【ホンダ アコード 4100km試乗】アコードはホンダのフラッグシップと成り得るか[前編]

ホンダ アコード EXのフロントビュー。アメリカでは1.5リットルターボ、2リットルターボ、ハイブリッドの3本立てだが、日本ではハイブリッドのみが販売される。
ホンダ アコード EXのフロントビュー。アメリカでは1.5リットルターボ、2リットルターボ、ハイブリッドの3本立てだが、日本ではハイブリッドのみが販売される。全 38 枚

ホンダのミッドサイズセダン『アコードハイブリッド』で4100kmほどツーリングする機会があったので、インプレッションをお届けする。

アコードは1976年にホンダが『シビック』の顧客の上級以降の受け皿として登場させたブランドで、現行で第10世代を数えるというそこそこ長い歴史を持つ。その足跡は最大のライバルであるトヨタ『カムリ』と同様、北米戦略と深い関連性があり、1993年デビューの第5世代で普通車サイズ化。その後、第6世代で日本仕様を小型車サイズに戻したものの、第7世代以降は3ナンバー専用車となり、現在に至っている。

現行の第10世代は北米市場で2017年にデビューしたモデル。日本では第9世代をハイブリッド専用モデルとして販売継続していたが、2020年にタイ生産の右ハンドルモデルを輸入販売するという形でフルモデルチェンジした。

ホンダの情報筋によれば、この第10世代は日本投入未定となっていたが、国内営業を担当していた女性執行役員がタイ生産モデルを見て発した「これを売ればいいじゃない」の一言で急きょ発売が決まったという。第9世代と同様、日本ではハイブリッド専用モデルである。

現行モデルは「EX」の1グレードで、試乗車もそれ。最初からサンルーフ、電子制御サスペンション、レザーシート、ADAS(運転支援システム)など、いわゆる全部入りの豪華版である。試乗ルートは東京~九州の周遊で、総走行距離は4088.6km。最遠到達地は本土最南端の佐多岬。道路比率は市街地2、郊外路5、高速2、山岳路1。乗車人員は本州内1名、九州内1~4名。エアコンAUTO。

論評に先立って、アコードの長所と短所を5つずつ列記してみよう。

■長所
1. 掛け値なしに素晴らしいパフォーマンスの電動パワートレイン。
2. 優秀なロードノイズ低減。
3. 南国の陽の下で映える伸びやかきわまりないボディフォルム。
4. 広大なトランクとゆとりたっぷりの車室の両立。
5. 高速で光る優秀な直進安定性。

■短所
1. 伸びやかで魅力的なフォルムを台無しにする不細工なフェイスとテール。
2. 路面が悪い区間での快適性の落ち幅が大きめ。
3. 旧アコードの初期型に比べて若干低下した実効燃費。
4. インテリアの仕上がりは大衆車の域を出ず。
5. ADAS「ホンダセンシング」がいまひとつ精度に欠ける。

アコードはフラッグシップと成り得るか

ホンダ アコード EXのサイドビュー。北九州の門司にて。ホンダ アコード EXのサイドビュー。北九州の門司にて。
ホンダにとってアコードは悩ましいクルマである。ホンダほどの企業にとっては、ブランドパワーを向上させるうえでこのクラスをやらないという選択肢は取りづらい。が、グローバルのラインナップを見回しても、ハイブリッドパワートレインを持つなど日本への適合性が高い高級車を持たない。プレミアムラージクラスの『アキュラRLX』を『レジェンド』として販売しているが、旧態化が進んでいることもあり、存在感は皆無に等しい。

アコードはアメリカではノンプレミアムの大衆車で、日本市場におけるフラッグシップを務めるには本来力不足だ。日本での生産体制の縮小に伴ってアコードの国内生産も終了した今、このまま引っ込めるという手も考えられたのだが、前述の役員の一言もあり、全長4.9mという立派な体躯とホンダの看板技術のひとつである電動パワートレイン「i-MMD」あらため「e:HEV」をはじめとする先進技術を盛り込むことで、何とかもう一度ホンダのフラッグシップという大役を担わせることにチャレンジしようという、まさに苦肉の策と言える。

果たして日本向けアコードはその役割を務められるようなモデルになったのか。フラッグシップ=高級車という図式であるなら、到底無理だ。レザーシート、サンルーフ、ネットワーク接続型のカーナビ等、装備は一通り盛られてはいるが、今どきのクルマづくりの進歩のスピードはとてつもなく速く、その程度のものはあってよかったとは思われても感動を巻き起こすようなものではない。ダッシュボード、計器盤、シート表皮、トリム類などはデザインも質感もノンプレミアムの域を出ない。これで高級車を名乗ったら、むしろホンダの名折れというものであろう。

