【シビックタイプR リミテッドエディション 鈴鹿試乗】久しぶりに“ホンダのホンキ”を見た…佐藤久実

ホンダ シビックタイプR リミテッドエディション
ホンダ シビックタイプR リミテッドエディション全 32 枚

11月半ば、鈴鹿サーキットで『シビックタイプR リミテッドエディション』の試乗会が開催された。本来、春に開催予定だったが、コロナ禍の影響で大幅に遅れ、ようやくそのパフォーマンスを体感できるチャンスを得た。

さすがホンダ、さすがタイプRのエンジン!

ホンダ シビックタイプR リミテッドエディションホンダ シビックタイプR リミテッドエディション
この日の外気温は13度。この季節としては暖かいが、空気はひんやり冷たい。市販車とはいえ、サーキット走行には注意が必要だ。しかも、足元を見ると装着タイヤは「ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2」。かなりホンキのハイグリップタイヤ。新品かつ、冷えた状態からの走行だったため、ウォームアップラップが1周追加された。コースインしてまずは比較的ゆっくりしたペースでタイヤを温める。が、すでに手応えはしっかりしており、不安を煽るような雰囲気はない。

そして2ラップ目から全開走行となったが、まずはその加速の気持ちよさが印象的。さすがホンダ、さすがタイプRのエンジン!気持ち良く高回転まで回る。そして速い! 1コーナーの飛び込みも安定した姿勢、S字もほぼノーブレーキで速度を維持したままテンポ良く走る。ブレーキを使ったとしてもスキーのストックみたいなきっかけ作りという感じ。舵角は深くはないが、切り始めの初期からレスポンス良く反応していることを物語っている。

ホンダ シビックタイプR リミテッドエディションホンダ シビックタイプR リミテッドエディション
そしてちょっと驚いたのがその先の逆バンク。右コーナーだが名前のとおり、アウト側にカント(勾配)が付いていて、アンダーステアが出やすい。特にFFの場合、アクセルを踏んでいくとプッシュアンダーとなる。しかもその先は登りながらの左コーナー、ダンロップコーナーへと複合的につながるため、なおさら逆バンクはあまりアウトに行きたくない。しかしこのクルマ、こんなシーンでもアンダーステアを気にすることなくアクセルをガンガン踏んで行けるのだ。

このコーナーでこんなに積極的にアクセルを開けていけるFFはそうそうないだろう。タイヤのグリップのみに頼った走りではなく、しっかり旋回モーメントも体感できる。ちなみに、2回目の走行ではタイヤ温度が上がりなおかつ磨耗していたので、多少フロントグリップは落ちていたが、それでも極端なハンドリングの変化は見られなかった。

4つのタイヤがガッツリ路面を掴んでいる安心感

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次なる驚きは、デグナーカーブ。右コーナーが連続する複合コーナーだが、1つ目はなるべく速度を保ったまま進入したい。となるとイン側の縁石に乗ってしまう。すると当然のようにクルマは跳ね、それを押さえ込むようにブレーキングすることになるのだが、このクルマ、縁石に乗ってもしなやかに着地し、何事もなかったかのように安定した姿勢を保つのだ。市販車とはいえ、ここまで見事な脚さばきは体験したことがない。

そして、鈴鹿でもっとも高速コーナーとなる130Rも、4つのタイヤがガッツリ路面を掴んでいる安心感があり、ここまでのコーナーでステアリングレスポンスの高さも確認できているので躊躇なく高いスピードで入っていける。久しぶりにシビックタイプR(今回はリミテッドエディション)でサーキットを走ったが、今まで抱いていたイメージと異なり、高い剛性感、安定感、安心感があり速く走れる、その飛躍的な進化に舌を巻いた。

