100年に一度の変革とは? ソフトウェア化・プラットフォーム化の次にくるオープン化…PwCコンサルティング合同会社 川原英司氏[インタビュー]

100年に一度の変革とは? ソフトウェア化・プラットフォーム化の次にくるオープン化…PwCコンサルティング合同会社 川原英司氏[インタビュー]
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自動車業界は「100年に一度の変革期」とよく言われる。しかし、変革の全体像は見えにくい。正直なところ「変革が起こっていることはなんとなく感じているが、何が変わるのか、それがどう仕事に影響するのか実感がない」状態にある人も多いだろう。

この変革は、まったく新しいなにかが起こっているのではなく、「すでに他の業界で起きてきたことだ」と言うのはPwCコンサルティング合同会社パートナーの川原英司氏だ。自動車業界の変革も4IR(第4次産業革命)の流れで捉えることができる。すでに革命が起き、構造改革が進んだ産業を見れば、自動車業界の産業構造がどう変わるのかもわかると言う。

川原氏は、2月24日開催のオンラインセミナー 「モビリティ産業の構造変化の中で見直しを迫られる戦略ポジショニング」に登壇し、事例を交えて講演する予定だ。セミナーの前に話を聞いた。

---:早速ですが、セミナーではどんなことを話されるのでしょうか。

4IR(第4次産業革命)は、様々な技術革新によって引き起こされた産業界のパラダイムシフトです。AI、ロボティクス、IoT、AR/VR、3Dプリンタやブロックチェーンなどのデジタル技術をはじめ、革新的マテリアル、次世代エネルギー技術(回収・貯蔵・再生技術やヴァーチャルパワープラントなど)といった新しい技術が、様々な業界の産業構造やビジネスモデルに影響を与えている結果と見ることができます。

モビリティ領域で見てみると、まず自動車業界内で製品の電子化やモジュール化が進み、それらがつながってE/E(電子/電気)アーキテクチャに進化していきます。この過程でソフトウェア化も加速し、コネクテッドや自動運転技術を支えます。コネクテッド機能を持つ車は他の製品群とともにアプリケーションやサービスプラットフォームに接続され、IoTの世界の一部となります。サービスプラットフォームにつながったコネクテッドカーは、シェアリングや移動サービス、運行管理、保険や金融を含むビッグデータビジネスにも広がっています。

---:第4次産業革命は工業を中心に文字通り産業界全体の変革です。他の業界でも自動車業界での変化と同じものが起きているのでしょうか。

はい。FAや産業用ロボット、建設機械、モバイル業界などでも同様です。これらの産業では、すでに構造変化が始まっており、自動車業界より先行しています。FA・産業用ロボットでは、変化のプロセスは1990年代から始まっており、すでに第4次産業革命がもたらす変化である「オープン化」が進んだ状態と言えます。

技術革新から第4次産業革命が起こるまでのプロセスには、共通する3つのキーファクターがあります。ソフトウェア化、プラットフォーム化、オープン化です。これらはこの順番で進んでいきます。

過去に発生した構造変革を見ていけば、これから自動車産業で起こる構造変革(第4次産業革命)がどのようなものになるかの参考にもなります。

---:過去の構造変化では、どんな変化が起きていたのでしょうか。

FA・産業用ロボットの業界で見ていきましょう。この業界ではいち早くコンピュータ制御が採り入れられました。CNCと呼ばれるソフトウェアによる産業機械制御の自動化技術です。どの産業でもそうですが、コンピュータの導入によるソフトウェア化がまず起きます。ソフトウェア化は業界全体に広がり、最初は各社が競ってCNC技術やプログラムを投入しそれを高度化して いきます。

しかし、バラバラな仕様や技術が広がることで効率が悪化し、開発リソースが不足したり、コストが嵩むようになったりします。FA領域ではCNCツールキットが開発され、ロボット制御の環境が統合されてきました。顧客工場ごとに類似しプログラミングを個別に行うのではなく、開発や設計の土台となるプラットフォームを共通化することで、まずはロボットメーカー自社内の生産性が向上します。

このプラットフォームは、最初はモジュール化による効率アップや顧客・開発パートナーの囲い込みとして機能しますが、徐々に課題を抱えることになります。様々なメーカーの様々な機器とつながるIoT化やクラウド対応などのニーズが、自社標準のプラットフォームのオープン化を推進する圧力になるからです。
こうして、FA・産業用ロボット業界では、様々な機器がつながり、様々な アプリケーションが開発・実装できるオープン化されたプラットフォームの活用が広がりつつあります。

