雪で立ち往生するクルマを無くす…高速道路各社、今シーズンは発想転換

高速道路の雪氷対策の取り組みin2021
高速道路の雪氷対策の取り組みin2021全 11 枚

東日本高速道路(NEXCO東日本)、中日本高速道路(NEXCO中日本)、西日本高速道路(NEXCO西日本)、首都高速道路、ウェザーニューズは12月7日、今冬の高速道路の雪氷対策の取り組みに関して、物流事業者向けのオンラインセミナーを共同で実施した。

高速道路の雪氷対策の取り組みin2021』と題し、各道路会社の危機管理や防災担当者が、雪氷対策について語った。

まずNEXCO東日本執行役員管理事業本部副本部長保全部長の千田洋一氏が開会の挨拶として、昨2020年、新潟県内の関越道が大雪に見舞われたことで、2000台以上の車両が、雪で埋もれた道路に滞留してしまったことについて触れた。今年はそのようなことが絶対に起こらないように、大きな考え方の転換をしていると語った。

昨年までは道路のネットワーク機能を守ることに重きを置いた考え方だったが、今年は人命最優先の考え方で取り組んでいくとのこと。具体的には、高速道路と並行する一般道国道があった場合、昨年までは、どちらか1本は、地域を孤立させないためや物流の影響を最小限にするために、閉鎖しなかった。しかし、観測史上最大といった昨年のような大雪になった場合には、そのような考え方を貫くことはできない。人命にも危機がおよぶと判断した場合、高速道路も並行する一般道も両方通行止めにする。そうなった場合は、道路を利用される皆様にもご協力いただきたいと述べた。

人命最優先で道路上での車両滞留を徹底的に回避する事が基本的な考えとなる。人命最優先で道路上での車両滞留を徹底的に回避する事が基本的な考えとなる。

◆立ち往生車両の6割は大型車で、そのうち9割がチェーン未装着

続けて、NEXCO東日本管理事業本部防災・危機管理チームリーダー 矢崎敏之氏が、大雪時の道路交通確保に対する考え方についてと、高速道路会社の冬期交通確保共通の取り組みについて語った。

「昨シーズン異例ともいえる短期間の集中的な降雪により、12月中旬に関越自動車道、1月上旬には北陸自動車道および国道8号において大規模な滞留事象が発生し、多大なご迷惑と社会経済活動に大きな影響を及ぼすことになった。このような状況を受け、国では有識者で構成される冬季道路交通確保対策検討委員会が開催され、大雪所の道路交通確保対策中間とりまとめの改定がされた」

この改定により大雪時の道路交通確保の考え方が変わった。「これまでの考え方は、道路を管理する道路管理者おのおのが、道路をできるだけ通行止めにしないことを目標にして対応してきた。しかし、平成20年代後半に、高速道路や国道で大規模な交通障害がたびたび発生するようになった。その中には、一酸化炭素中毒や車外遭難などにより、貴重な人命が失われる事態も発生している」。

「また、チェーン未装着の大型車が多かった影響もあり、過去には立ち往生車両の6割が大型車で、さらにそのうち9割が、冬用タイヤを装着しているもののチェーンが未装着であった。こうした状況を踏まえ、国では冬季道路歩行時道路交通確保対策検討委員会を立ち上げ、平成30年5月に中間とりまとめを発表した。これまでの道路管理者おのおのが道路をできるだけ通行止めにしないことを目標とするといった考え方から、大規模滞留の抑制と通行止め時間の最小化を図る、道路ネットワーク機能への影響を最小化するといった考え方に転換を図ることになった」と説明した。

この考えについて各社共通の取り組みは「まずひとつ目は、大雪予測時の出控え、広域迂回等の広報(情報提供)の強化。ふたつ目は、大規模な車両滞留を発生させないための対策強化だ。除雪機械の増強や監視カメラの増設など、ハード面の強化を図るとともに、車両滞留が予見される場合には躊躇なく予防的通行止めを実施し集中除雪を行う。またこれらの判断を的確に行うために行動計画の見直しや関係機関との連携強化など、ハードとソフト両面から対策を強化する。3つ目が関係機関と連携した速やかな乗員の救助。滞留車両が発生した場合には、人命を最優先に乗員の救助を第一に考え対応する」。

