ポストコロナでスマートシティはどう変わるのか?…アーサー・ディ・リトル・ジャパン マネージャー 稲田雄志氏[インタビュー]

ポストコロナでスマートシティはどう変わるのか?…アーサー・ディ・リトル・ジャパン マネージャー 稲田雄志氏[インタビュー]
ポストコロナでスマートシティはどう変わるのか?…アーサー・ディ・リトル・ジャパン マネージャー 稲田雄志氏[インタビュー]全 1 枚

2020年初頭、自動車業界が再びスマートシティに注目することとなった。トヨタが「ウーブンシティ」をラスベガスのCESで発表したからだ。また内閣府はスーパーシティ法案を施行し、新しい街づくりに動き出している。

現在話題になっているスマートシティやスーパーシティは、10年ほど前に世界が取り組んでいたスマートシティ・スマートグリッドとどう違うのだろうか。また、コロナ禍においてスマートシティや都市づくりはどう変わるのか。アーサー・ディ・リトル マネージャ 稲田雄志氏に聞いた。稲田氏は都市開発の専門家で11月30日開催のオンラインセミナー「自動車・モビリティ・スマートシティ関連産業の成長戦略」でこの内容で講演する。

---:さっそくですが、現在注目されているスマートシティと以前各地で実証実験が行われたスマートシティとどのような点が違うのでしょうか。

国によって定義が異なっていたり厳密な定義は難しいですが、スマートシティとは、そのときの技術を活用して社会や生活の効率・利便性・安全性を高める取り組みだと思っています。現在ならITやIoT、AIといった技術を活用してなにができるか、どんな街づくりが可能かといったことを考え、実装していくことです。

この活動におそらく完成形はないので、時代ごとの課題ニーズや利用できる技術によって変わってくるものだと思います。

---:街づくりに終わりがないのと同じで、スマートシティも時代ごとの取り組みが続くということですね。

昨今の取り組みで変わったことがあるとすれば、まず扱えるデータの量が増えたことで、いままでできなかったことが実現可能になるということです。センサーやネットワーク技術、クラウド技術によって、たとえば、ゴミ収集車1台ごとのデータがとれれば、ゴミの量がリアルタイムで把握できるようになります。できる範囲は広がっています。

これまで世界各地で行われてきたスマートシティプロジェクトは、エネルギーのスマート化、行政手続きのスマート化などが多く、生活者の利便性向上に直接つながる様な取組みはあまり存在していませんでした。

例えば、2018年、各国のスマートシティプロジェクトの統計をエネルギー、水環境、交通、スマートビルディング、スマート行政、ヘルスケアの6分類で見てみると、最も取り組まれていたのが、行政機能に関するスマート化でした。行政機能のスマート化は間接的には市民生活の向上に貢献しますが、生活者に直接価値を提供しているわけではありません。そのため、効果を実感してもらいにくい現実があるようです。

---:現在のスマートシティプロジェクトも同じような状況なのでしょうか。

詳しい話はセミナーで各国の事例を交えて紹介する予定ですが、現在は、先ほどの6つ分野ごとのプロジェクトを連携させながら同時に進めて、住民が生活がよくなったことを実感できるものにしようという動きになっています。内閣府が掲げる「スーパーシティ構想」では、住民視点で生活のしやすさを求めています。

---:トヨタが発表したウーブンシティもスーパーシティ構想のひとつと考えてよいでしょうか。

厳密には、トヨタは政府が進めるスーパーシティプロジェクトに裾野市と共同で参加するという立場になります。スーパーシティ構想には6月時点で56の団体が参加を表明しています。裾野市のプロジェクトはそのひとつです。スーパーシティは、移動・支払い・行政・医療介護・教育・エネルギー水といった分野のうち5つ以上のスマート化プロジェクトを連携させることが必要条件とされています。

ウーブンシティは、裾野市のスーパーシティプロジェクトに含まれるものです。

---:コロナの影響についてお伺いします。コロナ禍はスマートシティや都市計画にどのような影響を与えたのでしょうか。

ポジティブな面では、街づくりや社会のデジタル化を進めたという点が挙げられます。ECやオンライン決済の拡大、オンライン教育、オンライン診療など衣食住について、これまで進まなかったものがデジタル化に動き出しています。セミナーでは、これも詳しくはスライドを交えて解説しますが、生活者のライフスタイルの変化は、民間ビジネスから行政・自治体まで影響がでています。

ネガティブな部分は、自粛やロックダウンによる経済の後退です。自動車業界でもラインの停止、販売数の減少などあったと思います。その一方でEV化やパーソナルモビリティといった新しい市場、マイカー移動の見直しといった側面もあります。

---:最後に今後の都市開発・スマートシティはどう変わっていくのでしょうか。

これまでは都市の効率や利便性にフォーカスをあててきていました。これからも技術の発展により、より便利な街づくりは加速することが想定されます。ただ、一方で非効率な存在(例えば自然といった要素)を取り戻そうとする動きが出てきているのも事実です。

単に効率性を追求していくと、どの街も似たような風景となり特徴や特色がなくなってしまいます。人工的で効率はいいかもしれませんが、人間ならではの活動やクリエイティブな作業とは相反する部分もでてきます。また、効率の良さは、変化しにくい、変化に弱いという欠点にもつながります。コロナ禍で、多くの都市機能や生活の脆弱性があらわになりました。

このような背景もあってこれからのスマートシティは、効率や利便性・安全性の追求とともに多様性・柔軟性も求められるようになると思います。この多様性・柔軟性を取り入れるためにもこれまでのデベロッパーや自治体による一方的な街づくりではなく、街を利用する生活者などと共創していく街づくりが求められていくのではないかと考えております。

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稲田氏が登壇する11月30日開催のオンラインセミナー「自動車・モビリティ・スマートシティ関連産業の成長戦略」はこちらです。

《中尾真二》

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