前回までの記事で見てきたように、車内環境を構成する要素技術がそれぞれ進化することで、2020年代後半には様々な車載コンテンツの登場が想定される。今回は、車載コンテンツを表現するために2020年代に実現可能と思われる要素技術を例示したうえで、改めて具体的な車載コンテンツの表現例を挙げ、それらの制御のしかたについて考える。後述するように、この制御のしかたにも新たな可能性が眠っていると考えられる。
1.2020年代に想定される車載コンテンツの表現
近年に限らず、メルセデスやレクサスのようなプレミアムブランドの自動車を中心に、様々な車内空間の高度化が進められている。特に近年では、例えばARを用いたHUD(ヘッドアップディスプレイ)や二酸化炭素濃度の調整など、いくつもの技術が実装されつつある。また、ハプティクス技術や芳香制御技術など、まだ十分には普及していないものの今後新たに搭載される技術も想定されている。
2020年代に自動車に搭載される見込みのある技術を、視覚面、聴覚面、嗅覚面、触覚面の観点から改めて整理すると、例えば下記のような例があると考えられる。
視覚面では、まず現在進行形で車載ディスプレイの大型化が進んでいる。センターコンソールディスプレイは10インチ以上のものとなり、コンソールだけではなく運転席から助手席の左右の端にかけて設置されるものが、例えばBYTONを典型例として米中などのベンチャー企業で採用され始めている。横長のディスプレイを3~4つに分割するなどの使い方が模索されつつある。一方で、視覚面での最も大きな変化は車窓のディスプレイ化あるいはスクリーン化だろう。上述のようにすでに方向指示や車線などをARで表示する機能が搭載されつつある。今後、ガラスやプロジェクターなどが進化することで、車窓全体に映像を表示することが技術的には実現可能になる。
聴覚面に関しては、音質面はじめすでに自動車はかなりの高度化が進んでいる。マンションと違い車内であれば大音量で聞けることもあり、クラシック音楽等を車内で楽しむという向きもある。今後、音質の進化が突き詰められるとともに、例えばヘッドレストスピーカー等によりさらなる全天空型への進化や、バイノーラル音響の実現が想定される。
嗅覚面については、芳香制御の進化が想定される。現在、NIOでは5種類の化学物質を用いてシーンに応じた香りの提供が試みられているが、技術的にはそれらの化学物質を増やし組合せを複雑にすることでさらに多種多様な香りの提供が実現可能と思われる。現在のところ車内の芳香制御は緒に就いたばかりだが、今後の進化が期待される。また、嗅覚とは若干異なる領域だが、空気成分や空気流の制御も実現可能といえる。もちろんコスト次第となるものの、感染症対策のためにも空気清浄機能や酸素濃度向上機能の搭載などが考えられる。視覚面や聴覚面の刺激と合わせて、エアブラスト機能なども想定される。
触覚面では、ハプティクス技術の搭載が想定され、これはエンドユーザーにとって目新しさという点で大きな変化になりえる。何もない空間に手をかざしたときや、ハンドルやレバーなどを握ったときに、何かを持ったり引っ張られたりしているような手応えや、ざらざら感やすべすべ感などの触り心地を感じることができるものだ。例えば英国のベンチャー・ウルトラリープ社はコンソールボードでの活用を想定していたり、村田製作所(に統合された産総研発ベンチャー・ミライセンス社)も同様の技術の自動車への応用を検討している。
以上のような要素技術を組み合わせることで、多種多様な車載コンテンツの表現が可能になる。あくまで例示だが、3つほど挙げると下記のような例が想定される。