燃費性・空力・デザイン・EV開発・自動運転:すべての要となるシミュレーション技術

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燃費性・空力・デザイン・EV開発・自動運転:すべての要となるシミュレーション技術
燃費性・空力・デザイン・EV開発・自動運転:すべての要となるシミュレーション技術全 1 枚

エネルギー資源に乏しい日本は、世界のカーボンニュートラルの潮流に対して苦しい闘いを強いられている。

とくに影響を受けている業界が自動車産業と言っていいだろう。グローバルな電動化シフトへの対応に加え、モビリティ革命や第4次産業革命が、自動車製造業の産業構造改革を迫っている。

自動車産業を取り巻く状況は? 電動化の課題はなにか? これらにどう対応すればいいのか? この野心的な問いに答えるべくあるセミナーが開催された。「カーボンニュートラルで高まるEV・バッテリーの最前線」と題されたこのオンラインセミナーでは、経済産業省、矢野経済研究所、アンシス・ジャパン、名古屋大学 未来社会創造機構から4名の識者が招かれた。

経済産業省 製造産業局 自動車カ自動車戦略企画室長 青木洋紀氏は、カーボンニュートラルに向けた自動車政策を解説、矢野経済研究所 インダストリアルテクノロジーユニット デバイス&マシナリーグループ 主任研究員 田中善章氏はxEV市場の現状と展望、アンシス・ジャパン APAC自動車事業部 チーフエバンジェリストオートモティブ 専務執行役員 芳村貴正氏はEVパワートレイン開発他へのシミュレーション活用について、名古屋大学 未来社会創造機構 客員教授 / エスペック 上席顧問 佐藤登氏は車載向け次世代電池の買発動向を、それぞれ講演した。

国内電動化市場の課題…経済産業省

経済産業省は現在の電動化市場についてどのように分析しているのか。青木氏は政府の普及目標の数字として、2030年までに新車販売台数のうち20~30%を電動車(HV、PHEV、EV、FCV)にすると説明する。しかし2020年度の実績ではEVとPHEVをあわせても1%ほど。FCVは0.04%と非常に低い数字になっている。目標達成には相当な施策が必要だとする。

EVが広がらないのは、サプライチェーンのすべての段階にハードルが存在する状況だからだ。さまざまなところで指摘されているように、価格、実用性といった製品そのものの課題と、バッテリー技術、系統電源、リサイクルや中古車市場を含めたエコシステムなどの課題を挙げることができる。政府としては、燃費規制の強化による法的な施策と、主に車両の購入補助金(CEV補助金)の両面でEVの普及促進を図っている。

電池産業への政策支援は中国が強力に推進している。EUでも、域内でのバッテリーアライアンスの強化、EU指令の改正などで産業競争力の強化を進めている。日本は、バッテリー産業への支援・強化策を展開している。安全性の向上、エネルギー密度・出力密度の向上のため関連産業への支援と次世代素材電池の開発促進、工場などの設置支援、レアアースなど資源確保、全固体電池の実用化にも取り組むという。

xEV市場を政策ベースと市場ベースで予測…矢野経済研究所

国内市場ではEVシフトと電動化の課題は多いものの、グローバルで見るとまた違った市場が見えてくる。矢野経済研究所は世界のxEV市場を、高い成長率を元にした政策ベースの予測と、低い成長率を元にした市場ベースの2つのシナリオで分析している。政策ベースのシナリオは、各国の排気ガス規制、販売規制、補助金や税制優遇などのxEV普及策、SDGsなどの動きを元にした予測だ。市場ベースは、xEVのコスト、充電インフラ、ビジネスモデル、ユーザーの意識を考慮したモデルとなる。

たとえば、2025年xEV市場は、政策ベースでは3,743万台、全体の約38%を占めると予想されている。このうちEVとPHEVに限った数字をみると、全体で1,535万台(構成比約15%)となっている。市場ベースの予測では、xEV市場は1,673万台(構成比17%)、EV+PHEV市場は770万台(構成比約8%)という数字だ。

xEV市場の世界動向では、中国は2020年まで成長率に鈍化がみられたものの補助金延長と低容量・低価格EVのヒットで2021年通年で200万台超えが見えている状態。EUは政策と市場の動きが連動し、「グリーンリカバリー」(グリーンディール政策による大規模投資)と相まって、2020年のEV・PHEVの台数規模は中国を上回る。21年も市場は延びると見られ、バッテリーバリューチェンの構築も進む。

