カーボンニュートラルとモビリティ~日本企業への影響と対応~…KPMGモビリティ研究所[インタビュー]

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今年4月、EU理事会と欧州議会において「欧州気候法」が事実上合意に至り、欧州におけるCO2削減目標が法的拘束力を持つことになった。そしてCO2削減に向けた具体的な政策パッケージが、7月にEC(欧州委員会)が公表した「Fit for 55」だ。このなかで、2035年までに登録されるすべての新車をゼロエミッションにすることが想定されている。

このように、強引にも映る政策のリードと、それに対する欧州自動車メーカーの反応、日本の産業界に与える影響について、KPMGモビリティ研究所に話を聞いた。

なお、本稿およびセミナーの意見に関する部分については、登壇者個人の見解であることをあらかじめお断りいたします。

8月27日開催のオンラインセミナー カーボンニュートラルとモビリティ~日本企業への影響と対応~にKPMGモビリティ研究所の3名が登壇し講演する予定だ。

<参考>
EU理事会と欧州議会、気候法案を暫定合意
欧州委、温室効果ガス55%削減目標達成のための政策パッケージを発表

実証実験からビジネスへ

---:まず、KPMGモビリティ研究所の活動内容について教えてください。

KPMGモビリティ研究所 KPMGジャパン 運輸・物流セクターリーダー KPMGコンサルティング/プリンシパル 公認会計士 倉田剛氏:
当研究所ができたのは3年前。日本でちょうどCASEやMaaSという言葉が広まり始めた頃です。この言葉を聞いて、自動車産業が大きく変わっていくと認識された方が多かったと思いますが、この変化は自動車産業だけに収まるものではありません。

ヒトやモノ、サービスが動く、そのためには公共交通をどうしたらいいか。交通を動かすためのエネルギーや資金はどうするか。そして交通を動かす街や道路はどのように形成されていて、どう作っていかなければならないのか…それらの問題を解決するには色々な産業、行政やアカデミアも巻き込んで取り組まなければならなりません。

カーボンニュートラルとモビリティ~日本企業への影響と対応~…KPMGモビリティ研究所[インタビュー]カーボンニュートラルとモビリティ~日本企業への影響と対応~…KPMGモビリティ研究所[インタビュー]

しかし、様々な取り組みがあっても収益ベースに乗せることが難しく実証で終わってしまうということが日本中で起こっています。ですので、我々は自動車業界、公共交通、物流、エネルギー、金融など、すべての産業を横断的に、さらに行政やアカデミアも含めて、社会問題を解決するために、サービスレベルに乗るものを作ろうと取り組んでいます。

KPMGモビリティ研究所は、監査法人、コンサルティングといったグループ会社からメンバーが集まっている、法人格のないバーチャルの組織です。それぞれのこの産業に関わるプロフェッショナルが、モビリティに関する情報発信のほか、実際にいくつかの都市にコミットして、自動運転やスマートシティなどのプロジェクトに取り組んでいます。

KPMG自身はアカウティングファームですので、都市工学や交通問題を専門にしている人間はほとんどいません。ですので、世界中のモビリティやスマートシティに詳しい学識経験者など外部の方にアドバイザーになっていただいて、モビリティを中心とした社会問題の解決に寄与しつつ、KPMGのプロフィットにもつながる、そんな活動をしています。

なぜEUは脱炭素に急進的なのか

---:脱炭素への取り組みでは、EUが世界を先行している状況ですが、これにはどのような背景があるのでしょうか。

KPMGモビリティ研究所 あずさ監査法人/テクニカルディレクター 加藤俊治氏: EUが先行している背景として、2つの側面があると私は考えています。

一つは、イメージとしてドイツで緑の党を昔から支持しているような人たち、純粋に脱炭素をしなければならないと思っている自然派ともいえる人たちがいるということ。そしてその中心にNGOがいて、政策に対して提言機能を持っています。日本ではあまり考えられないことですが、例えば政府が脱炭素戦略を立てるという時に、NGOが目標値や企業及び国別の比較など、政府なんかよりも細かいデータを提示することがあります。また、英国ではUKタクソノミーを作るためのアドバイザリーボードにNGOの代表が参加しています。こうした環境重視の人たちがいるというのが一つの側面です。