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しかし、今回のマイナーチェンジでの改良点を見ると、ドラスティックに変わっているわけではない。たとえば、フロントロアボールジョイントのフリクションを低減することにより、ダンパーが滑らかに動き出すことを狙い、前後アームのブッシュを変えることで支持剛性を高めている。もちろん、地道なテスト&開発の過程があっての結果ではあるが、要となるポイントの修正とセッティング変更により、ダイレクト感や追従性、高いトラクション性能を向上している。

また、フロントアッパーグリルの開口部を拡大し、ラジエターの冷却フィンピッチを縮小することで冷却効果を向上。ブレーキディスクを2ピースにして倒れ角を減少している。この辺りは“速さ”というよりも、サーキットでの連続走行時における熱ダレ防止策。ここまでやるか、と思ったが、これはベース車両の話。リミテッドエディションではさらに、専用ホイールを含めた約20Kgの軽量化、専用タイヤの装着とそれに合わせたソフトのアジャストを行っている。久しぶりに“ホンダのホンキ”を見られて嬉しかった。

「鈴鹿サーキットFF車最速」の意地

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やっぱりメーカーとしてのプライドがあるのだろう。リリースに「鈴鹿サーキットFF車最速」と書いてあるのを最初に見たときは、やや違和感を覚えた。というのも、グローバルでは、やはりニュルブルクリンク北コースでのタイムアタックが世にその速さを知らしめる指標となる。そして、日本では富士スピードウェイや筑波サーキットでタイムアタックする車両が多いので、比較しやすく速さがわかりやすくポヒュラーだからだ。

そんな中での「鈴鹿サーキット最速」…。理由はルノー『メガーヌR.S.トロフィーR』の存在だった。昨年、シビックタイプRのタイムを破りニュルブルクリンクでFF車最速を更新したのみならず、ホンダのお膝元である鈴鹿サーキットまで乗り込んでタイムを叩き出していたのだ。そりゃ、黙ってられないよねー。というわけで、そのタイムを更新し、「FF車最速」となったわけだ。

パドックには2.23.9とサインされた車両が誇らしげに展示されていた。ホンダもルノーも市販車ではFFスポーツにこだわり、モータースポーツシーンではF1まで極めるという共通点がある。だからこそ、お互いが切磋琢磨しているこういうガチ勝負は気持ち良い。早くコロナ禍が収束し、シビックタイプR リミテッドエディションがニュルブルクリンクでタイムアタックできるようになって欲しいものだ。

ホンダ シビックタイプR リミテッドエディションホンダ シビックタイプR リミテッドエディション
ところで、このシビックタイプR リミテッドエディションは世界限定1000台、日本では200台が販売され、当然ながら瞬間的に完売となった。本格的な国産スポーツカーが少ないだけに、このパフォーマンスをほんの一部の人しか楽しめないというのは何とも残念な話だ。ベースモデルは限定ではないが、生産しているイギリス工場の閉鎖が決まっている。その後の生産に関して「検討中だがタイプRはやめない。」とのことだが、不確定要素が多いだけに迷っているヒマはない。

「欲しい時が買いどき」。気になる方は即購入をオススメする。

ホンダ シビックタイプR リミテッドエディションと佐藤久実氏ホンダ シビックタイプR リミテッドエディションと佐藤久実氏

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★

佐藤久実|モータージャーナリスト
大学在学中にレースデビュー。耐久レースをメインに活動。海外の24時間レースでも入賞を果たす。レースで培ったスキルをベースに、ドライビング・インストラクターとしても活動。ホンダ・ドライビング・ミーティング、ポルシェ・ドライビング・スクール、BMWドライバートレーニング、VWエコドライブトレーニング、ブリヂストン・タイヤセーフティ・ドライビングレッスンなどでインストラクターを務める。レーシングドライバーとしてのホットな目、ジャーナリストとしてのクールな目、そして女性目線からクルマを評価、自動車専門誌への執筆をはじめWEBやテレビでも活動。東海大学工学部動力機械工学科非常勤講師、芝浦工業大学特別講師。

《佐藤久実》

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