【ホンダ N-WGN 4200km試乗】壮絶バーゲン価格を思えば、これ以上何を望むのか[前編]

ホンダ N-WGN L Honda SENSINGのフロントビュー。広さ、走り、経済性、装備、運転支援システムの機能等々のトータルバランスに優れ、130万円台のクルマとしてはほぼ最高のトランスポーターというのが総合的印象。
ホンダ N-WGN L Honda SENSINGのフロントビュー。広さ、走り、経済性、装備、運転支援システムの機能等々のトータルバランスに優れ、130万円台のクルマとしてはほぼ最高のトランスポーターというのが総合的印象。全 28 枚

ホンダの軽トールワゴン『N-WGN(Nワゴン)』で4200kmほどツーリングを行う機会があったので、インプレッションをお届けする。

ホンダの新世代軽自動車「Nシリーズ」の第3弾としてNワゴンの第1世代モデルが登場したのは2014年。第2世代にバトンタッチされたのは5年後の2019年だが、プラットフォーム、エンジンとも第2世代『N-BOX』と共通の新規品に刷新されるという、2、3世代キャリーオーバーが当たり前という軽自動車の世界では異例のゴージャスなフルモデルチェンジだった。装備的にも全周エアバッグ、ステアリング制御つきの運転支援システム「ホンダセンシング」などが全車標準であるなど、ホンダの並々ならぬ意気込みが感じられるモデルとなった。

Nワゴンには丸目ヘッドランプの大人しい標準型と多灯型LEDランプを持つデザイン性重視の「カスタム」があるが、今回試乗したのは標準型の「L Honda SENSING」。エンジンは0.66リットル自然吸気、駆動方式はFWDというベーシック仕様である。ドライブルートは東京~鹿児島周遊で、総走行距離は4198.4km。本州内は往路、復路とも東海道~瀬戸内経由。九州内は往路が西海岸、復路が宮崎~大分経由の東海岸というルートを取った。

まず、Nワゴンの長所と短所を5つずつ列記してみよう。

■長所
1. 居住区と荷室のバランスが見事で、絶対的な室内容積も十分な秀逸パッケージング。
2. 操縦安定性に優れる。とりわけ高速クルーズは秀逸。
3. 軽の自然吸気モデルの中では図抜けて高性能なエンジン。
4. CVTのシフトスケジュールのクセを掴めば非常に良好な燃費。
5. 格安車なのにステアリング制御ありの運転支援システムが付く。

■短所
1. 内装の質感はトールワゴンの競合モデルに全敗している感。
2. 小物入れ等、居住区の収納スペースは平均以下。
3. N-BOXに比べると振動、騒音は大きめ。
4. 好みの問題ではあろうが、フロントマスクがTED2みたいで少々ぶちゃいく。
5. CVTのセッティングが少々ルーズで漫然運転だと燃費は平凡。

「大きく使える小さなクルマ」の集大成

ホンダ N-WGN L Honda SENSINGのリアビュー。デザイン面の遊びゴコロはほとんど感じられない。ただ、ボディのサイドパネルの湾曲など妙にコストがかかっていると感じられる部分も多々あった。ホンダ N-WGN L Honda SENSINGのリアビュー。デザイン面の遊びゴコロはほとんど感じられない。ただ、ボディのサイドパネルの湾曲など妙にコストがかかっていると感じられる部分も多々あった。
筆者がNワゴンの下位グレードで長距離ドライブを試してみようと考えたきっかけは、2020年春に第2世代のN-BOXで700kmほどプチ遠乗りしたこと。コーナリングは苦手だが、フラット感は同社の中上級クラス『インサイト』『アコード』に勝つのではないかというくらい高く、乗り心地は秀逸、静粛性も驚くほど。それこそこのクルマでどこまでも走って行きたくなると思わされるものがあった。

NワゴンはそのN-BOXとプラットフォームを共有するスイングドアのトールワゴンだが、価格は同等装備グレード同士で比べてNワゴンのほうが20万円ほど安い。もしこれで乗り味がN-BOXと同じなら、日常使いのクルマとしてもツーリングギアとしてももはや無敵なのではないかと考えたのだ。

果たして実際にドライブしてみると、動的質感はN-BOXとはまるで別物で、軽自動車の域にとどまっていた。20万円の価格差によって生じる違いは全高とスライドドアの有無だけではなかったようだ。スペックシートを見てもN-BOXが前後サスペンションにスタビライザーを備えているのに対し、Nワゴンは前のみであるなど、結構違いがある。

が、それでもNワゴンは実用車としては本当に良いクルマだった。日常使いでは乗降性の良さ、広さ、車内の開放感などがポジティブに感じられ、遠乗りでは経済性の高さや荷室の設計の良さが光った。大きく使える小さなクルマというのは昔からホンダがことさら強いこだわりを見せ続けてきたポイントだが、Nワゴンはその集大成といった感があった。この上の小型車クラスにスペースユーティリティの高さでは最高評価に値する『フィット』が存在するが、Nワゴンに乗るとそのフィットすら不要と思わされる。

