【スズキ ソリオ 1200km試乗】予想外の質感!スズキスピリットが息づく走りに驚いた[前編]

スズキ ソリオ「ハイブリッドMZ」に1200km試乗した。細い道も臆せず進める車幅と小回り性能は大型車では得難いもの。
スズキ ソリオ「ハイブリッドMZ」に1200km試乗した。細い道も臆せず進める車幅と小回り性能は大型車では得難いもの。全 14 枚

スズキの小型トールワゴン『ソリオ』で1200kmほどツーリングを行う機会があったので、インプレッションをお届けする。

ソリオの源流は軽自動車市場に革命的な変化をもたらした初代『ワゴンR』の拡幅版として1997年に登場した『ワゴンRワイド』だが、続編の第2世代『ワゴンRプラス』までは軽自動車に押されてさっぱり売れなかった。ソリオという車名は第2世代の途中で『ワゴンRソリオ』と名称変更され、その後にワゴンRの名が取り去られたという、いわば生みの苦しみの産物である。

そのソリオだが、2010年にワゴンRのイメージを排した第3世代(ソリオの車名を冠したモデルとしては第2世代)を出したところ、販売が急伸。このクラスが商売になるという手応えを得たスズキは次の第4世代で新規開発のAセグメントミニカー用プラットフォームを採用し、乗り心地などの質感を大幅に改善。今回テストドライブした第5世代は第4世代のボディを拡大し、室内容積を拡大したものである。大きくなったと言っても全長3790mm、全幅1645mmと、絶対的にはミニカークラスの範疇に入る。

グレード体系はノーマル型とデコレーションを高めた「バンディット」の2系統があるが、テストドライブ車両はノーマル型、グレードは最上級の「ハイブリッドMZ」。試乗ルートは東京を出発し、京都、大阪、奈良などを巡って東京に帰着するというもので、総走行距離は1175.1km。通行した道路のおおまかな比率は市街地3、郊外路4、高速道路3、山岳路僅少。2名乗車、エアコンAUTO。

本題に入る前にソリオの長所と短所を5つずつ列記してみよう。

■長所
1.予想外のロングドライブ耐性の高さ
2.トールワゴンにしてはの枕詞不要な高速安定性の良さ
3.限界は低いが非常に素直な操縦性
4.居住区、荷室ともだだっ広く、使いでがある
5.ミニワゴンとしては大変良好な燃費

■短所
1.センターメーターの視認性が悪い
2.荒れた路面ではボディの共振が大きめに出
3.絶対的な加速性能はもちろん低い
4.暖房の温度分布は良くない
5.ADAS(運転支援システム)が少し前時代的

予想外の非凡な動的質感に驚いた

ソリオ「ハイブリッドMZ」のフロントビュー。ギラつきデザイン全盛の今日においてはかなり控えめな装い。ソリオ「ハイブリッドMZ」のフロントビュー。ギラつきデザイン全盛の今日においてはかなり控えめな装い。

では、本論に入っていこう。Aセグメントミニカークラスのトールワゴンであるソリオの本分は短距離コミュータ用途だ。重要項目は室内の広さや乗降性、経済性の高さ、小回り性能の良さなどで、走りの性能や遠乗りへの適性などについては二の次、三の次。そもそもこの手のクルマを選ぶユーザーの大半はクルマの動的な良さなど気にしてはいないので、それでいいのである。

ところが1200kmドライブをしてみたところこのソリオ、予想外と言っては失礼だが動的質感について非凡なものを持っており、長旅耐性は素晴らしいものがあった。高性能とは全然無縁なのだが、移動がとかく気持ち良いのである。

操縦安定性や直進性が高く、長距離移動時に余計な神経を使わずにすむ。見かけは質素なシートの出来が良く、疲労がたまらない。路面が過度に荒れていなければ乗り心地や静粛性だってスッキリ上々。小回りが利き、大阪の下町や奈良の旧市街など隘路を走るのも苦にならない。この旅では自動車に関する情報を豊富に持つ同行者がいたが、同様に驚いていた。

