「ジャガーは全てEVに」プラットフォームから見えるジャガー・ランドローバーの戦略とは

電動化に対応するジャガー・ランドローバーの軽量プラットフォーム。同社はEV化を急ぐ
電動化に対応するジャガー・ランドローバーの軽量プラットフォーム。同社はEV化を急ぐ全 16 枚

ジャガー・ランドローバー(JLR)の新グローバル戦略「REIMAGINE」。2月15日にティエリー・ボローレCEOが発表した内容のなかで、製品視点で注目したいのは次の4点だ。

・2025年からジャガーはオールEVの高級車ブランドになる。
・開発中のXJ後継車は新しいラインナップには含まれない。
・今後5年間でランドローバーは6車種にピュアEV仕様を展開し、その第一弾は2024年に発売する。
・2030年までに全車種でEVを選べるようにする。

次世代ジャガーはEV専用プラットフォーム

EVとして登場したジャガー I-PACEEVとして登場したジャガー I-PACE
現行ジャガーのプラットフォームは、『XJ』が「D2a」、『Fタイプ』が旧XKから進化した「D6a」、『XE』と『XF』と『F-PACE』が「D7a」、EVの『I-PACE』が「D7e」、『E-PACE』が「Premium Transverse Architecture=PTA」と多岐にわたる。

それに対してオールEVとなる次世代ジャガーは、たったひとつのプラットフォームに集約する。ジャガーの独自性を高めるためランドローバーとは共用せず、I-PACEの「D7e」とも違うEV専用プラットフォームを新開発する。まだ固有の名称は明らかではなく、ボローレCEOはスピーチで「a pure electric architecture」と呼んでいた。

XJ後継車は、新世代プラットフォーム「Modular Longitudinal Architecture=MLA」を採用したピュアEVになる計画だった。しかし「REIMAGINE」では「MLA」をランドローバー専用とし、試作車まで進んでいたXJ後継車のプロジェクトを打ち切るという大ナタを振るった。

ジャガー XJ 後継モデルのフルEV化は見送られた。写真は現行モデルジャガー XJ 後継モデルのフルEV化は見送られた。写真は現行モデル
新しいEV専用プラットフォームは当然ながら、サイズの異なる複数車種に対応できるフレキシブルなものになるはず。ただし、ボローレCEOは「XJの車名は残すかもしれない」と語る一方、ランドローバーとプラットフォームを共用しているF-PACEとE-PACEの後継車は開発しないという。ジャガーの独自性のために、SUVはランドローバーに任せる方針だ。

「劇的に美しい自動車体験を創造することによって生活を特別なものにするために、ジャガーは存在していく」とボローレCEO。セダンだけのラインナップになるのか、それとも美しいクロスオーバーもあるのか? いずれにせよ「ジャガーのラインナップは現状よりコンパクトになるだろう」とのことだ。

ランドローバーのEV第一弾はレンジローバーか?

今後5年間で6車種にピュアEVを設定するランドローバー。ジャガーを含めたプラットフォーム戦略とは今後5年間で6車種にピュアEVを設定するランドローバー。ジャガーを含めたプラットフォーム戦略とは
ランドローバーは現在6つのプラットフォームを持つが、今後のニューモデルは「MLA」と「Electric Modular Architecture=EMA」の2つを使う。

「MLA」はハイブリッドとピュアEVの両方に対応するフレキシブルなプラットフォーム。「EMA」は電気駆動を重視しながらハイブリッドも積めるというプラットフォームだ。つまり、「今後5年間でランドローバーは6車種にピュアEV仕様」という発表は、EV専用車ではなく、同じボディでハイブリッドとEVの両方を用意することを意味する可能性が高い。

現行の「D7系」プラットフォームは「Premium Lightweight Architecture=PLA」と総称される。中大型車向けのアルミボディ・プラットフォームだ。公式発表ではないが、「MLA」は「PLA」の後継プラットフォームと考えるのが自然だろう。

レンジローバーレンジローバー
モデルサイクルの順番から考えて、「MLA」は次期型『レンジローバー』と共に登場するはずだ。現行レンジローバーは2012年にデビュー。次期型は早ければ今年中にも発表されそうだが、「ランドローバーのピュアEV仕様の第一弾は2024年」とのことだから、まずはハイブリッドを先行させてからEV仕様を追加というプロセスになるのだろう。

順番通りなら、レンジローバーに続いて『レンジローバー・スポーツ』、『ディスカバリー』、『レンジローバー・ヴェラール』が5年以内(2026年まで)に「MLA」プラットフォームの次期型にフルチェンジする。ヴェラールは2017年デビューだから、26年までに9年間という充分に長いモデルライフを全うできる。しかしここまで4車種。「6車種にピュアEV仕様」に2車種たりない。

次期型イヴォークは「EMA」プラットホーム?

