「救急搬送困難」事案の“とんでもない数字”に改めて思う【岩貞るみこの人道車医】

総務省のデータによると、8月5日~15日の「各消防本部からの救急搬送困難事案に係る状況調査の結果」は、東京消防庁で1873件。救急隊員たちの負担も壮絶だったはずだ(写真はイメージ)
総務省のデータによると、8月5日~15日の「各消防本部からの救急搬送困難事案に係る状況調査の結果」は、東京消防庁で1873件。救急隊員たちの負担も壮絶だったはずだ(写真はイメージ)全 1 枚

新規陽性者数が全国で500人以下、でも

原稿を書いている2021年10月下旬、新型コロナウィルスの新規陽性者数が全国で500人以下になってきた。報道や発表機関によっては「感染者数」と表現しているところもあるけれど、感染者と陽性者は違う。症状がなかったり、ちょっとした咳程度であれば検査をしに行かない人はいる。つまり感染していてもカウントされないのだ。

逆に、陽性が確認された芸能人の例では「収録前のPCR検査で感染を確認。本人は無症状」という人がいる。つまり、収録前に義務化されているPCR検査をしなければ、新規陽性者数にカウントされることはなかったはずだ。

シロウトの意見なので読み流していただきたいが、日本中に感染している人はもっともっと多いと思っている。でも、ワクチンなどで症状が出なかったり軽かったりするだけでPCR検査に行かず、ゆえに、ただ単に陽性確認がされていないだけなのだと思う。

まだ気をゆるめている場合ではない。このあと、換気のしにくい季節が始まり、春先からワクチン接種していた人の効き目が落ちてきたらどうなるのか。「三密」(密集、密接、密閉)の見本のようなスタンディングで行うロックコンサートに行ける日は、まだまだ遠い(涙目)。

第6派の前に、第5派のときの数字をいくつか見ながら、クルマを運転する私たちの気持ちを改めて引き締めたいと思う。

救急搬送困難事案のとんでもない数字

東京都の一日の新規陽性者数が一番多かったのは8月13日の5773人。この日を中心とする高い陽性者数の山はオリパラとほぼ重なっている。オリパラに医師や看護師が派遣され、ついでに続々と来日する各国のVIPの緊急時対応として医師がとられ、病院関係者のことを思うと本当に胸が苦しい期間だった。

そして、ほとんど報道こそされていなかったものの東京消防庁をはじめとする救急隊員たちの負担も壮絶だったと推測できる。もともと8月は熱中症のために一年で一番、救急車の要請が多い時期だ。そこに加えてオリパラ会場への特別体制。さらにコロナだ。

総務省のデータによると、8月5日~15日の「各消防本部からの救急搬送困難事案に係る状況調査の結果」は、東京消防庁で1873件と、とんでもない数字になっている。ちなみに同時期の神奈川県が505件、名古屋市は30件、大阪市は240件、福岡市は55件である。それぞれ人口も救急車の台数も異なるので比較のしようがないけれど、少なくともこの10日間で都内では1873件もの搬送先が決まらない事案があり、その間、救急隊が奮闘していた様子がうかがえる。

もちろん、搬送先が決まらないのはコロナ患者だけではなく、心疾患、脳疾患、骨折などほかの症例も含まれる。それでも、受け入れ先が決まらない理由のひとつがコロナであることは言うまでもない。

交通事故を起こしている場合ではない

13時間ものあいだ、コロナ患者の受け入れ先が決まらなかったという報道も見かけた。ではこの間、だれが患者に対応し酸素吸入を続けたいたかというと救急隊員である。搬送先が決定するまでのあいだ、患者を載せた救急車はほかの要請に応えることはできない。救急体制はもともと、あちこちに消防署や出張所があり、要請場所から最も近い位置にいる救急車が派遣される仕組みになっている。

ところが、その救急車が搬送先選定に時間がかかり使えないとなれば、別の消防署にいる救急車が向かうことになる。これが続くと、「最寄りの救急車が駆け付ける」というシステムは完全にくずれ、東京都の南側からの要請に北に位置する救急車が対応し、またその逆……という負の連鎖が始まる。救急車の到着時間は遅くなるばかりだ。

それを助けるために、「PA連携」という戦術がある。救急車が到着するまでのあいだ、水色の感染防止衣に身をつつんだ隊員を乗せた消防車がかけつけて対応するのだ。これで応急手当や心肺蘇生など、緊急対応はできるものの、救急車と確実に異なるのは、「消防車は患者を運べない」ということだ。医師による初期治療開始に一秒を争う交通事故をはじめ、脳梗塞、心筋梗塞の対応では、救いきれないことになりかねない。

改めて思う。私たちは交通事故を起こしている場合ではない。そして、これから冬の時期、寒い脱衣所から風呂に入って倒れている場合ではないのである。自助、共助、公助。密かにまだ災害のような日々は続いている。助けてもらえるという期待は捨て、自分の身は自分で守るしかないと思って自衛したいと思う。

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。レスポンスでは、女性ユーザーの本音で語るインプレを執筆するほか、コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。最新刊は「世界でいちばん優しいロボット」(講談社)。

《岩貞るみこ》

岩貞るみこ

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家 イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。レスポンスでは、女性ユーザーの本音で語るインプレを執筆するほか、コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。著書に「未来のクルマができるまで 世界初、水素で走る燃料電池自動車 MIRAI」「ハチ公物語」「命をつなげ!ドクターヘリ」ほか多数。2024年6月に最新刊「こちら、沖縄美ら海水族館 動物健康管理室。」を上梓(すべて講談社)。

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