その良いタッチは決してコストを割いて作り込んだものではない。クルーズフィールがあまりに良いのでボンネットを開けてエンジンルームを見てみたが、前サスペンションのストラットタワーのトップはボンネットのラインよりずっと低い位置にあるなど、サスペンションまわりは新興国向けのAプラットフォームそのままのようだった。

クルマを良くするためサスペンションストロークを拡大するといったコストのかかる手法ではなく、低コスト車の限られたポテンシャルを丁寧なチューニングで余すところなく引き出したという印象である。自動車業界の名物経営者として知られ、昨年一線を退いた鈴木修元社長は「お金には限りがあるが創意工夫には限りがない」と、頭を使うことの重要性を強調していた。ソリオはそんなスズキスピリットが生き生きと息づいているクルマだった。

走行性能・乗り心地は

ダッシュボード全景。旧型に引き続きセンターメーターが採用された。ダッシュボード全景。旧型に引き続きセンターメーターが採用された。

では、項目別にもう少し細かく見ていこう。まずは走りについてだが、この点はソリオの出色の美点。重心が高く、前面投影面積も大きなトールワゴンであることを考えると望外の素晴らしさだった。

前述のようにシャシーやボディにコストがかかっている部分は見受けられない。タイヤも165/65R15サイズのダンロップ「エナセーブ EC300+」。これで1トン前後の車体を支えるのだから物理的な限界はタカが知れている。にもかかわらず、ソリオの走り味が非常に良かったのは不思議なところ。要因として考えられるのはハイウェイクルーズからワインディングまで前後左右タイヤへの重みのかかり方のバランスが大変良好であったこと。小さい能力を余すところなく、かつ安全に使い切るという思想にもとづく丁寧なチューニングのたまものという感があった。

最も好感を持ったのは元来トールワゴンが苦手とするハイウェイクルーズ。ボディの空力処理が優れているのか素晴らしい直進性を示したことと、高速域でも前輪のロードホールディングの具合をステアリングを通じてバッチリ知ることができたことの合わせ技で、新東名120km/h区間を最も速い流れに乗っても不安感はまったくなかった。

タイヤサイズは165/65R15。これで乗り心地を良くできたのだから大したものだ。タイヤサイズは165/65R15。これで乗り心地を良くできたのだから大したものだ。

安定性の高さと前輪の確かな接地感は山岳路、あるいは高速道路のインターチェンジのカーブなどでも威力を発揮した。カーブの途中でステアリングを切り足すと操舵量に正比例するようにロール角が増し、その反力がステアリングに的確に伝わってくるので、クルマの能力の何割くらいを使って走っているかがわかりやすい。こういうドライブフィールはそんな相関性を気にしない場合でも自然とクルマのコントロールに伴うストレスを軽減する効果がある。短距離コミュータのチューニングを手抜きなくやりおおせた開発スタンスは拍手モノだ。

乗り心地も思いのほか優れており、路面がうねったところでのヒョコつき感などスイフトより小さいくらいだった。舗装面の剥げた箇所が多いような路線ではさすがに乗り心地が低下するが、舗装面のひび割れ、路盤の継ぎ目程度のストロークであればこれまた至極滑らかにいなした。ライドフィールについては旧型もわりと良いものを持っていたのだが、そこからさらに大幅進化したという感じであった。

快適性における弱点は老朽化で舗装面のきめが粗くなってくるとゴーゴーというボディの共振音が大きめに出てくること。だが、低価格車ということを考えればこれもまたまったくの許容範囲。“お値段以上”という印象はドライブの最後まで変わることがなかった。ちなみにこの足のテイストはマイルドハイブリッドのFWD(前輪駆動)版のもので、純ガソリン車はスタビライザーが付かず、AWD(4輪駆動)版はリアサスペンション形式が異なるなど機構的に少なからず違いがあるので、シリーズ全般に共通するものかどうかは不明である。