レンジローバー イヴォークのPHEVレンジローバー イヴォークのPHEV
では、「EMA」プラットフォームはどんな車種展開になるのか? コンパクトな『レンジローバー・イヴォーク』やディスカバリー・スポーツの現行モデルは、スチール骨格を基本とする「PTA」プラットフォーム使う。JLRがフォード傘下だった時代のフォード製プラットフォームを大幅モディファイしたのが、初代イヴォーク/初代ディスカバリー・スポーツの「D8」。その進化版が「PTA」だ。

つまりランドローバーの現行プラットフォームはアルミの「PLA」と、「D8」から進化したスチールの「PTA」に大別できる。「PLA」の後継が「MLA」だとすれば、「PTA」の後を受け継ぐのは「EMA」ということになるだろう。

現行イヴォークは初代から7年後の2018年にデビューし、現行ディスカバリー・スポーツは2019年に5年ぶりにフルチェンジした。モデルサイクルから考えて、それぞれの次期型は26年までに間に合いそうだ。「EMA」を使ってEV仕様を用意すれば、「6車種にピュアEV仕様」という目標は達成される。

次期型ディフェンダーは2030年?

ランドローバー ディフェンダーランドローバー ディフェンダー
ランドローバーの車種群で最新モデルは、2019年にデビューした現行『ディフェンダー』。プラットフォームは「D7系=PLA」の「D7x」だ。次期型は「MLA」を使うことになるが、もともとロングライフなディフェンダーだけに、26年までのフルチェンジは考えにくい。

だから、「2030年までに全車種でEVを選べるようにする」なのだろう。ハイブリッドとEVを揃える次期型ディフェンダーは、2030年までに登場するはずだ。ただし不確定要素もある。

ランドローバー・ブランドはディスカバリー、レンジローバー、ディフェンダーの三本柱で構成されているが、ディフェンダーは1車種だけ。それを「柱」として揺るぎないものにするには、新規車種の追加があって然るべき。だからディフェンダーの弟分について噂が絶えない。もし弟分が2026年より早い段階で登場するとなれば、前述した「6車種にピュアEV仕様」の推測が変わってくる。

さぁ、どうなるか? 「REIMAGINE」の進展を注視していきたい。

ジャガー Fタイプとレンジローバージャガー Fタイプとレンジローバー

《千葉匠》

千葉匠

千葉匠|デザインジャーナリスト デザインの視点でクルマを斬るジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工業意匠学科卒業。商用車のデザイナー、カーデザイン専門誌の編集次長を経て88年末よりフリー。「千葉匠」はペンネームで、本名は有元正存(ありもと・まさつぐ)。日本自動車ジャーナリスト協会=AJAJ会員。日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードでは11年前から審査委員長を務めている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

+ 続きを読む

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

アクセスランキング

  1. 40アルファードの静粛性が一変!調音施工で快適性が飛躍的に向上
  2. トヨタ カムリ 新型、全車ハイブリッドに…今春米国発売
  3. トヨタ『スターレット』復活! 2026年デビューか?
  4. 【ホンダ N-BOX 新型試乗】アイデアの詰まった使い勝手はまさに「ニッポンの国民車」だ…中村孝仁
  5. ジムニー愛好者必見! ベルサスVV25MXが切り拓く新たなカスタムトレンドPR
  6. シトロエンの新デザイン採用、『C3エアクロス』新型を欧州発表
  7. レゴ ブロック初心者再び! セナが愛用した「マクラーレン MP4/4」を組み立ててみたら感激した
  8. レクサス『GX』通常販売は今秋に、先行して100台を抽選販売へ 価格は1235万円
  9. [15秒でわかる]トヨタ『4ランナー』新型…オフロード仕様のTRDプロを設定
  10. 【NLS第1-2戦】NLS耐久シリーズ開幕戦で優勝!「PROXES Slicks」でニュルを快走、週末の24時間耐久予選レースにも期待PR
ランキングをもっと見る