フロントシート。厚みは十分で、疲労蓄積はミッドサイズの基準を十分クリアしていた。フロントシート。厚みは十分で、疲労蓄積はミッドサイズの基準を十分クリアしていた。
だが、フラッグシップ≠高級車という図式で見ると、話はちょっと違ってくる。アコードのフォルムはトランクとキャビンを明確にしないもので、セダンとしてはインフォーマルな部類だ。セダンの売れ行きが落ちている今、セダンのデザインの目先を変えることは大なり小なりどこのメーカーでもやっていることだが、その中でもアコードが醸し出す雰囲気は結構独特だ。

ツーリングの最遠到達地点は日本本土最南端の佐多岬。鹿児島市は普通の九州南部という感じなのだが、南下して薩摩・大隅両半島の南端に近づくと、太陽の光や海の色、生えている植物の相が急に種子島・屋久島をはじめとする大隅諸島に近いものになっていく。そこに行ってアコードを見てみると、伸びやかながら硬質な印象のあるエクステリアが強烈な陽光やブルースカイが似合う似合う。うーん、これはカリフォルニアだねーロサンゼルスだねーパシフィックコーストだねーといった気分である。

フォルムを台無しにするフロントフェイスとテールエンド

フロントフェイスを斜め方向から。メッキパーツが少々うるさく、目ヂカラをスポイルしている。メッキの質感も少々安っぽい。フロントフェイスを斜め方向から。メッキパーツが少々うるさく、目ヂカラをスポイルしている。メッキの質感も少々安っぽい。
クルマに備えられていたカタログを開いてみたところ、エクステリアデザインのところで森川鉄司氏の名を見つけた。これは懐かしい。2007年の東京モーターショーでコンセプトカー『CR-Zコンセプト』を手がけたデザイナーである。イタリアのカロッツェリア、I・DE・Aに留学していた森川氏はそこでデザインプロセスの違いを目の当たりにして驚愕したと語っていた。

CR-Zコンセプトはイタリアのデザインスタジオで行われている手法を、当時六本木にあった先行デザインスタジオでどれだけ再現できるかということも含めてのチャレンジであったのだという。残念ながら市販化されるときにはそのエッセンスは微塵も残らなかったが、コンセプトは見事だったので、当時撮影した写真を併載しておく。

ホンダ CR-Zコンセプト(2007年)ホンダ CR-Zコンセプト(2007年)
アコードのボディの伸びやかさと硬さを併せ持つ独特の質感は森川氏が手がけたのか、さもありなんと、妙に納得した次第だった。

惜しいのは、そのフォルムをフロントフェイスとテールエンドが台無しにしてしまっていたこと。テールエンドはまだいい、このデザインにこの顔はない。前後方向の伸びやかさが命なのに、フロントエンドがその流れをダムのように止めてしまっている。左右のヘッドランプとグリルをブーメランのような一体エリアにまとめる、ホンダが言うところの「ソリッドウイングフェイス」のデザインフィロソフィーそのものも、コンパクトカーまでならいいかもしれないが横幅が出せるミッドサイズ以上にはあまり合わない。

現代においては大抵のメーカーが顔を似たものにするアイデンティティマスクを採用している。ブランドの統一性を表現するのにうってつけの方法なのだが、基本デザインがカッコ悪ければ致命傷になりかねないし、かりにデザインそのものが良くても束縛性が強いとあるクルマには似合っても他のクルマにはにあわなかったりといった問題が起こる。

ホンダは『NSX』でもヘッドランプをアキュラのデザインに合わせていた。NSXをアキュラの宣伝のために作ったというのなら致し方ないが、世界のエキゾチックカーと戦うためのクルマであるならば、この顔はないわと思ったものだった。

大排気量V6エンジンへのノスタルジーをぶっ飛ばす

2リットル+2モーターのハイブリッドパワートレイン。力感は満点。エンジンもミラーサイクルとしては異例の快音で、すこぶる気持ち良かった。2リットル+2モーターのハイブリッドパワートレイン。力感は満点。エンジンもミラーサイクルとしては異例の快音で、すこぶる気持ち良かった。
そんな無念な部分もあるにはあるが、アコードのカリフォルニアルックは魅力的な要素も多々含んでいると思う。1クラス下の『インサイト』もなかなかアメリカンだったが、アコードのダイナミズム、躍動感はその上を行く。

ホンダが昔のように遊びゴコロのあるブランドというふうに思われていたら、そして、これで希望小売価格がせめて400万円前後だったら、そういう商品性を前面に出して高額車を売るという難しいチャレンジも、あるいは可能だったかもしれない。そういう意味では、ホンダが自らの立ち位置や、自分が本心ではどういう存在になりたいかということについて熟考する良い機会とすべきモデルとも言える。