そしてもう一つの側面は、脱炭素・グリーンを経済成長の手段の一つとしてドライに考えている人が、EUにお金を持ってこようと一生懸命考えて、そのための枠組み作りをしているということです。2015年くらいからずっと取り組んでいる人たちがいます。もともと脱炭素を達成するためには公的資金だけでは不足していますので、彼らはEUのグリーンマーケットにEU域内だけでなく、域外の民間資金を持ってこようとしています。

この二つの側面が、EUの中ではWin-Winな関係になっています。環境派の人にとっては、世界的に見れば先頭を走っていると感じられる、ファイナンス系の人にとっては、お金が入ってくることで経済成長し、株式市場が値上がりする。両方がある程度満足している状態と言えると思います。

グリーンでない企業は資金調達ができなくなる?

---:投資資金の流れも変化していますね。

加藤氏:そうですね。投資家に、自分の資金が確実にグリーンなところに行っているという安心感を持ってもらうために、EUタクソノミーでグリーンとは何かが定義されます。EUタクソノミーは、あと半年後の2022年1月に適用が始まります。

例えば鉄を作る、プラスチックを作る、アルミを作る場合には、経済活動ごとに炭素排出量の閾値を設けて、下回っていればグリーンな経済活動と認められ、上回っていればグリーンではないと判断されます。その中で自動車製造という経済活動については、原則はテールパイプ、排気ガス口から出る排ガスがゼロエミッションでなければ、それはグリーンな経済活動と認められないとされています。

<参考>欧州委、持続可能な経済活動のタクソノミー基準のリストを公表

---:そうなると、グリーンな活動に合致しない自動車メーカーや部品メーカーは、事業資金を調達できないという状況が起こってしまうのでしょうか?

加藤氏:EUはタクソノミーの公表に際して、グリーンでないものに投資してはいけないとは考えていない、どこに投資するかは投資家の判断であり、EUタクソノミーのグリーンの定義は、それを拘束するものではないと表明しており、EUはグリーン以外への投資を望んでいないのではないかという憶測は誤解であるとしています。従って、ゼロエミッション車以外=グリーンでない経済活動を活発に行う自動車会社、部品会社が資金調達できなくなるとは思いません。但し、そういった企業は、グリーン企業に投資したい投資家から選ばれにくくなり、グリーンじゃない企業、自動車メーカーで言えば、ガソリン車とかディーゼル車をたくさん作っている企業は、条件のいい資金を調達しにくくなっていくのだろうと思います。

先週発表された「Fit for 55」は、自動車業界からはすごく反発もありますが、決まってしまったことなのでそこはやらざるをえない。厳しいかもしれないけど、それをやり切ってしまえば、自動車会社の車種構成的にも、オペレーション的にもグリーンに整合するようになり、グリーンを志向する最終消費者からも選ばれるやすくなるのではないでしょうか。

目標とされる2035年は、頭の中にグリーンやSDGsが子供の頃からしっかり刷り込まれているZ世代が消費者デビューしていて、彼らが購買力を増しています。この世代の人たちがどういった車のブランドを選ぶのか、どんな車種を選ぶのかは、今からでも何となく想像できるのではないでしょうか。

---:EUが脱炭素化の枠組みを決めていくなか、日本はどのような状況でしょうか?