米国はバイデン政権への交代により、燃費規制やZEV規制が再び稼働を始めた状態だ。規制と補助金など制度面での動きが先行し市場の動きはこれからとなり予測困難といったところだ。

主要OEMについては以下のように分析する。ルノー・日産・三菱はEVプラットフォームをルノー(A、Bセグ)、日産(C、Dセグ)で分担し、三菱がPHEVを担う。日産は国内市場を見てEVとe-Power(シリーズハイブリッド)の両輪展開。ただしグループ全体のビジネスでは、日本市場はわずか8%。欧州(40%)、中国・米国(各20%)で全体の8割を占める。xEV戦略では、日本と欧米中との政策・市場の温度差をどう吸収するかが課題とみられる。

GMは米国と中国市場だけ92%のビジネスを展開している。35年までにガソリン車全廃を表明し、EVシフトが鮮明だ。LGとUltiumバッテリーを開発し電池工場投資も倍増している。

欧州・米国にすっかり浸透したヒュンダイ(地域別販売比率は70%近い)は、2040年までにEV比率を78%にするとしている。EV専用プラットフォーム開発を進め、LGとはインドネシアにバッテリー調達のJVを立ち上げた。

ホンダも地域別販売比率は中国43%、米国38%と日本だけ見ていてよいOEMではない。EVシフトへの転換は必然だったといえる。北米ではGMとのアライアンスが戦術の鍵を握る。エネルギーサービスやモビリティサービスとの融合も進める(Honda eMaaS)。

EV専業で好調なのはテスラだ。2020年の販売台数は前年比108%を超え、EVモデルだけで49.9万台を捌いた。上海、ドイツ、米国と生産拠点(ギガファクトリー)を増設し、バッテリー調達については、パナソニックに加えLG、CATLとも提携を発表し、4860セルについては自社開発と内製化を発表している。

グローバルでの自動車産業はコロナの影響で停滞期にあり、2019年レベルに戻るのは2023年ごろと見られている。その中、自動車市場を牽引しているのはxEV市場だ。楽観モデルともいえる政策ベースではまだ期待通りとはいえないが、今後の市場は、その政策ベースモデルと、悲観モデルの市場ベースの間で推移するものとみられている。

日本のバッテリー戦略は品質と安全性重視…名古屋大学

バッテリー技術と市場動向は名古屋大学 未来社会創造機構 佐藤登氏による分析だ。10年ほど前、リチウムイオンバッテリーは、車載・電子機器用含めて日本メーカーがトップシェアを誇っていた。バッテリーパックやセルのみならず、電極や電解質、セパレータなど電池の各部材サプライヤーも多数の日本企業が名を連ねていた。

その後、年々シェアを落とし、現在はパナソニックが頑張っているものの、LG、サムスン、CATL、SKなど中韓勢にとってかわられている。ただし、市場そのものは拡大しているので、ビジネス規模としてはシェアほど落としていない。この状態で有効なソリューションは、シェアを落とさないためにさらなる業界再編・事業統合が必要だと指摘する。

日本のバッテリー産業が生き残るもうひとつの戦略がある。それは信頼性・安全性に直結する品質だ。中国製EVの発火事故のニュースを耳にすることがあるだろう。各国のバッテリーは各地で発火事故を起こしている。2019年にはヒュンダイのLGバッテリーの火災がリコールにつながっていて、2020年にはGMがバッテリー関連のリコールを届け出ており、フォードもサムスンのバッテリーで事故が起きている。

これに対して、日本製のバッテリー、日本製のEVは25年間、公道で発火事故を起こしていない。この違いは、各国、各OEMの安全基準の考え方にある。リチウムイオンバッテリーは素材・原理として発火、爆発の危険性は排除できない。そのため、各国の規格や国際標準で安全性能の基準が定められている。しかし、これは製品として最小限の出発点だと佐藤氏はいう。