そしてユーザーに対してのお願いも語った。

「近年の短期集中的な大雪時においては、これまでの除雪作業を主体とした道路管理者のみでの対応では道路交通の確保を行うことが難しくなってきている。高速道路会社においては冬季交通確保の取り組みを経て、取り組み強化に努めていくが、2点ほどお願いをしたい」

「ひとつ目が冬用タイヤの早めの装着と、タイヤチェーンの携行だ。冬用タイヤのみの装着や、タイヤチェーンの不携行によって車両の立ち往生が長時間かつ大規模な車両滞留につながる場合がある。またお出かけ前には、天気予報や交通状況交通状況をご確認のうえ雪道での安全運転を心がけていただくようお願いしたい。ふたつ目が、大雪時には皆様ご自身の命を守るためにも、不要不急の外出を控えることや、広域的な迂回や出発時間の変更等の運行計画の見直しをお願いしたい」

『マンモシ博士 冬の高速道路ガイド』で気象情報などがお知らせされている。『マンモシ博士 冬の高速道路ガイド』で気象情報などがお知らせされている。

◆『マンモシ博士 冬の高速道路ガイド』などWebによる情報公開ページを活用

さらに矢崎氏は『東日本高速道路における雪氷対策の取り組み』を解説した。

まずは大雪予測時の出控え、広域迂回等の広報(情報提供)を強化する。「大雪が予測される降雪の3日前を目安に、大雪に関する研究発表を関係機関と合同で実施し不要不急の外出の自粛や運行計画の延期や見直し広域迂回のお願いなどを呼びかける。1日前からは気象予測から判断して、通行止め予測区間、開始のタイミング、迂回経路の情報を、あらゆる広報媒体を通じて繰り返し発信する。なお情報については概ね6時間ごとに最新の気象予測に基づいて更新する」。

「情報提供の点では、以前から『マンモシ博士 冬の高速道路ガイド』といったウェブページでの取り組みを実施している。スマホなどにより地域ごとの気象状況や安全のチェックポイントマップなどを知らせているので活用してほしい。さらに新たな取り組みとして、新潟県域の情報提供ツールとしてLINEの公式アカウントを作成し情報発信を行う。地域限定とはなるが、友達登録を行って情報を入手していただきたい。また他にも、公式Twitterや、ドライブトラフィック(ドラとら)といったWebページなどでも情報提供を行っている」

Uターンできるように中央分離帯を広げる工事も行われている。Uターンできるように中央分離帯を広げる工事も行われている。

大規模な車両滞留を発生させないための対策強化については、大雪時に車両滞留が予見された場合は躊躇なく予防的通行止めを行い、集中除雪を実施する。また新潟県域の取り組みだが、緊急発表するような大雪の場合に限り、一部インターを計画的に閉鎖する。

計画的インター閉鎖の目的は、「3つある。ひとつ目は、スタック・事故の発生リスクの軽減するねらいだ。事故発生リスクの高いインターをあらかじめ閉鎖することにより、車両滞留を予防する。ふたつ目は、除雪力をできるだけ本線に集中すること。これにより、本線の路面コンディションを良好に保ち、車両の滞留を予防する。3つ目としては、大雪時の出控え車両の誘発だ。これは利用が少なくなることで交通量が抑制され、車両滞留を予防するというねらいだ。なお計画的インター閉鎖の箇所については、気象予測や出入り交通量、一般道とのアクセス状況により選定することになる。遅くとも合同記者会見時に事前にお知らせをしていく」。

続いて、『関係機関と連携した速やかな乗員の救助』についても解説した。「滞留車両が発生した場合の対応の強化として、一部地域ではバギー隊の活用により速やかな状況把握を行う。また滞留車両の早期解放のため大型車両のUターン用に中央分離帯開口部の拡幅を実施している。さらに関係機関と連携した乗員保護訓練を実施し、対応力の強化に努めている」とのこと。

リアルタイムで情報発信されている『mew-ti』なども活用することで、安全運転が担保出来る。リアルタイムで情報発信されている『mew-ti』なども活用することで、安全運転が担保出来る。

◆スタックが発生しやすい場所に注意を

次に首都高速道路保全・交通部防災・交通管理室交通管理課担当課長長迫政幸氏が『首都高速道路における雪氷対策の取り組み』を説明した。

「先ほどから話があるように冬季の高速道路の安全で円滑な交通を確保するために、これまでの考え方を変えていく。従来は道路ネットワーク機能への影響を最小化していくということを目標としていたが、今季からは人命を最優先に幹線道路上で大規模な車両滞留を徹底的に回避することを基本的な考え方として対応していく」

