前回まで3回にわたり、自動車開発におけるソフトウエアの重要性が高まったことによる開発プロセスの変化と、その変化に対応しきれない日本の自動車メーカーの課題を指摘。その解決に向けた方策について論じてきた。今回からは2回にわたり、自動車業界に精通したアクセンチュアのコンサルタントが、ビジネスプラットフォームとしてのクルマの潜在能力や社会にもたらす価値を浮き彫りにする。
CASEの融合が「移動」を次なるフェーズへ押し上げる
いまや国産、海外の主要ブランドが発売する新車の大半に、通信機能を備えた車載器が搭載され、コンシュルジュサービスやリアルタイム渋滞情報、緊急時の通報機能などを提供しドライバーの運転をサポートしている。街中を音もなく駆け抜けていくEV(電気自動車)やハイブリッド車(HV)を見かけることはもはや珍しくない。
自動運転についてもそうだ。レベル1(運転支援)やレベル2(部分運転自動化)の技術を搭載したクルマに乗る機会も増えた。2021年3月には、ついにホンダから世界初となるレベル3(条件付き運転自動化)に対応したクルマが売り出され、リース販売もはじまっている。さらに高度な自動制御技術を備えたレベル4(高度運転自動化)、レベル5(完全運転自動化)対応の市販車は、2025年から2030年の間に販売される見込みだ。
古代から陸上交通の主役を担ってきた馬車、産業革命以降台頭した鉄道から、人の移動や輸送の需要を奪って100年あまりたつ。クルマはさらなる進化に向けて、ソフトウエア技術、センサー技術、AI技術などを積極的に吸収し、電動化や自動化への道をひた走っている。
現在、完成車メーカーが開発競争にしのぎを削り生み出したCASE技術の進化は、人やモノの移動を効率化し便利にするのは間違いない。だが今後10年以内に訪れるクルマの未来は、モビリティ領域を超えこれまでとはまったく次元が異なるものになるだろう。
なぜならクルマには、われわれがまだ体感したことがない潜在能力に溢れているからだ。
個別のテクノロジーとして発展してきたCASEが融合し、社会の奥深くにまで浸透するとどのような変化が起きるか。すでに顕在化しはじめている事象を手がかりに紐解いていこう。