2020はOTA元年:CASEの本質は電動化や自動運転ではなくソフトウェア…矢野経済研究所 主席研究員 森健一郎氏[インタビュー]

2020はOTA元年:CASEの本質は電動化や自動運転ではなくソフトウェア…矢野経済研究所 主席研究員 森健一郎氏[インタビュー]
2020はOTA元年:CASEの本質は電動化や自動運転ではなくソフトウェア…矢野経済研究所 主席研究員 森健一郎氏[インタビュー]全 1 枚

CASE車両とモビリティ革命に揺れる中、コロナ禍が追い打ちをかけるように自動車業界に襲い掛かっている。しかしこの変革の本質は、CASE車両やMaaSビジネスのバックグラウンドを支えるソフトウェアにある。

今後の自動車産業におけるソフトウェアの役割や日本企業の課題について11月26日開催のオンラインセミナー「2030年CASE市場予測と車載ソフトウェア勝負の行方/コロナで注目のマイクロモビリティ」で講師を務める森健一郎氏(矢野経済研究所 主席研究員)に話を聞いた。

---:自動車においても、ソフトウェアの重要性が年々高まっています。この傾向はさらに強まると見ていいのでしょうか。

はい。詳しい数字や2030年までの予測はセミナーでお話しますが、現在、自動車製造における原価で、ソフトウェア部分が占める割合は約40%と言われています。業界には、これが60%まで拡大するという声があります。また、リコール対応も、将来は全体の65~70%がソフトウェアの改修になるだろうという分析もあります。

車載ECUや車両の電子制御は以前からどのOEMも取り組んでいましたが、その制御ソフトは外注かサプライヤーまかせだったといえます。しかし、トヨタは、多額の投資を行い、AI・車載ソフトウェアやクラウド環境までのR&Dを担うTRI-ADを作りました。これからの自動車は、ハードウェアとしての車両だけでなく、ソフトウェアが性能や付加価値を決めるようになると考えての戦略です。

トヨタはPFN(Preferred Networks)にも出資し共同開発を続けています。PFNは独自のAI研究で有名なベンチャー企業です。AIに限らず、セキュリティも同様です。サービスやエンターテインメントを含めて新しい業界の参入が増えるというのが、これからの自動車ソフトウェア産業の特徴です。

---:関係するソフトウェアの領域も広がるということですね。ECUのプログラム以外にどんなソフトウェアに広がるのでしょうか。

自分の調査・研究では4つの区分に分けています。ひとつは、TRI-ADのようなR&D領域のソフトウェアです。AIや自動運転にかかわる新しい技術への投資があります。2つ目は、従来からのECUや車載システム開発のためのツール市場です。ここでいう開発ツールは、HILS、MILSやモデルベース開発に必要なソフトウェアのことです。3つ目はCAD・CAM・CAEやシミュレーションシステムなど、ハードウェアを開発するためのソフトウェアツール群です。最後はOEMやサプライヤーから供給を受けるソフトウェアや受託開発としてのソフトウェアです。

---:今後の自動車産業を考える上で、やはり新型コロナウイルスの影響は大きいのでしょうか。

例えば2030年、2035年までといったスパンでみると、全体では小さいと見ています。確かに、影響はゼロではありません。コロナ禍の影響で、そもそも経済活動が縮小したり、パーソナルモビリティ・マイクロモビリティやマイカーが見直されたりといった動きは見られます。

コロナによって縮小する部分もあれば、伸びる部分もあるはずです。直接の影響は2、3年で終息すると思われ、国や地域による差はあるでしょうが、ソフトウェアの重要性が下がることはないでしょう。

---:いままでの自動車にもECUやカーナビにソフトウェアが欠かせませんでした。これが、自動車の商品価値や競争力を決めるような存在になった理由はなんでしょうか。

OTAです。2020年、国内でも車両運送法が改正され、車両保安基準にOTAやそれを前提としたセキュリティ要件が追加されました。ソフトウェアがアップデート可能というのは、なにもリコールなどの不具合の改修が楽になるというメリットだけではありません。トヨタはこの年末にも将来的なソフトウェアアップデートを前提とした車両を発表すると言われています。プランの詳細はまだわかりませんが、テスラのように車両機能、ソフトウェアのアップデートが将来的にも受けられる車両が市販されます。

これが意味するのは、車両の販売モデルが新車売り切り型から、販売後のサービスや付加価値にビジネスが移るということです。自動車のビジネスモデルが、スマートフォンのそれに近づくわけです。

---:今後の車両はOTAが必須になってくるのでしょうか。

これまでも輸出車が現地仕様に合わせるため港でファームウェアを書き換えたり、ナビの地図更新などありました。OTAの定義は難しいですが、ここでは有償でリモートから車載ソフトウェア・ファームウェアを書き換えることができる機能としています。リモートでの書き換えとは、時間や場所を問わず更新ができる機能です。

ある調査では2030年の数字として、新車の10%超えるくらいがEVとなり、レベル4以上の自動運転車両が5%前後を予測しています。どちらも1割前後の普及という読みですが、コネクテッドカーは70%に達すると見られています。CASEの中でもっとも早く市場に浸透するのはコネクテッドカーなのです。そして、OTAはコネクテッドカーを定義づける重要な技術です。

現在、電動化や自動運転で激しい開発競争が繰り広げられています。この領域で生き残るには、通信機能やソフトウェア基盤がしっかりできており、OTAによるソフトウェアの上書きによって、継続的な改善や機能アップができるクルマであることが重要になってくるでしょう。

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森氏が登壇する11月26日開催のオンラインセミナー「2030年CASE市場予測と車載ソフトウェア勝負の行方/コロナで注目のマイクロモビリティ」はこちらです。

《中尾真二》

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