南インドよりナマスカーラ!
路肩に吹き溜まった落ち葉やゴミや土砂が一層されて “有効道幅” が広がり、反射板入りのセンターラインが引かれた都心の路地は、行き交う車両のスピードも確実に上った。一段高くブロック敷きで整備された歩道は、一見フラットで歩き易くはなったものの、欠けてがたつくマンホールの蓋や、首を吊れるくらい垂れ下がった電線や、放置車両や犬の落とし物を避けて進むには車道に降りる外ない。結果、クラクションと同時にギリギリ脇をかすめていく二輪や三輪や四輪にヒヤッとさせられる頻度はあまり変わらない気がする。
いわゆる「富裕層」の、殊にマダム連中は決して街中を徒歩で移動することはない。たった数十メートルの距離でも車を使うのは、汚れたり躓いたりするのを嫌うこともあろうが、ブレーキなしで歩道を横切る車両に引っ掛けられたり、物乞いや野良犬に付きまとわれたり、といった予測不能な大小のトラブルを避ける意図もあろう。道そのものが綺麗になっても、のほほんと歩いてはいられない事情が無数に存在する。隣の母屋に住む大家のマダムも、100m先の仕事場までドイツ製高級セダンで送迎させているし、300m先のスポーツクラブへは朝晩、自ら運転して通い、小一時間、敷地内をぐるぐる歩いている。コロナ前、毎朝スクールバス乗り場で顔を合わせていたパパ友ママ友も、子どもを見送った後に車で1km強、公園脇に停めて中をウォーキングしているという。
ただ街を歩くにも一定のリスクを伴うというか注意を要するというか、「余計なことを避ける」為の自己防衛は常に求められるから、いくら気候が良くても、特段の目的地もなくに街中をぶらぶらと散歩する、というわけにはいかない。公園の他、“Gated Community” と呼ばれる高級住宅地や数棟のタワーマンションが立ち並ぶコンドミニアム内で朝夕の時間帯、同じルートを何度も往復する住人が良く目にされるのはその為。狭いところをぐるぐるするなら、表に出て街の様子を見るなり、スタンドでコーヒーを楽しむなりすれば良いのに、とも思うが、“住む世界の異なる人々” と接するリスクが益々懸念されるようになった昨今、不必要に外界をうろつかない、というのは賢明な判断かもしれない。
それでも久方ぶりに週末の繁華街に足を向ければ、若者を中心に老若男女、だいぶ人波が戻っていた。地べたに店を広げる露天商が並び、ストリートフードの屋台には人が群がる。商店は扉を開け放って客を招き入れ、電飾看板もカラフルに光る。かつての芋の子を洗うような混雑からすれば1/3にも満たない人出だが、所かまわず立ち止まって自撮りする集団が流れを遮る効果も含め、ようやく繁華街らしい雰囲気が戻って来た。