壮絶バーゲン価格を思えば、これ以上何を望むのか

インパネからダッシュボードにかけて。大変機能的に作られているが、プラスチック類の質感の出し方はヘタクソ。高い素材など使う必要はないが、いいなと思わせるアイデアが欲しい。インパネからダッシュボードにかけて。大変機能的に作られているが、プラスチック類の質感の出し方はヘタクソ。高い素材など使う必要はないが、いいなと思わせるアイデアが欲しい。
もちろん不満点を探せばそれなりにある。内装の質感は樹脂部品を筆頭として全般的に低い。コスト制約のきつい軽自動車やベーシックカーはメーカーを問わず、高い素材など使いようもないのはたしかなのだが、Nワゴンの場合、いくら何でもデザイン上の工夫がないという感じで、全般的に安物がより安っぽく見える傾向があった。部品点数の増加や組み付けの工数が増える小物入れも不足している。前述のように、乗り味もN-BOXに比べると安っぽい。

が、そんなネガティブファクターもフルスペックの運転支援システム付きで車両価格136.4万円という壮絶バーゲン価格を思うとどうでもいいことのように思えてくる。こんなにも安いクルマがこんなにも高機能で、こんなにもきちんと走って、こんなにも使い勝手が良いのにこれ以上何を望むのかという印象は、距離移動3000km+日常使い1000km、計4000km超のドライブの最後まで変わることがなかった。

クルーズの安定性はNワゴンの美点のひとつ

Nワゴンの走りは非常にしっかりしたものだった。ロール時の前サスペンションのジオメトリー変化が小さいとみえて、コーナリングGの強弱で特性がほとんど変化しない。後サスペンションの追従性も優秀。Nワゴンの走りは非常にしっかりしたものだった。ロール時の前サスペンションのジオメトリー変化が小さいとみえて、コーナリングGの強弱で特性がほとんど変化しない。後サスペンションの追従性も優秀。
では、具体的なインプレッションに入ろう。まずは走行性能だが、Nワゴンは基本性能についてはほとんど不満を抱くことがなかった。操縦性は基本的にマイルドで、ドライバーのミスや過剰操作に寛容な安心感重視のセッティングがなされていた。

直進性は強い横風に少し弱いきらいがあったものの全般的に良好で、新東名120km/h区間における最も速い流れに乗ってのクルーズは終始安定的。路面の老朽化が進んでワダチが掘れたような地方高速、高規格幹線道路でもステアリング修正をほとんど要しなかった。このクルーズの安定性はNワゴンの美点のひとつと言える。

コーナリング性能も必要十分。タイヤは155/65R14サイズのブリヂストン「エコピアEP150」という軽自動車ではごく普通にみられるもので、速さの絶対値としてはもちろん大したことはない。が、カーブで高Gがかかったときも前外側タイヤのグリップが実によく粘るのには感心させられた。後サスペンションの路面変化への追従性も良好で、ウェット路面の荒れた道でも後タイヤが前タイヤの粘りに負けて不安定な姿勢になるということがほとんどなく、非常にウェルバランスだった。

タイヤは155/65R14サイズのブリヂストン「エコピアEP150」。タイヤは155/65R14サイズのブリヂストン「エコピアEP150」。
この特質は体感ばかりでなく、見た目でも確認できた。軽自動車やミニカークラスの普通車のように左右輪の感覚が狭いクルマはロールに弱く、山岳路をハイペースで走ると前タイヤがショルダーを越えてサイドウォールが路面と接触した跡が残るのが常なのだが、Nワゴンはそれがほとんどみられなかった。前サスの設計によほど工夫を凝らしたのだろう。

弱点を挙げるとすれば動きそのものではなくドライビングインフォメーション。タイヤの感触、なかんずくアンダーステアの情報がドライバーに若干伝わりにくく、今クルマの能力の何割くらいで走っているかをつかみづらいきらいがあった。

インフォメーション不足は普段はほとんど意識されないが、山岳路やウェット路面の高速道路などでは「このコンディションの路面をこのペースで走って大丈夫か。大丈夫なんだろうけどちょっと気になる…」という感じの、漠然とした不安が生ずる。ベーシック軽の売れ行きには何の関係もないだろうが、もう少し接地感をドライバーが把握しやすいチューニングが行われれば、遠乗りを楽しむユーザーにはより喜ばれることだろう。