「そのために、情報提供も強化する。大雪が予測される3日前に、『大雪に関する緊急発表』を関係機関、気象庁、国交省とNEXCOと合同で実施していく。緊急発表等や通行止めの可能性路線開始日時などは、ドライバーズサイトをはじめ、あらゆる広報媒体を用いて繰り返し公開していく。またドライバーズサイトのほか、リアルタイム道路交通情報サイト『mew-ti』、公式TwitterやLINEなどでも交通規制情報を提供する。大雪が予想される場合には、『通行止めの可能性路線』、『開始日時』などの重要な情報を発信する」

サービスエリアなどではリーフレットも配布されている。サービスエリアなどではリーフレットも配布されている。

このように、情報発信に力を入れていく旨が述べられた。デジタルでの発信だけでなく、『冬の高速道路ガイド安全チェックポイントマップ』というNEXCOと3社で印刷しているリーフレットもある。リーフレットには、スタックが発生しやすい40カ所を表記。これら40カ所は、勾配が5%以上のところと、過去にスタックが発生した箇所が挙げられている。

最後に首都高を利用するドライバーへのお願いとして、「早めの冬用タイヤの装着と、タイヤチェーンなどの滑り止め装置の携行を挙げていた。また通行止めの際は、事前に入口閉鎖を行うので注意してほしい」とのこと。

テレビCMも効果的に利用し、情報発信に努めている。テレビCMも効果的に利用し、情報発信に努めている。

◆テレビCMでも不要不急の外出を控えてもらうような訴求を展開

中日本高速道路における雪氷対策の取り組み』については、NEXCO中日本保全企画本部危機管理・防災課課長の秋山彰氏が解説した。

NEXCO中日本についても、東日本高速道路や首都高速と同じように、大雪が予想される降雪の3日前から出控えや広域迂回等を要請する情報を発信していく。「ただし、通行止め予測区間およびおおよその開始時刻は、2日前から知らされる。これは社内で、1日前では遅いという意見や、可能な限り早く通行止めの予測を教えてほしいという、ユーザーの声があったためだ」。『通行止め予測区間』、『開始日時』『迂回経路』など情報提供は、1日前から提供していく。6時間ごとに情報を更新することも他の事業社と変わらない。

大雪予測時の道路交通確保に向けた取り組みについては、「緊急情報を出すような大雪が予想された場合には、テレビCMも差し替え、ドライバーの命を守るため不要不急の外出を控えてもらうような訴求をしていく」。

また最新の気象情報は、ドライバー向けの道路・気象情報サービスの『ドラキャス』で入手し、高速道路上の除雪、凍結防止剤散布、つらら落としの作業箇所については、24時間リアルタイムに確認できる『除雪ナビ』のサイト利用を促していた。公式ツイッターである『みちのつぶやき~NEXCO中日本~』でもリアルタイムで情報を掲載しているのでフォローをしてほしいとのこと。

昨シーズン福井県内の北陸道で発生した大規模滞留は、約1600台という規模で、通行止めの解除までに最大66時間を要した。ひとたび大規模滞留が発生すると、24時間を超えて高速道路の本線上に拘束されてしまう。こういった際に、乗員保護として一時的に避難所やホテルなどへ避難出来るように旅行会社との協定を締結している。「万が一大規模滞留に巻き込まれてしまった場合はお客様支援スタッフに連絡してもらいたい」と述べた。

大規模滞留を発生させないための施策としては、通行止めに際して本線の規制までのタイムラグを解消し、通行困難な区間への流入車両をいち早く抑制するため、インターチェンジ流出部手前に簡易な規制装置や、情報板の設置を試験導入していく。

タイヤチェーン未装着だと通行できないこともある。タイヤチェーン未装着だと通行できないこともある。

◆山陰地方での大雪予測時には、降雪予測状況等にとくに注意

次に、NEXCO西日本高速道路保全サービス事業本部保全サービス事業部危機管理防災課課長代理橋本啓氏が、『西日本高速道路における雪氷対策の取り組み』を説明した。

西日本高速道路も、他社と同じく人命を最優先に、幹線道路上で大規模な車両滞留を徹底的に回避するということを基本的な考えとして対応する。「大雪の予測が出された場合、予防的通行止めというのを実施し集中除雪を行う。大雪が予測されている想定時刻の3時間前に通行止めの実施を判断する。実施判断をした際には、『アイハイウェイ』というサイトがあるので、緊急テロップ枠でこの予告内容を表示するとともに、公式ツイッターにも情報をツイートしていく」。ツイッターアカウントについては、関西、中国、四国、九州といったような各エリアのアカウントもある。

