【シトロエン C4 & e-C4 海外試乗】醸し出す柔らかさはシートだけではない…南陽一浩

シトロエン e-C4
シトロエン e-C4全 35 枚

日本でも『C3』と『C3エアクロス』、『C5エアクロス』に続いて『ベルランゴ』と、立て続けにヒットさせているシトロエン。それらの間に挟まれて、欠くべからざる欠番の1ピースとなっていただけに、新しい『C4』は気になる存在だ。

シトロエンが十八番としてきたミドルレンジは、パッと見には個性的で風変りでスタイリッシュ、そして使ってみると驚くほど実用性に富み、かつクラスを超えた快適性を備えている点が、その伝統だ。だから実用車でありながら歴代、外観からして強烈だ。

二枚目感を増した最新のシトロエン顔

シトロエン C4シトロエン C4

新しいC4も、一度見てC4だといわれたら、その後はどうやってもC4にしか見えない、そんな独特のオーラというか存在感を備えている。本国発表値で全長4360×1834×1525mmは、Cセグとして少し余裕あるサイジングといえる。

グリルが立ち気味の分厚いフロントボンネットと、もりっとしたフェンダーからショルダーラインにかけてはSUV的だが、ルーフラインの低さとワイドトレッドのプロポーションは、昨今流行りのクーペSUVより過激に見えさえする。その異物感を、天地方向に詰まったガラスエリアと思い切り寝かせたリアハッチガラスが、さらに強調する。

「GS」や「BX」に連なるシルエットと裏腹に、ヘッドライトはフルLED化されデイランニングライトとY字状の2段構成。二枚目感を増した最新のシトロエン顔だ。ちなみに初代C4を彷彿させるリアウイング下部とクォーターウィンドウは、真っ黒に見えるがガラスなので後方はちゃんと見とおせる。前々からのシトロエン・ファンも、初めて見た人も、納得させる巧みなデザインだ。

シトロエン C4シトロエン C4

醸し出す柔らかさはシートだけではない

加えてインパクト大なのは、インテリアだ。今回の試乗車は本国仕様のディーゼルとEVの「e-C4」、どちらも最上級となる「シャイン」グレードで、近年のシトロエンでお約束となりつつある分厚めクッションの快適パッケージ「アドバンストコンフォートシート」が奢られていた。

体重をシートに預ける前から、しなやかに絡みつくように身体を包むような座り心地は、自動車のシート離れしているソフトさに感じる人もいるだろう。しかし段階圧コントロール設計が行き届いているので、走行中のホールド性も抜群にいい。そこへ来て、いざ走り出すとプログレッシブ・ハイドローリック・クッション(PHC)のショックアブソーバーが乗り心地に相乗効果をもたらすのだが、それは後述しよう。

シトロエン e-C4シトロエン e-C4

C4が醸し出す柔らかさはシートだけではない。ダッシュボードは水平基調で広がり感が強いが、四角四面に角張った意匠ではないので、視覚的にも柔らかくリラックスできる。「アーバングレー」と呼ばれるミドルトーンのテップレザーとウールライクなファブリックの素材感もいいし、ダイヤ風キルトのようなステッチパターンも、文句なく洒落ている。それでいて、センターコンソールのピアノブラックやドアパネルのパターン柄インサート、控えめなマットクローム使いが、静的質感を締めている。

しかもグローブボックスの上には、引き出しとタブレットホルダーまで備わっており、実用性も十分。右ハンドルの日本仕様では毎度、ヒューズボックスが陣取るスペースだが、是非実現されていて欲しいディティールだ。

e-C4の内装については、シートがフル・テップレザー仕様になってステッチも単色でモノトーンになっただけで、意匠も操作系もC4と変わりはない。ただし10インチワイドのタッチスクリーンやメーターパネル内に、バッテリー残量や運用モード、消費推移グラフなど、BEV特有の機能がe-C4には付されている。

王道のハンドリングに、現代的な静粛性

シトロエン C4シトロエン C4

まずはBlueHDi 130 EAT8ことディーゼルの8速トルコンAT仕様ら走らせた。センターコンソール内に目立たないように埋め込まれた、RNDのトグルスイッチを2回手前に押してDレンジに入れる。隣列のPとMはボタン式で、それぞれ停止時とMTモード時に使う。

日本市場のプジョー・シトロエンを見渡しても、CMP(コンパクト・モジュラー・プラットフォーム)というEMP2よりひと回り小さなプラットフォームに、DV5こと130ps仕様の1.5リットルディーゼルを載せたモデルは初だ。予想はしていたが、これが文句ないどころか、すこぶる抜群にいい。

