【川崎大輔の流通大陸】タイ、コロナ禍の影響と中古車流通の動き

地方の中古車販売店
地方の中古車販売店全 4 枚

コロナの影響は? タイ自動車市場

タイでは、3月半ばからコロナ感染拡大を受けて、夜間外出禁止令、国内移動制限、商業施設・レストランなどの営業制限のセミロックダウンを実施。年間を通じてタイ国内自動車販売への影響はリーマンショックを上回る前年比25%減に落ち込む可能性が高い。

一方、コロナ禍においてもタイの自動車産業は積極的な動きを見せている。1つ目はThailand4.0に基づき自動車産業を高度化する動きで電動化に向けて進んでいる。2つ目は、新たな自動車販売方法で、オンライン販売や、WEBを通じた顧客とのコミュニケーションが進展。2020年に入り4月まで急減を続けた新車販売だが、5月以降は徐々に持ち直してきている。9月には新車販売台数は前年同月比を超え、キャッチアップしている(図を参照 コロナ禍におけるタイの新車販売推移)。2021年は80万台まで回復すると予想がされている。

コロナ禍のタイ中古車流通市場

2020年11月、タイ中古車販売のオーターを対象に弊社アセアンプラスコンサルティング独自の現地ヒアリング調査を行った。4月が最もコロナ禍による影響を受けたとの回答が多かった。自動車オークションも一時期閉鎖されることになった。消費マインドが下がり、中古車販売店への来店客は4分の1にまで減少。コロナ禍による販売店収益の落ち込みは対前年比で平均40%のマイナス。高級車を取り扱う販売店は60から80%近くの落ち込みとなっている。中古車の価格は20%以上、下落を続けた。

“Bank of Thaikand”が公表している2020年(1~9月)の中古車価格指数は95.4ポイント。コロナにより中古車販売台数が減少した結果、2019年通年の中古車価格指数から3.5ポイントのマイナスだ。直近で最も中古車価格が落ち込んだのは2014年。理由は2011年より行った政府施策ファーストカーバイヤープログラムにより中古車市場にデフォルト車が大量に流入。その結果、中古車流通が急増しダブついたため価格が下がった。現在はその2014年レベルより0.3ポイント中古車価格指数が下落した状況だ。

中古車流通の課題とコロナ対策

タイの中古車販売店でコロナ対策として最も多い行動は、在庫車両の価格を2割以上ディスカウントをして在庫車両を減らしたということだ。特に長期化しそうな在庫に関しては積極的に利益を減らし、大胆なプロモーションを実施。在庫の現金化を優先させていった。更に、タイでは消費者が外出したがらない状況であったため、オンラインを導入し、販売強化を行った。

中古車流通市場全体における課題と対策としては、現在、意図されない流通減少により新車と中古車の価格差が広がった。中古価格の急下落により価格差があまりに広がりすぎると、いびつな市場をつくりあげてしまう可能性がある。新車販売と中古車販売の双方は相関関係になっていることを忘れてはいけない。中古車の価格をしっかりコントロールすることで流通自体の健全化を促進すると同時に新車販売台数の拡大のバリューチェーンを構築することが可能となる。慎重に適正価格に戻す対策が必要で、それには金融・財政などの政府側の政策での対応も必要だろう。

また、近年で中古車市場が悪化した2014年と異なる点は、供給過多ではなく、需要が消滅した状況となっている点だ。市場が在庫を抱えているのではなく、消費が抑制されている。2011年からのファーストカーバイヤープログラムによって消費が過剰に拡大した。それによって特に中間所得層以下では家計の負債比率が高止まりしている。その状況の中で、コロナによる経済自粛がおこり消費マインドが低下した。

中古車流通市場を活性化させるためには、特にコロナの影響を受けた農業を中心とする地方経済の回復、活性化に向けた取り組み実施が重要だ。タイでは首都バンコクから地方へ中古車の流れが加速している。タイ国内の1000人あたり保有台数は日本の約600台に対して約250台程である。一方で内訳を見ると、バンコクが約500台、バンコク以外の地方が約100台である。バンコク中心部においては先進国に近い自動車普及率に近づいており、今後は地方における自動車普及が進む。

日本とタイの中古車流通経路比較

現在の中古車市場は2011年から12年に実施されたファーストカーバイヤープログラムが発端となり変化を続け、2020年に新車市場と同じ調整局面に入った。タイにおける2011年以降の中古車登録台数は180万台から200万台の規模だ。中古車登録台数はオーナートランスファー数つまり、新規登録、移転登録、名義変更の三業務合算の数値となる。そのため、実際の中古車小売台数は更に少ないといういうことは注意が必要だ。タイ現地でのヒアリングによれば名義変更回数は2.5回~3回程だ。タイの中古車販売台数を推測するとすれば、80万台ほどではないかと推測している。タイの新車販売台数を中古車販売台数の比率は約1:1と推計。これに対して、ヨーロッパや米国での比率は約1:2となっている。

冬が近づき世界中で再びコロナの拡大が進んできている。経済活動自粛が再開するか先行きは見えない。足元の販売動向にはバラつきがみられるもののタイ中古車流通規模は欧米に比べてまだまだ小さい。一方、現地ヒアリングによれば、10月に向け徐々に客足は戻り、11月時点でようやく回復基調になってきている。タイにおける中古車流通市場の潜在的成長の可能性は大きく、コロナ以降にビジネスチャンスとなることは間違いない。

<川崎大輔 プロフィール>
大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年半ばより「日本とアジアの架け橋代行人」として、合同会社アセアンプラスコンサルティング にてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。17年に設立した株式会社アセアンカービジネスキャリアでは、ベトナムからの自動車整備エンジニアを日本の自動車関連企業に紹介する外国人紹介を行う。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。

《川崎 大輔》

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