西日本高速道路においても「24時間以内の通行止めが予想される区間等については、1日前から6時間おきにその区間のマップと併せて、繰り返し知らせる。そのほか、安心安全を確保するために、テレビやラジオのCMによる広報も実施する」。比較的温暖な西日本エリアでも、例年降雪あるいは積雪があるので、安全走行の啓発として積極的に広報を実施する。

また大雪が予測されている場合、「ドライバーには車での不要不急の外出を控えて、冬用タイヤの装着やタイヤチェーンの携行をお願いしていく。タイヤについては溝の減り具合、コンディションなどもしっかり確認し、チェーンの携行についても遵守してもらう。場所によっては、タイヤチェーンの装着車のみの通行可能となるチェーン規制を実施する区間がある」。山陰地方で大雪が予測される場合には、交通の規制状況あるいは降雪予測状況等についてとくに注意してほしいとのこと。

そして雪道では急ハンドル、急加速、急ブレーキはやめ、速度は控えめに車間距離を十分とって安全走行を心がけてほしいと述べた。

今年も大雪予報には注意した方がよい。今年も大雪予報には注意した方がよい。

◆今シーズンは例年より大雪となる傾向が高くなり雪のピークは1月後半と予想

次に『今冬の気象傾向と高速道路影響情報サイトの紹介』について、ウェザーニューズ陸上気象事業部 道路気象チーム若林美咲氏が解説した。

「各地域の冬の天気傾向は冬らしい寒さの日が多くなる見込みだ。12月から2月の平均気温は西日本では平年並みか低い、東日本では平年並みか高い傾向になる。また冬型の気圧配置となりやすく、日本海側では曇りや雪雨の日が多くなる見込みだ。西日本の日本海側の降雪量は寒気の影響を強く受けるため、平年並みか多い見通しになっている。例年より大雪となる傾向が高くなる」

「とくに寒気が南下しやすくなる1月下旬から2月上旬は大雪の恐れがある。雪のピークは1月後半と予想され、強い寒気が南下して冬型の気圧配置が強まるタイミングでは、山陰を中心に大雪に注意が必要。西日本の広い範囲にも降雪エリアが広がるおそれがある。昨シーズンに続いて2年連続で冬にラニーニャ現象が発生した状態となるため、昨年の冬と同様に西日本の日本海側は雪への備えを行ったほうがよい。また1月後半からは南岸低気圧の影響で関東など東日本の太平洋側でも雪の降る可能性がある。関東平野で雪が積もった場合は影響が大きくなるので、最新の情報を確認してほしい」

また『大雪をもたらす注意すべき気象条件』についても解説。

「大雪をもたらす注意すべき気象条件はふたつある。まずは冬型の気圧配置とJPCZについてで、冬型の気圧配置になると等圧線が縦じま模様になり、日本海上から筋状の雲が流れ込み日本海側を中心に雪が降る。冬型の気圧配置が強まるとJPCZが形成されることがある。JPCZとは『日本海寒帯気団収束帯』を省略したもので、大陸からの季節風が中国大陸の長白山脈で分岐した後に日本海上で収束し日本に発達した雨雲をもたらす現象。このJPCZは局所的に長時間にわたる大雪となるおそれがあるため注意が必要だ」

「ふたつ目の大雪をもたらす注意すべき気象条件は、南岸低気圧だ。南岸低気圧は本州の南沿岸を東進する低気圧のことを言う。冬型の気圧配置とは違い太平洋側で雪が降りやすくなる。寒気が強く、地上気温も低い1月から2月はとくに大雪になる傾向がある。低気圧のため停滞はしないものの降水量は多く、雨か雪の判断が難しいのも特徴だ」

最後に『大雪時における高速道路情報提供』について説明があった。

「吹雪や大雪など気象災害リスクの高い事象の発生が予測された際に、高速道路利用者の運行計画を支援できるサイトを、高速道路各社とウェザーニューズが3月31日まで共同でオープンしている。このウェブサイトは最新気象情報と高速道路の緊急広報情報を合わせて提供し、今後の交通への影響の見通しや輸送計画に役立つ情報を発信しているのでチェックしてほしい」

《関口敬文》

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