DV5はディーゼルユニットとしてはコンパクトで軽く、鼻先はガソリンエンジン車のように軽快なまま、モリモリに力強いトルクはお手のもの。本国での認証値によればC4ディーゼルの車重は1324kgで、1750rpmの低回転から発揮される300Nmのトルクをもってすれば、ゼロ発進から高速道路上での再加速まで、ドライバビリティはノーストレスでキビキビしている。

シトロエン C4シトロエン C4

そこにC4の2670mmというロングホイールベースが、巧みなマッチングを見せる。これは、PHEV化された次世代プジョー『308』の2675mmと、VW『ゴルフ8』の2636mmの、中間サイズ。コンパクトハッチバックの軽快なハンドリングと、高速道路では格上のサルーンのような直進安定性とフラットライドが両立している。何より、柔らか足ながらも、狙ったラインにのせやすいハンドリングは、ミドルサイズ・シトロエンの王道だ。それでいてトーボードやフロア周り、室内の静粛性の高さは、現代的なレベルに引き上げられている。

この独特のドライバビリティは、プログレッシブ・ハイドローリック・クッションによる、足さばきと優れたボディコントロールによるところが大きい。沈み込みも伸びも適度にスローで、ストローク量は昔のハイドロ車に比べたら少なめでも、ストローク感はきっちり確保されている。ボディコントロールが小さめとはいえ、揺動感を伴う鷹揚な上下動の質感は、あいかわらずシトロエンらしい快適さの源泉なのだ。

シートクッションも、乗り心地のストローク感の一部として明らかに貢献しているが、水平方向にはきちんとホールドする造り、むしろポジションはきっちり取りやすい。リラックスできてコンフォートの質が高いからこそ、目の前のルートに集中して車内の雰囲気ごと移動を楽しめる。そんな冴えわたるような、じつは乗ってみたら陽キャラというドライビング感覚が、きわめてシトロエンらしい。

これまでのどんなシトロエンも凌ぐマジックカーペット・ライド

シトロエン e-C4シトロエン e-C4

直後にe-C4に乗り換えてみた。外観上でEVと分かるディティールは、リアバンパー下部にマフラーが見当たらないこと、あとは車名ロゴと、バンパーとボディサイトのアクセントにブルーがあしらわれていることぐらい。50kWhのリチウムイオンバッテリー容量と出力100kW(136ps)は、先行する『DS 3 クロスバックE-テンス』やプジョー『e2008』と横並びで、WLTPモードでの航続最大レンジは約350kmとなる。

本国発表値で1540kgと、車重がディーゼルより大きい分、ステアリング切り始めのロールが速く感じる。街中の微低速域で、荒れた路面を走る時などに多少、足元の張り感はあるがさすがPHC、EVにしては柔らかい乗り心地だ。郊外路から高速道路へと速度域が上がれば、これまでのどんなシトロエンをも凌ぐ、静けさと滑らかさのマジックカーペット・ライドが始まる。ただ、電気モーターなのでトルクの反応は悪くないが、260Nmで車重が嵩む分、ディーゼルほどモリモリしていない。トランク容量はICEにまったく見劣りせず、380リットルが確保されている。

シトロエン e-C4シトロエン e-C4

今回の試乗前、バッテリー100%での行可能レンジは298kmと表示されていた。高速道路を中心に43kmほど走らせたところ、約20%を消費して走行可能距離は256kmと表示されていたので、回生による再充電が見込めない状況では200km強が実質的な航続距離だろう。シフトコンソール上、ディーゼルではMTモード切り換えだった場所はBボタンに変更されているので、ストップ&ゴーの多い状況では積極回生も無論、発動できる。

プジョー・シトロエン・DSは「パワー・オブ・チョイス」を掲げ、ICEでもPHEVでもEVでも、乗り手にそれぞれの乗り方にフィットしたパワートレインを選ばせるポリシーを貫いている。このC4に関しては、街中を走ることが多いならe-C4、長距離行も少なくなければディーゼルに軍配という、得意分野の棲み分けが明確だった。特異なスタイリンでありながら実用性や快適性で、何ら妥協のない一台は、旧態然としたハッチバックやありふれたSUVに飽きた向きに、貴重な存在となりそうだ。

シトロエン e-C4シトロエン e-C4

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

《南陽一浩》

南陽一浩

南陽一浩|モータージャーナリスト 1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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