人型シミュレータ購入へ2000万円クラファン、北総病院の挑戦【岩貞るみこの人道車医】

ドクターヘリから院内へ患者搬送
ドクターヘリから院内へ患者搬送全 9 枚

日本医科大学千葉北総病院の救命救急センター(以下、北総病院)と聞いて、フジテレビのドラマ「コード・ブルー」の医療監修を想像する人は、かなりのドラマ通である。さらに現在放映中の「Night Doctor」の医療監修もしているが、数ある救命救急センターのなかでも外傷センターとしてトップを走る彼らは、交通事故に関する数々の論文を発表して車両安全に貢献するほか、事故の衝撃度に応じてドクターヘリの要請につなげる緊急自動通報装置D-Call Netの傷害値予測アルゴリズム作成に協力している唯一の病院でもある。

その北総病院が、救命救急のトレーニングに欠かせないシミュレータを購入するため、2000万円のクラウドファンディングへの挑戦を開始した。

救急医のスキル向上に欠かせない人型シミュレータ

人型シミュレータ人型シミュレータ
今回、購入を計画しているのは、患者の容体を自由に設定できる人型シミュレータである。北総病院の太田黒崇伸医師によると、技術の世界は日進月歩であり、シミュレータも日々、進化しているという。予算が潤沢にあれば毎年、最新型の最高モデルに買い替えることが望ましいが、どの病院もそんな余裕はない。北総病院でも、古いタイプをずっと使い続けていたのだが、半年前に10年もののシミュレータがついに壊れてしまったそうだ。

こうした医療資器材は、通常、病院で予算をとり購入するところだ。しかし、日本医科大学救急医学教室総括責任者である教授の横堀將司医師によると、申請してから実際に購入できるまでには、数年を要するという。そんなに待っていられるわけがない。

交通外傷をはじめ、救急の現場では一刻を争う対応が求められている。北総病院が千葉県の基地病院のひとつであるドクターヘリが、医師を現場に運ぶのもそのためだ。そして、病院に運ばれた患者は手術室まで運ぶ余裕もなく、病院到着後にすぐに開腹手術に移ることもある。そんな状況に対応するために欠かせないのは、救急医のスキルだ。

治療の様子治療の様子
しかし、免許とりたてのドライバーが、最低限の運転技術しか持っていないように、なりたての医師は臨床経験が少なすぎる。医師のスキルアップには現場での経験は欠かせないのだが、実際の現場で経験を積むのはむずかしい。なにせ目の前の患者の容態は極めて悪いのだ。あっという間に血圧が下がり、もたもたしていれば死んでしまう。そんななかで、研修医を始めとする若手医師が、十分な経験をつむ余裕などないのである。

さらにコロナの今、医療教育の現場ではもうひとつ問題が起こっている。医学生はリモートでの学習を余儀なくされ、治療現場での経験を積めないどころか、見学することもできない。このままでは、救急医療のスキルは落ちていくばかり。交通事故死者数を左右しかねない事態なのだ。

頼みの綱は、さまざまな状態の患者を再現する人型のシミュレータを用い、定期的にトレーニングを重ねることなのだが、これが壊れた&買えないという危機的状況なのである。

目的は資金調達だけではない

資金調達のために挑戦するクラウドファンディングは「READY FOR」。これまでにも、愛知県にある病院のドクターカーの購入費用や、病院で子どもたちに寄りそうファシリティドッグ導入のための費用など医療関連の挑戦を成功させてきた。2000万円の内訳は、人型シミュレータ購入費1500万円、READY FORへの手数料374万円、事務手数料(御礼等含む)126万円である。ファンディングの御礼で100万円以上も費やすのなら、そのぶん、備品購入費にあててもらいたいと私など思うのだが。

なお今回は、目標金額を達成した場合のみ、寄付金を受け取ることができるAll-or-Nothing方式。寄付募集最終日である9月30日(木)午後11:00までに達成できなければ、ゼロになる。

前出の横堀將司医師によるとクラウドファンディングへの挑戦は、早期の資金調達が目的だが、それだけではないという。いま、感染症科と同時にコロナ対応を担っているのは、救命救急とICUの現場である。医師も看護師も、休みを返上し、家族との時間を削りながら使命感で闘っている。クラウドファンディングに寄せられる思いのこもった支援は、こうした彼らにとっての応援メッセージにもなるという。

北総病院に設置した人型シミュレータで学んだ日本医科大学の学生や研修医たちは、全国の病院で医師になる。また、北総病院は、「Beyond the Theory(常識を超えろ)」を合言葉に、外傷センターとして日本のトップを突き進むチームであり、これまでも、全国のドクターヘリのフライトドクターやフライトナースの研修を受け入れているほか、北総で外傷診療を学びたいと、すでに医師として病院勤務をしている医師たちが、数日~数年単位で学びにくる場所でもある。ここで積み上げたスキルは、いずれ日本全国にいきわたり、日本の医療界全体の底上げにつながるはずだ。

日本医科大学千葉北総病院救命救急センターのドクターたち日本医科大学千葉北総病院救命救急センターのドクターたち

READY FORの北総プロジェクトぺージ
https://readyfor.jp/projects/hokusoh_ccm

協力・写真提供:日本医科大学千葉北総病院

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。レスポンスでは、女性ユーザーの本音で語るインプレを執筆するほか、コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。最新刊は「世界でいちばん優しいロボット」(講談社)。

《岩貞るみこ》

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