ソフトバンク次世代電池Lab.は、今後の社会および経済基盤を担う技術としてバッテリー技術の研究開発を進めている。2日、4つの点で試作開発の成果があったとして、報道陣向けに記者発表を行った。
ソフトバンクは、ロボティクスやモビリティ事業にも力を入れている。この中で注目しているデバイスとして、ドローンタクシー、ドローン配送、HAPS(高高度通信基盤ステーション)、使役ロボットを挙げている。これらはすべて移動体であり、ソフトバンクのコア事業でもある通信事業と深くかかわっている。同時にバッテリー搭載も必須となる。
バッテリーの開発、進化がこれらのビジネスを左右するとして、ソフトバンクでは次世代電池Lab.を立上げ、産学連携の技術開発を支援している。つまり、ロボタクシーにしても高高度を飛ぶ基地局にしても、バッテリーの技術革新が進まないと成立しない。そこへの投資は市場を育てることになり、いずれ自社のビジネスに好影響を与えるからだ。
発表された研究成果は次の4つ:
1:高エネルギー密度全固体電池
2:マテリアル・インフォマティクス(MI)による有機材料の予測モデル
3:520Wh/kgセルの実証
4:軽量集電体用樹脂箔
全固体電池は東京工業大学 の菅野教授らの共同研究。住友化学とも協力して、全固体電池の出力実験に成功した。この実験では発火しにくい安定した電解質にリチウム・ゲルマニウム・リン・硫黄系の物質を、正極にリチウム過剰系活物質を使って、安定性と高容量化の見込みが得られたという。正極の活物質は、250mAh/gの容量が実現できた。この数字はニッケル系(NCA)、三元系(NCM)の正極素材の220mh/gを上回っている。
マテリアル・インフォマティクス(MI)とは、高分子素材や組成をビッグデータとシミュレーションにより特性を予測し、新しい素材発見、開発に役立てようという取り組み。バッテリー開発では、コバルトやその他レアメタルの代替として有機材料の研究が進められている。慶應義塾大学との共同研究で、この予測モデルを構築した。すでに1000Wh/kgを超えると予測される正極材量の候補を発見した。
520Wh/kgの高エネルギー密度のバッテリーは、負極に金属リチウムを使うことで実現した。開発はEnpower Greentech社との共同研究とのことで、同社の450Wh/kgのセルを進化させた。
集電体は、正極・負極に接続し出力をセル外部に取り出すために必要な素材だ。通常は銅の薄膜を利用するが、軽量な樹脂素材を開発した。樹脂製の集電体そのものは従来からあるものだが、軽量な集電体はバッテリーの軽量化に微力ながら貢献する。数万点の部品から構成される自動車の軽量化は、細部の1グラムの軽量化の積み重ねだ。
ソフトバンクでは、バッテリーの高性能化は、まずエネルギー密度を高めていくアプロ―トをとっている。ドローンタクシーやHAPSといった応用の場合、充放電回数を伸ばす寿命よりは単位重量あたりのエネルギー密度の方が重要だからだ。現在300Wh/kg前後の技術(EV用バッテリーはこのあたり)が見えており、現在400から500Wh/kgの次世代電池に取り組んでいる。これは、負極にリチウム金属を使うことで達成できそうだという。さらに正極に有機材料、空気電池など、電解質を個体にすれば1000Wh/kgが実現できるとしている。
今回の発表は、直接電動車に還元できる技術ではないが、高密度化を達成したあと充電回数を増やす方向に開発を進める予定だ。