非力でも苦にならない動力性能

エンジンは直列4気筒1.2リットル。3気筒が増えてきた今、横幅は結構大きく感じる。エンジンは直列4気筒1.2リットル。3気筒が増えてきた今、横幅は結構大きく感じる。

ソリオのパワートレインは最高出力67kW(91ps)の1.2リットル直4DOHC+CVTの1種類のみで、ベースグレード以外にはわずかながら駆動力アシスト&エネルギー回生の機能を持つ最高出力2.3kW(3.1ps)、最大トルク50Nm(5.1kgm)の電気モーターが付く。性能的にはぎりぎりマイルドハイブリッドと呼べるレベルだ。旧型には5速機械式自動変速機に最高出力10kW(13.6ps)の電気モーターを仕込んだより本格的なハイブリッドユニットもあったが、売れ行きがかんばしくなかったということで現行モデルではお蔵入りになった。

試乗車のパワートレインはマイルドハイブリッドだったが、実際に乗ってみると動力性能面では電気モーターによる駆動力アシストの効果はほとんど体感できない。唯一意識されるのは中低速域での緩加速でエンジン回転数が上昇しないまますーっと少しずつスピードが乗る時くらいだろう。

基本となる1.2リットルエンジンは別段パワフルでも官能的でもない。ドライバーの要求に対して出来る仕事を淡々とこなすという感じである。動力性能は軽自動車のスーパーハイトワゴンよりは高いが、登坂車線で低速車両を一気にゴボウ抜きしたいというようなわがままに応えてくれるようなものではない。

それでも総合的にはユーザーに気分良くドライブをさせる仕上がりではあった。エンジンとCVTの協調制御が良い塩梅に仕上げられていたことがそう感じさせたのではないかと思われた。象徴的だったのは新東名でのクルーズ時で、100km/hから120km/h+αに再加速するとき、CVTがギア比を落としてエンジンがぶん回るのではなくトルクを生かしながら徐々に回転を高め、スピードを乗せるという感じであった。非力であるにもかかわらず120km/hクルーズがまったく苦にならなかったのはこのためだ。

リッター20kmは余裕? 燃費性能は

ハイブリッドのエンブレム。ただしマイクロハイブリッドに果てしなく近い小規模なマイルドハイブリッド。ハイブリッドのエンブレム。ただしマイクロハイブリッドに果てしなく近い小規模なマイルドハイブリッド。

燃費はブッ飛ばさなければかなり良い数値を記録できる。東京から京都に新東名、新名神など高速を主体に向かい、そこから大阪に達する途中までの511.3km区間が給油量28.28リットル、実測燃費18.1km/リットル。途中、新東名ではGPS計測120km/h(速度計126km/h)前後を維持しながら走ったが、瞬間燃費計の動きから推察するに、その速度レンジではさすがに15km/リットルラインは維持できないようだった。燃費値がある程度落ち着いたものになったのは、新東名以外での燃費がおおむね良好だったからである。

そこから大阪および奈良市街を周遊し、今度は名阪国道~名四国道、さらに愛知から静岡にかけて国道23号線、国道1号線バイパス群を経由し、伊勢湾岸道みえ川越~名古屋南、東名大井松田~東京・葛飾のみ高速を使った帰路634.7km区間は給油量28.88リットル、実測燃費22.0km/リットル。120km/h区間を含まなければロングドライブを低コストで行う目安となるリッター20kmは十分にクリアできるものと思われた。

ちなみに市街地の燃費だが、運転の仕方で結構大きな差が生じるタイプであるように見受けられた。燃費良く走るには巡航中にエンジンの回転数維持を電気モーターに代行させるような踏み方をする、言い換えれば昔のホンダのマイルドハイブリッド「IMA」で燃費を稼ぐような運転をするのがてきめん効果的という感じであった。それをやるのとやらないのでは同じ平均車速でも15km/リットル vs 18km/リットルといった具合に、2割くらいの違いが出てきそうだった。

後編では居住空間や操作系、ライバル車との比較を紹介する。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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