加藤氏:日本のエネルギー基本計画素案において、再エネ+原発で60%という目標値が非常に重要です。自動車生産で使う電力がグリーンかどうかという点も、炭素排出量を算定するうえで重要だからです。

<参考>エネルギー基本計画(素案)の概要 - 経済産業省 資源エネルギー庁

これがなぜ重要なのかというと、日本で作った車をヨーロッパに輸出しようとしたときに、将来的に国境調整がかかるかも知れないからです。電源構成上不利な日本の車は、輸入の際に国境炭素税が加算されて高くなってしまう可能性があります。EU市場では日本のEVは高い。なぜ高いかというと国境調整が入っているからだよという時代が来るかもしれません。

反発しながらも準備をすすめる自動車業界

---:欧州の政策はかなり急進的に感じますが、現地の自動車産業はどのように反応しているのでしょうか。

KPMGモビリティ研究所 KPMG FASグローバルストラテジーグループ/ディレクター 池田晴彦氏:自動車業界としては、「Fit for 55」などかなり厳しい条件を突きつけられているという状態です。直近でも、7月21日にICCT(国際クリーン輸送協議会)がプラグインハイブリットもNGという表明をしており、ゼロエミッションを達成するためには結局バッテリーEVということで、さらにはFCEVもNGだという人たちも出て来ていいます。

<参考>Why are electric vehicles the only way to quickly and substantially decarbonize transport?

そういったなかで、ACEA(欧州自動車工業会)は公式な見解として、特定の技術を廃止するのは適切な手法ではないと声明を出しています。また、VDA(ドイツ自動車工業会)も同様に特定の技術を廃止しようとすることはイノベーションを阻害するとの声明を出しており、これに加えて、エレクトリックカーを普及させるのであれば、グリーンな電力を供給する再生可能エネルギーを増やしていく必要があるとの声明を出しています。また、欧州の部品工業会も同じく、電力そのものがきちんとグリーンであること、それがプライオリティーの第一であるべきだという言い方をしています。

---:自動車メーカーの反応はいかがですか?

池田氏:フォルクスワーゲングループはバッテリーEVに大きくシフトするという姿勢を見せています。ダイムラーも同様にバッテリーEVに大きくシフトするという戦略を発表しましたが、同社は「市場の状況が許せば」という条件付きとしています。欧州の自動車メーカーはバッテリーEVに大きくシフトする姿勢をみせていますが、バッテリーEVへのシフトがどのように進展していくかについては今後の政策の具体化の状況を含めて、冷静に見極めていく必要があると考えています。

---:欧州以外の市場もありますしね。

池田氏:そうですね。グローバル視点では、まず11月のCOP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)がどういう動きになるのかが最大の焦点になってくると思います。現時点で米国や中国の動きは不透明ですが、両国の動き次第では、日本の自動車メーカーにとっても影響が出てくると思います。

日本発のスマートシティの事例を発信したい

---:街づくりやスマートシティにおいても脱炭素という観点がありますね。

倉田氏:はい。KPMGではスマートシティに関する調査を行っているのですが、諸外国と日本の住民の意識の違いに注目すべき点があります。

日本では、利便性の向上よりも自分の身の回りの安全や医療へのアクセスなどを重視する傾向があります。一方、諸外国と比べると、サスティナブルにお金を回すための取り組みや、イノベーション人材の確保、リスクを取って果敢にチャレンジするという文化の醸成という点においては遅れを取っているという傾向が見て取れます。

最近ではウォーカブルシティ、ウェルビーイングなどを標榜する都市も増えてきているので、このグリーン化の流れに乗って、まちづくりや住みやすいスマートシティの形成にコミットしていく環境を作っていきたいと思っています。

日本では、犯罪率の減少や、災害時のサポートなど、安全性に対する意識は高いと感じています。同様に、グリーンな街づくりという点にも人々の意識が向かっていくのではないでしょうか。課題先進国といわれる日本発の街づくりの良い事例を、世界に向けて発信できたらいいな、と個人的にも考えています。

KPMGモビリティ研究所の3名が登壇する、8月27日開催のオンラインセミナー カーボンニュートラルとモビリティ~日本企業への影響と対応~はこちら。

《佐藤耕一》

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