縮小し、ペダル踏み替えの負担の減らしているのだ。

これを実現するにはホイールハウスの影響を排除して足元の空間を確保するためにドライバーの位置に対して前輪を前に出す必要があるなど基本的なパッケージングから作りこまなければならないが、マツダはコンパクトカーの『マツダ2』にも盛り込んでいる。

また、アクセルペダルとプレーキの相対位置関係も最適化。アクセルペダルとブレーキペダルの段差を少なくし、左右位置関係も近すぎず遠すぎずの理想的な感覚を実現した。

さらに、アクセルペダルを踏み際の足の軌跡まで配慮し、靴のかかとの位置が変化しないように設計。マツダが支点を下にしたオルガン式ペダルにこだわっているのもそのためで、アクセルを踏み込んでもかかとの位置が変わらないからブレーキペダルへの踏み替えがしやすく、足首への負担を減らしている。
マツダ3のペダルマツダ3のペダル

ドライバーが運転ミスを起こさないようなクルマを

マツダは何を目指しているのか? それは、ドライバーがミスを起こしにくい環境づくりである。

昨今は衝突被害軽減ブレーキをはじめとする先進的な事故防止の技術を搭載したクルマが増え、しかもシステムが高度化していることは間違いない。しかしマツダが、そこだけに頼るのではなく、まずはドライバーが運転ミスを起こさないようなクルマを作ろうと工夫しているのだ。

たしかに、ペダルレイアウトが多少悪くても通常走行においても多くのドライバーは「慣れ」で適応できる。しかし、その万が一の際にはその「最適ではないペダルレイアウト」が踏み間違い事故の一因になってしまう可能性もあるだろう。そこでマツダは、理想的なペダルレイアウトを工夫することで本当に使いやすい(運転しやすい)クルマを目指し、さらに踏み替えによる事故も減らそうというのである。

第6世代以降のマツダ車はペダル配置の最適化やオルガン式ペダルの採用に徹底してこだわっているが、その背景には安全への追及があるのだ。
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《工藤貴宏》

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