---:なぜ、プラットフォームをオープンにするのでしょうか。

その方が、産業全体が活性化され市場が広がるからです。仮にプラットフォームをオープンにすることで自社製品の市場シェアが落ちたとしても、中長期の戦略では正しいと言えます。IoTやクラウドによるサービス提供が可能な範囲 が潜在的に広がっているにもかかわらず、クローズドなプラットフォームではその活用可能範囲が限定的になったり、他社製品のユーザーに使ってもらえないからです。製品ではなく、活用価値の大きいオープンなプラットフォームで顧客に入り込むことで、事業領域を広げ、新たなビジネスを取りに行くという考え方です。

建機業界でも、GPSやネットワーク技術を応用したソフトウェアが広がったのち、それがサービスとハードウェアをつなぐプラットフォームに進化し、IoT化していきました。さらに、コネクテッド機能がない旧モデルの建機や他社の機器でも、サービスプラットフォームにつなげてIoT活用できる「i-Construction) に対応させるための機器や仕組みが登場するなど、プラットフォームのオープン化が進んでいます。

オープン化によって新規参入者が増えることで、これまで顧客や市場にならなかった層が産業用ロボットや建機を使って事業を拡大するようになります。オープンな開発環境が提供されることで、新たなサービス提供者や製品提供者も増え、競争の中でより良いサービス・製品が広がります。結果として、集まるデータも増え、それがまた新しい技術開発やサービスにつながるという循環ができ、市場・ビジネスが拡大していきます。

---:自動車業界はまだその段階に達していないのでしょうか。

自動車業界もソフトウェア化がかなり早い段階から進んでいます。モジュール化も進んでおり、車両開発ではAUTOSARのような車載ソフトウェアの標準プラットフォームが広がり、一部OEMは、運行管理や整備・カスタマーサポート、モビリティビジネスに対応できるサービス面のプラットフォームを発表しています。

モビリティプラットフォームのオープン化を掲げるOEMもありますが、自動車業界のオープン化は実態としてはまだ始まったばかりで、これからの領域です。製品のE/Eアーキテクチャの進化や、業界横断的な類似機能の搭載の拡大、データプラットフォームを活用したサービスの広がりによって、オープン化が進んでいくでしょう。

---:他産業の動きから、自動車業界にはどんな変化が訪れるのでしょうか。

オープン化の背景にはIoTやサイバーフィジカルシステムといった、データやソフトウェアをベースとした技術革新があります。技術変革に対応しようとする事業者としての努力が、結果として構造変化を生んでいます。ソフトウェア化が進んだ際のプラットフォーム化も事業者 のコストダウンや効率化のニーズによるもので、ユーザーや消費者にとって直接目に見えるものではありませんが、業界の構造は変わっていきます。

自動車業界の構造変化も、こうしたバリューチェーンの各階層で起きると考えられます。従来の自動車業界の巨大なバリューチェーンは、製品を作って売るために長年かけて作り上げられたものです。技術革新やそれによる構造変化によってこのチェーンの分断が容易となることで、チェーンの特定機能をビジネスとして成立させられる可能性や外部を活用する可能性も高まります。

また、クルマの企画・開発から、素材・部品、製造、販売・メンテナンスなどまでスムーズにつながって流れるように設計されていたバリューチェーン の各機能において、それをサポートするようなプラットフォーム機能を提供するような事業の可能性も高まります。設計開発の環境を提供するプラットフォーム、標準化 されたハードウェアとしての車体プラットフォーム、データセキュリティプラットフォーム、通信プラットフォームといった各種プラットフォーム機能が、既存のバリューチェーンごとに多層レイヤーとして構成されるイメージです。

---:バリューチェーンが変革する中で、自動車業界のとるべき戦略はどのようなものでしょうか。

分断されつつも多層化した機能レイヤーの中で、自動車OEMやサプライヤーがどのようなポジションを選択するのかが今後の戦略の要になると思っています。特定レイヤーのキープレイヤーになるのか、システムの統合をマネジメントするのか、サービスプロバイダーになるのか、など戦略は複数あります。チェーンのすべてをカバーする必要はありません。見方を変えると、他社の機能を活用しやすい構造になってくるので、自社が集中すべき領域を見極め、その領域では他社への機能提供にも積極的に対応する一方で、他社の機能の活用を最適化する必要があります。

セミナーでは、レイヤーごとの役割や機能を詳しく説明できると思います。

以上の内容とOEMやサプライヤーが取るべきポジション戦略については、川原氏が登壇する2月24日開催のオンラインセミナー 「モビリティ産業の構造変化の中で見直しを迫られる戦略ポジショニング」で詳しく語られる予定だ。

《中尾真二》

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