【F1】女性選手タチアナ・カルデロンが語る栄達の条件…「できると信じて努力」 アルファロメオのテストドライバー

F1アルファロメオのテスト&開発ドライバー、タチアナ・カルデロン。
F1アルファロメオのテスト&開発ドライバー、タチアナ・カルデロン。全 20 枚

ザウバー~アルファロメオでF1のテスト&開発ドライバーを長く務めており、今年は日本のスーパーフォーミュラにも参戦中の女性選手タチアナ・カルデロン。世界上位戦線で活躍する女性選手はまだ稀少な存在、そのひとりである彼女が「これまで」や「これから」について語ってくれた。

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“ヒーロー”は母国コロンビア出身のモントーヤ

南米コロンビア出身、「幼い頃からスポーツが好きでした」というタチアナ・カルデロン(1993年生まれ、現在27歳)は姉の影響でカートに親しむようになったといい、9歳でレースデビュー。ちょうどその頃、コロンビア出身のファン・パブロ・モントーヤがF1に進出、活躍していた(F1デビューは2001年)。F1で通算7勝、インディ500でも優勝(00年と15年、通算2勝)しているモントーヤがカルデロンに及ぼした影響はやはり大きいようで、「私のヒーローですし、今も彼のファンです」とカルデロンは語る。

ちなみに憧れ、あるいは理想とするレーサーにカルデロンは、男性ならもちろんモントーヤ、そして女性ではスージー・ウォルフの名を挙げる。

スージー・ウォルフは、カルデロンがカートからシングルシーター(フォーミュラ系)のレースに上がり、北米、さらには欧州へと活動の場を移していった頃、F1のウイリアムズでテスト&開発ドライバーを務めていた“先達”だ。「彼女(スージー)は私にとって、大きな励みになる存在でした」とカルデロンは話す(近年のスージーはフォーミュラE参戦チームの首脳を務めている。夫はメルセデスF1チームを率いるトト・ウォルフ)。

ステップアップカテゴリーで実績を残したカルデロンは、既に約4年間、ザウバー~アルファロメオでF1のテスト&開発ドライバーを務めている。

「私のことを信じてもらい、ザウバーF1チームに参画する機会を与えていただくことができました。感謝していますし、特別な気持ちです。女性選手として、という部分も含め、私にとって大きな誇りです。ひとつの夢が叶ったともいえるわけですし、光栄な体験をさせてもらっていると思います」

アルファロメオでF1のレースドライバーを目指す

カルデロン参画後、ザウバーがアルファロメオとの関係を深めていくことになり、現在はアルファロメオのF1チーム(今季チーム名:Alfa Romeo Racing ORLEN)として陣営は活動している。アルファロメオの名はF1世界選手権草創期の象徴的ビッグネームであり、もちろん市販ロードカーとしても偉大なブランドである。

「F1においてアルファロメオという名を有する陣営で活動できることを嬉しく、やはり光栄に思っています。今年からはチームのアンバサダーにも任命されているんです。それに、私の父がアルファロメオのスパイダーを所有していました。ですから、私は以前からアルファロメオのファンであり、仮に今の立場にないとしても、それは変わりません。アルファロメオのクルマはデザイン的にも素晴らしいですしね」

「F1のレースドライバーになることが私の(さらなる)夢ですが、それをアルファロメオで叶えられる日が来ることを楽しみにしています。私たちのチームは規模の大きさという面ではメルセデスやフェラーリなどには及びませんが、もっているリソースを最大限に活かす、“引き出す”ということを重要視しており、それが良く機能していると思います。ザウバーとアルファロメオの組み合わせは素晴らしいですし、なによりパッションがあります。自分としてはチームととも成長してきた実感もありますね」

女性ドライバーが男性ドライバーに混じって栄達するのは、いろいろな面で難しいだろう。カルデロンも「ここまで来るのも簡単な道ではありませんでした」と振り返る。

「たとえば、やはり女性は一般的に男性よりも筋肉量が少ないといわれています。女性特有の補完的なトレーニングが必要ですし、なにより(チームスタッフやライバルに)リスペクトをもってもらえるような努力が重要であり、それが私にとって大きなチャレンジでした」

そうした努力が実ったからこそ、カルデロンは自らがF1のコクピットに座ることを実現でき、2019年にはFIA-F2、そして今季2020年は日本のスーパーフォーミュラという国際的上位フォーミュラシリーズにも参戦できるようになった。今年9月にはルマン24時間レースにも女性選手トリオでLMP2クラスに参戦、クラス9位(総合13位)という活躍を見せている。自身の強みは「エンジニアへのフィードバック能力と、レース中の冷静な判断力だと自負しています」。

