臓器提供しますか?家族が悩み、後悔しないために「意思表示」を考える【岩貞るみこの人道車医】

取材協力:前橋赤十字病院 朝日航洋
取材協力:前橋赤十字病院 朝日航洋全 1 枚

臓器提供しますか?

前回のコラムで、突然の入院のためにすぐに準備すべき3つのことを書いた。緊急連絡先のメモ、既往症や服用中の薬を書いたメモ、そして入院セットだ。

実は、医療関係者にとってはもうひとつ、必要な情報がある。臓器提供の意思表示だ。

免許証の裏を見ると、備考欄の下に臓器提供の意思表示ができるようになっている。私が免許を取得した40年近く前(改めて書くと、遠い目になるなあ……)にはなかったけれど、今は、事故に遭ったドライバーの意思をすぐに確認できる手はずが整えられている。

……。

こう言っちゃなんだが、臓器提供の意思表示よりも緊急連絡先や既往症を書かせた方が、役に立つ出番は多いと思う。免許証の裏には余白部分があるけれど、ここに書くことはNGだ。なんたって免許証は公文書。下手に落書き(じゃないけれど)をしてはいけない。やはり、メモを用意して免許証といっしょに携帯するしかない。あとは、スマホのメディカルIDの活用だ。

話を臓器提供に戻そう。

交通事故は、臓器提供の適応となる脳死状態になることがある。水の事故もそうだ。衝撃や酸欠で脳障害を受けるけれど、首から下はダメージゼロのケースがあるからだ。予告なく、突然起こる事故。そのとき、自分が脳死になったら、どうしますか? そして、家族が脳死状態になったとき、あなたはどうしますか?

「その時、考えればいいんじゃないですか?」

救命救急に携わる医師によると、免許証や保険証で臓器提供の意思表示ができるようになったとはいえ、活用している人は多くないそうだ。もちろん、子どもの場合は、免許証など持っていないので意思表示のしようがない。

医師はこれまでの経験から、機会があるたびに「臓器提供について、ご家族と話をしてみてください」と呼びかけるそうだ。しかし、返ってくる答えの9割以上が、

「そういう状況にならなくちゃわからない」
「その時、考えればいいんじゃないですか?」

というものだそうだ。しかし、そうした場面に常に接している医師に言わせると、

「目の前で大切な家族が脳死状態になっているときに、まともに思考能力が働く人などいない。ましてや、何日も時間をかけて考えるような余裕もない。当たり前だが、脳死状態の本人にどうしたいかと確認することは不可能だ。だから、いざというときのために、事前に話し合い、家族がお互いの気持ちを尊重して行動できるように話し合いをしておく必要がある」とのこと。

家族が悩み、後悔しないために

断っておくが、私は、ドナーになれ、臓器提供をしようと呼びかけているわけではない。実際のところ、私自身、免許証の裏にも保険証の裏にも、「3.私は、臓器を提供しません」に〇をつけている。

以前は、「1.私は、脳死後及び心臓が停止した死後のいずれでも、移植の為に臓器を提供します」に〇をつけていた。しかし、勝手にそう書いたことを知った家族の一人が猛反対し、あえなく変更したという経緯がある。

魂のなくなった私の体など、他の人のためになるならいくらでも活用してほしいし、そのあとは、医学生の実習用に献体するつもりでいたのだが、どうも家族はそうは思わないようだ。でも、家族と話し合ったおかげで、私が脳死になったときに私の臓器提供の意思を示したカードを見て、家族が悩んだりその後の選択で後悔したりしないですむので、よかったと思っている。

なので、私の意思表示カードの特記欄には「〇〇(猛反対した家族)が先に死んだら、1.提供する、でお願いします」と書いてある。

自分の体をどうするか

今年の夏は、お盆の墓参りもまともにできない、新型コロナウイルスと闘う夏になった。ステイホームなのか、アラウンドホームなのかわからないけれど、家族と話をする時間が多くなる人が増えそうだ。

終活という言葉が一般的になったけれど、自分の最後の生活だけでなく、自分の体をどうするかも、家族と話し合ってみるのもいいと思う。ぜひ。

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に取材するほか、ノンフィクション作家として子どもたちに命の尊さを伝える活動を行っている。レスポンスでは、アラフィー女性ユーザー視点でのインプレを執筆。コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。

《岩貞るみこ》

岩貞るみこ

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家 イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。レスポンスでは、女性ユーザーの本音で語るインプレを執筆するほか、コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。著書に「未来のクルマができるまで 世界初、水素で走る燃料電池自動車 MIRAI」「ハチ公物語」「命をつなげ!ドクターヘリ」ほか多数。2024年6月に最新刊「こちら、沖縄美ら海水族館 動物健康管理室。」を上梓(すべて講談社)。

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