【フィアット パンダ 40周年】第2回…世襲の重圧を乗り越えて[フォトヒストリー]

2代目フィアット・パンダ(169)
2代目フィアット・パンダ(169)全 35 枚

初代フィアット『パンダ』(Fiat Panda)が発表された1980年から数えて、2020年は40周年にあたる。本企画では、歴代のエピソードと、イタリア在住ジャーナリストの筆者が過去23年の暮らしで撮影した、生活感溢れるパンダの姿をお届けする。

モデルチェンジを決断できない

第2回は2代目(2003~12年)である。23年にわたってショールームに並び続けた初代パンダは、先代フィアット500に比肩する戦後イタリア製国民車の地位を獲得した。しかし、生き延びさせ過ぎたというのも事実だ。フィアットは、偉大な初代の後継車ということもあり、開発へのタイミングと投資をなかなか決断できなかった。

もちろん、社外・社内から、いくつかのコンセプト提案はあった。初代をデザインしたジョルジェット・ジウジアーロ率いるイタルデザインは1992年のトリノモーターショーで『IDチンクエチェント』を公開。翌1993年ボローニャモーターショーでは、発展型である『ルッチョラ』を展示した。いずれも新時代のパンダの姿を提案したものであったが、フィアットはそれを採用しなかった。

代わりに、ルッチョラは韓国の大宇によって採用され、1998年初代「マティス」として量産化された。同車は5ドアであったことから、3ドアのみの初代パンダに不満をもつユーザー層に歓迎される結果となった。同様に、スズキ『ワゴンRソリオ』のオペル版である『アギーラ』も、パンダの市場を奪っていった。イタルデザイン・ルッチョラ(1993年)イタルデザイン・ルッチョラ(1993年)

消えては現れる提案

いっぽう、フィアット社内の作品で、イタリアのメディアから「新型パンダの姿」かと期待されたのは、2000年ジュネーヴモーターショーのコンセプトカー『エコベーシック』であった。デザインは、のちにフィアット・ムルティプラや500を手掛ける社内デザイナー、ロベルト・ジョリートであった。

しかし、この意欲的なコンセプトも市販化されることはなかった。当時フィアット-ランチアの製品開発ダイレクターを務めていたウンベルト・ロドリゲスは「軽量化やリサイクル性を高度に模索したが、量産化するには、あまりに不可能な点が多かった」と2004年に筆者のインタビューで語っている。フィアット・エコベーシック・コンセプト(2000年)フィアット・エコベーシック・コンセプト(2000年)

いっぽう、のちに2代目パンダとなるコードネーム169のデザインは、フィアットのディレクションのもと、3社の外部案からベルトーネ案を選択した。インテリアは社内案をI.DE.A.インスティテュートが具体化するかたちが採られた。

そうこうするうちに、経営状況は深刻さを増していった。たとえば2002年11月のフィアット・グループ販売台数は、前年同月比22.19%を記録している。フィアット・シンバ・コンセプト(2002年12月)フィアット・シンバ・コンセプト(2002年12月)

ようやくその2代目の姿が公にされたのは、2002年12月のボローニャモーターショーであった。のちの「クロス」バージョンが、映画・ライオンキングの主人公にちなんで『シンバ』の名で展示されたのだ。

続く2003年のジュネーヴモーターショーでは、ついに市販予定モデルが公開された。ただし、名前は『ジンゴ』であった。東洋の暦や植物にちなんだ言葉であった。しかし正式発売1カ月前の8月、ルノーから「GingoはTwingoと混同する」との抗議が入った。そのため急遽『ヌオーヴァ(新型)パンダ』とすることとなった。実際に、街なかのショールームに展示された初期ロットに間に合わなかったらしく、Pandaのバッジが貼られていなかったのを筆者は確認している。フィアット・ジンゴ(2003年3月)フィアット・ジンゴ(2003年3月)

最初は懐疑的だった人々

初代があまりに偉大であったこと、さらにあまりに待たされたこともあって、当初イタリア人の新型にたいする反応は懐疑的であった。生産拠点がポーランドのティヒ工場であることにも、当初一部のイタリア人を困惑させた。さらに当時市場で熱望されていたディーゼル仕様は半年後に投入、というスローな計画もユーザーの落胆に繋がった。

しかし、4×4版や、初代に設定がなかった天然ガス併用仕様などラインナップ充実が追い風となった。さらに2007年に発売された500によるフィアット・ブランドのイメージ回復も功を奏した。

その結果、販売はじわじわと伸び続けた。モデル末期の2011年7月には累計生産台数200万台を突破。同年1~5月のセグメントAにおけるシェアはイタリア国内で35.3%、ヨーロッパでも16.6%という好記録を打ち立てた(出展: BLOGO 2011年7月4日)。

経営安定の兆しが見えてからもしばらくの間、フィアット開発陣のトップはめまぐるしく変わった。前述のロドリゲスも、2代目パンダをまとめた後に同社を去っている。しかし彼は2代目パンダに関して「外は小さく、室内を広く」「個性的だが抵抗感のないデザイン」というフィアット本来の美点を大切にしたと振り返る。参考までに後者をより正確なものにすべく、ユーザーを対象にした調査では「全員が好きと答えたデザインは採用しなかった」とも証言している。

「フィアットらしさ」と「中庸さ」。それこそ2代目パンダが最終的に9年にわたるロングセラーとなった理由であろう。
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《大矢アキオ Akio Lorenzo OYA》

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