女性ももっと、自分に自身を

女性ドライバーに関連する話題として最近、女性限定のフォーミュラレース「Wシリーズ」が来季2021年はF1併催になる、という報道が見られた。Wシリーズのような女性限定レースの存在については、女性選手がモータースポーツでさらなる活躍をする未来を創出ためには、全面的に是とはできない、という見方もあり、とても難しい事柄にもなっている。

F2やスーパーフォーミュラに参戦しているカルデロンにとって、Wシリーズは女性限定云々という以前にマシン性能の面で既に参戦対象外といえるシリーズだと思うが、こうしたシリーズの存在について、彼女はどういうスタンスなのだろうか。

「正直なところ、特別な関心はもっていません。それは私が、メンタルも重要でマシンというものが介在するモータースポーツは男女が対等に競えるスポーツである、と思っているからです。女性だけのシリーズというものには、必ずしも賛同できません。とはいえ、女性選手の活躍を見せるということに関して得るものはあるでしょうし、次の世代が育つことにはつながると思います」

実に思慮に富んだ見解であろう。そして、「F1が男女を問わず最も優れたドライバーを決める場であり続けてほしい」という言葉からは、「F1(のレース)ドライバーになる夢を追い続けています」ともいう彼女の決意が強く、深いものであることがうかがえる。

一般道路での運転に自信がもてない女性ドライバーへの助言があるとすれば? との問いに、カルデロンは「自分を信じることが大切だと思います」と答えた。

「(運転に限らず)女性には男性よりも自分に自信がもてない傾向があるのではないでしょうか。限界を決めず、できると信じて、あきらめることなく夢を見続けて努力する、これが私がモータースポーツで学んだ最も大きいことであり、それをしてきたから今ここにいることができているんだと思います」

『Go on chase your dream』(夢を追いかけ続けろ)という言葉が好きだとも話すカルデロン。やはりこの時代に女性レーシングドライバーとして現在の地位を築いた人物ならではの説得力が感じられる(もちろん、彼女のような意識の高い生き方は男女問わず、なかなかできるものではないが)。

日本が大好きに。SFでいい成績を

カルデロンは今季2020年、日本のスーパーフォーミュラ(SF)を主戦場としているが、欧州のレースにも参戦するなどしているため、コロナ禍による移動制限の影響でSFへの全戦参加は叶わない状況となっている(取材時までの4戦中、2戦に出走)。ただ、彼女は「日本が大好きになりましたし、日本に来るというのは私の人生のなかでも最高に良い判断だったと思っているくらいです」と語る。

「日本は美しい国ですし、文化も素晴らしい。外国人も含めて、人を尊重する風土に感銘を受けました。食べ物も素晴らしくて、なにかひとつを選べないくらいですけど、私はウナギが好きです。そして日本以外では食べられない美味しいお寿司も楽しんでいます。日本語ももっとうまくなりたいです(今回の英語インタビューでは、最初と最後の挨拶が日本語だった)」

日本に来たことが人生最高の判断のひとつである、というのは、もちろん日本のお国柄に関しての満足感だけが理由ではない。彼女はSFで継続的にキャリアを積むことを企図しているようだ(アルファロメオF1は来季もK. ライコネンとA. ジョビナッツィが引き続きレースドライバーを務めることが決まっている)。

「今後も(F1のレースドライバーになるという)夢を追いかけていく私にとって、SFはF1への備えという意味で(マシン性能や競技レベルの高さの面で)素晴らしいシリーズです。そして、ここで良い成績を残すことができれば、アルファロメオ(F1チーム)に対しても、私にレースシートを与えてもらうための強調材料になるでしょう。この(SF参戦という)機会を最大限に生かす努力をしていきたい。そして今はコロナ禍で難しくなっていますが、もっと日本のファンと交流していきたいとも思っています」

オンラインでのインタビューセッションが実施されたのは11月24日の夕刻、カルデロンも日本にいるタイミングだった(今季SFは12月に2大会3レースが残っている)。もともとF1チームとの強い関係を築いているドライバーがSFでキャリアアップしてF1のレースシートへ、これは近年の王道のひとつともいえよう。アルファロメオF1チームのレースドライバーという究極の夢に向けて走り続けるタチアナ・カルデロン。今後の活躍にも注目したい存在だ。

《遠藤俊幸》

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