日本の基準、日本OEMの調達基準は国際標準をベースに独自の安全基準を設けている。非常に厳しい品質を要求しているが、安全面ではこれが功を奏している。したがって、日本製バッテリー基準を国際標準とすれば、EV全体の安全性が高まるとともに、日本の素材・部材メーカーのシェア拡大につながる可能性がある。

高品質な日本製バッテリーは、ハイエンド市場で価値を発揮する。またリサイクルやリユースといったエコシステムを作りやすく、循環型ビジネスの創出にもつながる。ただし、品質や安全性は、中韓メーカーも力を付けてきているので安心はできない。品質と付加価値を高める努力は必要だ(佐藤氏)。と熱く語っていた。

次世代車両は設計・開発にも構造改革を求める…アンシス・ジャパン

xEV市場は、CASE車両のくくりでは「E(電動化)」という一要素の技術でしかないが、実際にはエネルギー問題、環境問題、インフラ問題、さらには産業構造やビジネスモデルの変革をもたらす。そのため、自動車業界も各社の思惑や業界の都合だけで電動化の是非を議論することはできない。

影響のひとつが、車両の商品企画や設計プロセスだ。電動化プラットフォームの拡大、自動運転・コネクテッド機能の強化、バッテリーリサイクルへの適用、充電インフラとの強調は、車両の利用スタイルを変え、ソフトウェアによる付加価値領域を広げている。

その結果、これまで以上にモデル開発、ソフトウェアファーストの考え方が重要になる。トヨタやフォルクスワーゲンなど主要OEMが統合ECUやビークルOSに注目し、以前は「エレキ部門」としてどちらかというと設計の傍流であった部署やサプライヤーを強化している。今後の車両価値を決める鍵として、主要ECUやファームウェア、クラウドソフトウェアの内製化も進んでいる。

この部分に焦点をあてたのがアンシス・ジャパン 芳村貴正氏のセッションだ。同社のソリューションは車両設計のほとんどにかかわるシミュレーションだ。クラッシュテスト、コックピット評価、UI/UX評価、EMC(ノイズ対策)や電子回路評価、光学解析、熱力学、流体解析など、さまざまな事象をシミュレートする。

共通のxEVプラットフォームで設計する車両の特性、味付け、付加価値はソフトウェアの制御に依存する部分が多い。コンポーネントごとのシミュレーションを行っているOEMは多いが、このような次世代車両の設計は、システム全体としてのシミュレーションやプロトタイピングが欠かせない。

ここで必要になるのは、個々のシミュレーションを統合して評価できる環境やシステムだ。これにはクラウドをベースとした統合的シミュレーションが必要になる。

例として、車両の視界、HMI、センサーなどを統合的にシミュレートすることで、安全視界、夜間センサーの評価、自動運転やADASの機能評価をドライバー視点で評価できる(Dirver in the Loop)。意匠デザインとCD値を機械学習によって計算・可視化できれば、モデルバリエーションの評価がシミュレーションできる。

電動化パワートレインの設計では、ハードウェアの組み合わせの妥当性検証、応答試験のトレードオフ分析などが12か月から2か月に短縮できたという事例もあるという。バッテリーの設計では、熱暴走の事象解析、短絡や圧力試験の効率化(実験による検証からシミュレーションによる時間短縮)にも貢献する。WLTCの評価も実車に近い状態でシミュレーションが可能だ。

R&Dやモータースポーツのような特殊用途でも効果を発揮する。アンシスのシステムは、たとえばポルシェのフォーミュラE車両のセッティングに活用されている。フォーミュラEではバッテリーとシャーシがイコールコンディションになるよう厳密なレギュレーションで管理されている。それ以外のコンポーネントのチューニング、各部のすり合わせ・最適化が車両の性能を左右する。高度なシミュレーターなしには開発できない領域だ。

フォルクスワーゲンは、パイクスピークヒルクライム用のEVの設計で、同社のシミュレーションを駆使することで、空冷によるバッテリーの温度管理に成功している。競技車両において冷却システム分の軽量化は大きい。

xEV市場において、シミュレーターを活用したモデル開発はますます重要になると見ていいだろう。

《中尾真二》

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