【ホンダe】無駄な機能は排するが必要な機能は惜しまない…開発責任者が語る設計思想

ホンダe開発責任者・一瀬智史氏
ホンダe開発責任者・一瀬智史氏全 12 枚

年末から来年にかけて、各社のEVが続々と日本市場にも投入されそうだ。輸入車が多いなか、7月に日産が『アリア』を正式発表し、8月には『ホンダe』の日本市場向けの実車が公開された。試乗車も140台ほど用意され、順次国内ディーラーに展開していくという。

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ホンダeの特徴は、シンプルなボディに詰め込まれた技術とこだわりだ。全長が4mに満たないコンパクトボディのEVは、テスラ、ジャガー『i-PACE』、メルセデスベンツ『EQC』、アウディ『e-tron』、日産アリアといった大型・SUV指向とは真逆の戦略ともいえる。が、2021年にかけて投入が予定されているEVに、フィアット『500e』、プジョー『e208』、フォルクスワーゲン『ID.3』などコンパクトカーやCセグメントもある。日産『リーフ』やルノー『ゾエ』のような例もあるので、小さいEVは売れないという評価は正しくない。

スモールイズスマートをスローガンに、無駄や装飾を排したホンダeのコンセプトは、まさに都市の生活にぴったりのEVなのだが、バッテリー容量が35.5kWh、WLTCモードの航続距離283kmというスペックをもって性能不足との声があるのも事実だ。ホンダeの開発責任者 一瀬智史氏に率直な疑問を投げてみた。

「たとえばテスラなどには70kWh、80kWhというバッテリーが搭載されています。これは何のために搭載されているかというと、安心感のためではないかと言えないでしょうか。大型EVのオーナーの方でも、1日に利用している容量でいうと40、50kWhといったところだと思います。そう考えると、普段使わないバッテリーのために重く、大きいクルマである必要性も変わってくるでしょう。高性能バッテリーの供給体制も考えると、精神的な安心感のために大きなバッテリーを搭載する意味はあるのか。とくに都市での生活を考えたとき、使わない航続距離のためにそんなにたくさんバッテリーを積まなくてもいいとのでは? というのがホンダeの設計コンセプトにあります」。

確かに、1日100kmも200kmも走る人は、テスラやアリアを買えばいいのであって、都市部や郊外住宅地で買い物やちょっとした足がメインならWLTCモード283kmあれば、外出先で困ることはない。普通充電スポットが1万4000か所以上、急速充電スポットで約7700か所(GoGoEV調べ)。合計2万1000か所(スポット数であり充電器の設置数はこれ以上となる)あれば、外出の充電で困ることはない。ちなみに国内ガソリンスタンドの数は約3万か所で、その数は減っており、出光昭和シェルやコスモ石油では、廃業SSのEVステーション化やSSと充電スポットを組み合わせた新業態といった取り組みを始めている。

国内市場を見れば、航続距離だけでEVを評価する時代ではないかもしれない。CAFE規制による電動化圧力が高い欧州ではどうだろうか。欧州は充電スポット数としては2016年の段階で、すでに10万か所を超えている。ただし、この数には一般住宅の普通充電も含んでいる。また、CCS(コンボ)やチャデモの他、テスラSCやOEMごとの独自充電網が混在する。

スポット数で単純な比較はできないが、日本に先行して発表し納車もこの夏から始まるEUでホンダeはどのように評価されているのだろうか。一瀬氏は次のようなコメントをする。

「EUでは、荷室が小さいという人はいるようですが、航続距離を気にする人は少ないと聞いています。ホンダeは欧州でも都市部の生活スタイルに溶け込んでくれると思っています」。

コンパクトボディに、スマートキーやワイドビジョンインストルメントパネル、Hondaパーソナルアシスタント(音声認識AI)といったコネクテッド機能が、EUでも評価されている。そして、EUでの発表会や試乗会で好評なのは、じつは「走り」の性能だという。

「現地の発表会では厳しい評論家もいましたが、試乗をするとみなさんホンダeを気に入ってくれていました。モーターのトルク特性、超低重心、4輪ストラットサスペンションなど、どれもホンダらしい仕上がりになっていると試乗を楽しんでいました。英国や欧州に『Miniクーパー』の文化があるように、小さくてもよく走るクルマというのは人気なんです。フロントアクスルの舵角を変えるステアリングロッドを通常のハブの後ろ側ではなく前に持ってきており、ハンドリングは非常に良い。サイズはBセグ、Cセグですが加速・走り・乗り心地はDセグのようと言ってもいいくらいです」。

一般的に、EVは駆動方式にかかわらず前後のオーバーハングを限りなく小さくできる。バッテリーによる低重心とフロア剛性の高さ、そして発進から最大トルクを発揮するモーターならではの特性で走行性能は高くなる。ホンダeはミシュランのパイロットスポーツが純正装着される(Advanceグレード)。車両コンセプトとして、走行性能を前面には出していないが、ホンダeはホンダ車に恥じない走りを持っているということだろう。

じつは、試乗して評価が変わったのはEUのジャーナリストたちだけではない。一瀬氏によれば、開発初期のプロトタイプ(N-ONEベース)に社長や役員を乗せたとき、規定のコース周回数が終わっても戻ってこない重役もいたそうだ。プロジェクトが認められ製品化が実現したのは、ホンダeの設計思想にまぎれもないホンダスピリッツが宿っていたからだろう。

《中尾真二》

テクノロジージャーナリスト・ライター  中尾真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。現在はWebメディアを中心に取材・執筆活動を展開。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から利用し、ネットワーク、プログラミング、セキュリティについては企業研修講師もこなす。エレクトロニクス、コンピュータのバックグラウンドを活かし、自動車業界についてもテクノロジーを中心に取材活動を行う。

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