性能はノンプレミアムのアメリカンミッドサイズとしてはきわめて高い。とくに優秀さが際立っていたのはi-MMDあらためe:HEVと名付けられた2モーター式のシリーズ・パラレルハイブリッドパワートレインだった。システムの詳細はすでにいろいろなところで紹介されているので割愛するが、システムの基本形が出てきた2013年当時に比べ、パワーフィール、ノイズリダクションとも長足の進歩を遂げた。

搭載されてるのは『ステップワゴンハイブリッド』と並んで最もパワフルな、135kW電気モーター+2リットルエンジンという組み合わせのものだが、ステップワゴンより250kgほど軽い車両重量がモノを言っているのか、エンジンによる発電の立ち上がりのレスポンスが改良で向上したためか、加速感、スロットルを踏んだ時のタイムラグともに優秀。大排気量V6エンジンへのノスタルジーをぶっ飛ばされる思いであった。

若干の登り勾配というシチュエーションにおける0-100km/h加速の実測値は、スロットルを踏んだ瞬間から実速度100km/h(メーター読み105km/h)までが7秒7。メーター指針動きはじめからメーター読み0-100km/hだと7秒1。平坦地なら余裕で6秒台に入るだろう。

パワーの出し方、サウンドは気持ちいい

山口・角島にて。砂の色が白に近いため、海がエメラルド色に。山口・角島にて。砂の色が白に近いため、海がエメラルド色に。
絶対的な加速性能も十分に良いが、アコードで素晴らしく感じられたのはそれよりもパワーの出し方だった。電気モーター駆動は広い範囲にわたってフルパワーを出せるが、そのぶん加速感がのっぺりした感じになりやすい。が、アコードはそうではなかった。スピードが上がるにしたがって上に伸び切っていくようなフィール。電気VTECとでも言いたくなるような爽快さを覚えさせる制御となっており、気持ち良いことこのうえなかった。

もう一点、気持ち良く感じられたのは2リットル直4ミラーサイクルエンジンのサウンド。高膨張比のミラーサイクルはガサガサした音になりやすいのだが、このエンジンは“クォォーン”と、実に小気味の良い乾いたサウンドを発した。エンジンは低負荷でのクルーズ時など条件がそろったとき以外は発電用に用いられるため、ステップ変速のようなキレの良さを感じさせる回転の上下動はない。CVT(無段変速機)のようにデマンドにしたがってやるべき仕事をやるだけだ。

それでも実際に乗っているとエンジン回転だけが上がってパワーがついてこないようなフィールはない。もちろんバッテリーからの放電もあるのだが、パワードライブ時のフィールはエンジンの作動と駆動力が密接にリンクしたような印象。アクセルペダルを介したパワーコントロール性も良好で、クルマを操っている実感を得られやすかった。

パワーが上がったぶん、燃費を伸ばすのは難しい?

燃費は全般的に良好だった。写真は最良値だった愛知・幸田~静岡・沼津区間。燃費は全般的に良好だった。写真は最良値だった愛知・幸田~静岡・沼津区間。
燃費はこのクラスのハイブリッドカーとしては十分に良い数値。東京を出発後、最初の給油は新東名をはじめとする高速道路と一般道の混合ルートで1181.5km走った北九州の門司。給油量は48.8リットルで、満タン法による実測燃費は24.2km/リットル。そこから九州内の長距離移動ののち鹿児島市内をしばらく走行した433.5km区間が22.0km/リットル…といった具合。

長距離がおおむねリッター22~24km/リットル、市街地は混雑状況によって15~18/リットルと変動するという感じである。ワンタンクの最長航続レンジは最初の1181.5kmだった。

筆者は2014年のちょうど同じ季節に旧型アコードの初期型でも東京~鹿児島の往復を行っているが、そのときはエコノミーモードでの往路が26.3km/リットル、帰路がノーマルモードで25.6km/リットル。帰路は鹿児島から東京まで寄り道をせずに走行し、1449.5kmの無給油踏破を達成した。

新型の実測燃費が旧型より低いのはその時より走行ペースが速かったこともあるが、短距離エコランを試してみた感じでは、パワーが上がったぶん旧型ほど燃費を伸ばすのは簡単ではないという感触。燃料タンク容量が60リットルから48リットルに減ったこともあり、東京~鹿児島無給油のような芸当はさすがにできなくなった。

後編ではシャシー、居住性&荷物の積載性、ADAS、セダン考などについて述べたいと思う。

大隅半島・大根占にて日没を迎えた。南海の薄暮の光の中ではアコードのフォルムや面のディテールがことさら特徴的に浮き立った。大隅半島・大根占にて日没を迎えた。南海の薄暮の光の中ではアコードのフォルムや面のディテールがことさら特徴的に浮き立った。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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