軽自動車としては何の不満もない乗り心地だが

ホンダ N-WGN L Honda SENSING。瀬戸内海をバックに記念撮影。ホンダ N-WGN L Honda SENSING。瀬戸内海をバックに記念撮影。
乗り心地は先に述べたように、軽自動車としては別に何の不満もないレベルではあるが、プラットフォームを共有するN-BOXほど滑らかではない。N-BOXだと「ん?今何かあったの」くらいにしか感じられないであろう程度の路面の補修跡や段差の通過で、素直にガタつきを伝えてくる。その他のハーシュネスやアンジュレーション通過時のフラット感、ついでに遮音性も同様にN-BOXには負ける。ちなみにNワゴンは標準型とカスタムでずいぶんな価格差があるが、もしかすると意匠性や装備だけでなく、快適性でも違いがあるのかもしれない。機会があったら試してみたいと思う。

乗り心地はタイヤの銘柄だけでなく、タイヤの内圧によっても違いが出てくるものだ。筆者は複数回給油を行う超ロングドライブ時には途中でタイヤの空気圧を高くしたり低くしたりと、いろいろ試すことにしている。クルマによって規定値が一番良かったり、規定値より高い、ないし低いほうが体感的に良かったりと、やってみると本当に千差万別だ。

Nワゴンの場合、標準の冷間240kPa(約2.4kg/cm2)より1割強高い270kPaが断然良かった。路面からの当たりが強くなるなどの弊害はほとんど感じられず、ダンピングの効いた非常に気持ちの良い乗り心地になった。ついでにカーブやレーンチェンジでの操舵感も1ランク上がったように感じられる。あくまで標準のエコピアEP150タイヤでの話だが、個人的にはこの内圧をおススメしたい。

ホンダセンシング唯一の明確な弱点とは

アダプティブクルーズコントロールが標準装備。山岳路などレーンキープアシストが邪魔になるシーンで同機能をボタン一発でキャンセルできるのはホンダ独特。アダプティブクルーズコントロールが標準装備。山岳路などレーンキープアシストが邪魔になるシーンで同機能をボタン一発でキャンセルできるのはホンダ独特。
次に長距離ツーリング、デイリーユースとも重宝する運転支援システムについて。Nワゴンに標準装備されているホンダセンシングは単眼カメラとミリ波レーダーを併用するシステムで、ほぼ同時期に発売された第4世代フィットや最近デビューした第2世代『ヴェゼル』の単眼カメラのみのシステムとは異なる。

ヴェゼルのエンジニアによれば、障害物や車線などの認識の精度は後発の単眼カメラ式のほうが優れているとのことだが、Nワゴンのシステムも十分に機能した。幸いにして性能が試される機会はなかったが、夜間の自転車飛び出しなどにも対応しているとのことなので、事故削減には貢献することだろう。全車速対応型の前車追従クルーズコントロールの制御も自然で、不満は抱かなかった。

そのホンダセンシング、ひとつだけ明確な弱点がある。走行レーンの認識が過敏で、車線を踏んでもいないのにレーンを逸脱したと判定してしまい、それによって路外逸脱防止機能がしばしば停止するのだ。停止中も車線維持など基本的な機能は維持されるので実害はないが、しょっちゅうアラートが鳴るのは気持ちのいいものではない。ホンダのエンジニアによれば、これも単眼カメラ式ではカメラの高精度化、広角化によって改善されているとのこと。課題はハッキリしているので、Nワゴンのシステムについてもマイナーチェンジでの性能向上を期待したいところである。

ヘッドランプはハイ/ロービーム自動切換え機構のみのシンプルなもの。LEDランプはオプション。ヘッドランプはハイ/ロービーム自動切換え機構のみのシンプルなもの。LEDランプはオプション。
ツーリング中、安全関連でこれはいいなと思ったのはヘッドランプ。標準品は古典的なハロゲン式だが、今回乗った車両にはオプションのLED式が装備されていた。単純なハイ/ロービームの自動切換え式で、先行車、対向車を避けて照射するアクティブハイビームは持たないのだが、このLEDヘッドランプの出来は大変良かった。

ホンダ車はヘッドランプの設計が雑な傾向があり、暗闇の山道などではコーナー奥がほとんど照らされずに恐い思いをすることも多々ある。例外はN-BOXや『N-ONE』に始まったNシリーズで、どのモデルもエクセレント。第2世代Nワゴンもその例に漏れず明るさ、照射範囲、照射ムラの少なさなどすべてOK、出色の性能と言えた。Nシリーズの開発陣の中によほどのツーリング好きがいるのだろう。

後編ではパワートレイン、居住性、ユーティリティなどについて触れていきたい。

宮崎~大分県境の日豊本線宗太郎駅にて。特急はそれなりに通過するが、この駅に停車するのは普通列車が1日1往復だけだ。宮崎~大分県境の日豊本線宗太郎駅にて。特急はそれなりに通過するが、この駅に停車するのは普通列車が1日1往復だけだ。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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