【川崎大輔の流通大陸】アセアンからの外国人自動車整備エンジニア その12

愛媛日産ミャンマー人技能実習生
愛媛日産ミャンマー人技能実習生全 2 枚

◆ミャンマー進出、整備事業と人材育成

愛媛日産自動車株式会社(岡社長、愛媛県松山市)は、ミャンマー人技能実習生(整備)を雇用している。2017年1月より今まで合計20名の受け入れを行なっている。

きっかけはミャンマー進出だ。5年ほど前より準備を進め、2019年にミャンマーに「ENATIC AUTOMOTIVE(エナティックオートモーティブ)」という合弁会社(JV)を設立し、現地で自動車整備・BP事業をスタートさせた。同時に、研修センターを併設し、現地で自動車整備の人材育成も行っている。愛媛日産の専務であり、現地法人エナティックオートモーティブ社長である高橋氏は「外国人活用のきっかけは、海外事業立ち上げ準備として、技能実習生を日本で鍛え上げ海外事業の整備コア人材として育てることでした」と語る。更に「愛媛日産を母体とした自動車整備技術協同組合(AMSC)を日本国内に作りました。自動車整備に特化した技能実習生の監理団体です」(高橋氏)。

フィリピン人の自動車整備エンジニアフィリピン人の自動車整備エンジニア

現地法人エナティックオートモーティブでの人材育成は、急速な近代化で高まるミャンマーの自動車整備ニーズに対応していくだけでなく、日本で不足する自動車整備士の供給源にもなる、循環型ビジネスモデルを構築しようとしている。

◆ウィンウィンとなる外国人活用の仕組みづくり!

ミャンマーでは小さなプレハブのパパママショップ、もしくはプレハブもない道端整備が圧倒的に多い。車齢が高く、故障比率も高い中古車が中心であるにもかかわらず、正しいメンテナンスはできていない。更に大きな課題は、整備教育の不足と安全性の欠如だ。きちんとした教育が提供できていないことが自動車に関する安全意識が低いことにも繋がっている。ミャンマーでは予防整備という考え方がまだ普及しておらず、壊れてから直すというのが一般的だ。整備技術だけでなく、“整備とは?”という考え方も現地で教える必要がある。

整備士制度もミャンマーにはない。ブルーカラー軽視のイギリス時代の伝統が整備士の社会的地位向上をさまたげている感じがする。単に日本企業が現地に整備工場を作れば良いといのではない。高い専門知識、技術の教育を伝えることが大切だ。ミャンマー人のやる気とハングリー精神をうまく活用すれば可能だろう。単なる出稼ぎ技能実習制度ではなく、日本で得た整備技術を母国で活かしていける受け皿がほしい。それにより、ミャンンマーの自動車整備に携わる若者の社会的地位の向上を目指すことが彼らの動機付けになる。愛媛日産の取り組みにはその可能性がある。

これからの国内新車ディーラー考えなくてはいけないことはなにか。それは長期的な戦力として外国人との共存共栄を考えていくことだ。彼らがいずれ母国で活躍できるようなキャリアアップを支援することが求められている。

◆外国整備人材の育成で、整備資格取得を目指す!

オートバックスセブンのグループ会社として全国の代理店に対して、フィリピンからの自動車整備人材の紹介を行っている株式チェングロウス(関口秀樹社長、東京都江東区)と協同組合オートサービスインターナショナル(東京都江東区)。人口統計から将来の人材不足の危機感と国際化の業界発展に向けた取り組みを行う必要性を感じた。

2006年、オートバックスの代理店に対して、技能実習人材(鈑金塗装分野)の活用の取り組みをスタート。初めは、全国で年間5名ほどであった技能実習人材の活用だったが、技能実習の職種に自動車整備が加わった2016年以降から一気に活用人数が増加。現在は年間70~80名ほどの規模に成長した。協同組合オートサービスインターナショナルの専務理事である藤村氏は「人によっては出稼ぎのマインドはある。しかし、やる気を持つ外国人に対して、自動車整備士2級を取得できる教育プログラムを行います。つまり、技能実習生の期間終了後も継続して日本に自動車整備として残るような仕組みを構築したいです」と語る。

2019年に新しい在留資格の特定技能(整備)が設置された。技能実習制度による3年間の研修期間終了後に、特定技能として新たに5年間の就業が認められるものだ。合計8年間で、日本の自動車整備士2級を取れるような仕組みの導入を検討。ある一定の整備実務経験後に、短期間(1か月)で整備士3級を取得するカリキュラムを実践している。日本語能力N3以上であれば、かなりの確率で合格の可能性がある。関口社長は「自動車業界全体で見れば、日本人でも外国人でも技術があれば良いと感じています。まず、若い優秀な整備士の育成を行い、業界に浸透させていくことが大事です」と語る。

◆外国人を活用しないことがリスク

「技能実習の活用を初めて行う受入企業の現場での反応は二分します。経営者がなぜ外国人を採用するかをしっかり伝えている企業と、伝えずに従業員が動機付けされていない企業によって、見事に二分するのです」(関口社長)。

更に「歯車が噛み合うとうまくいきます。最初の歯車は経営側の問題と言えるでしょう。外国人のやる気はすごいです。1年も日本にいると外国人でも日本人のアルバイトを教える機会が出てきます。そうなると職場が明るくなりますよ。同じ若者で比べると外国人の方が頼もしく見えます。彼らに接することで日本人の若者の意識も変わる。学ぶことも多いと思います」と語る。外国人活用によって、社内風土が変化したと言う経営者は非常に多い。

関口社長は「まだ外国人を活用していない会社というのは、経営者自体が外国人アレルギーを持っています」と語る。「将来を見てみてください。外国人の活用をしていかないと間違いなく近いうちに、整備人材が枯渇するでしょう。今、採用ができている企業でも採用できなくなります。外国人活用に取り組まないことがリスクです」と語る。

藤村氏は「日本が上、アジアが下という意識を捨てなくてはいけません。将来、先を見ることが重要です。彼らに定着してもらい、将来も一緒に働いていく考えが大切なのです。今から外国人と一緒に働く体制を構築しなければ、会社の存続に関わるでしょう」と語る。

今回ご紹介した2つの企業は、短期的な活用ではなく、長期的に彼らが活躍できる体制の構築を目指している。外国整備人材は単なる労働者ではなくパートナーであり、一緒に共存できるかが、これからの企業の生き残りを左右するだろう。

<川崎大輔 プロフィール>
大学卒業後、香港の会社に就職しアセアン(香港、タイ、マレーシア、シンガポール)に駐在。その後、大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年より自らを「日本とアジアの架け橋代行人」と称し、アセアンプラスコンサルティング にてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。2017年よりアセアンからの自動車整備エンジニアを日本企業に紹介する、アセアンカービジネスキャリアを新たに立ち上げた。専門分野はアジア自動車市場、アジア中古車流通、アジアのアフターマーケット市場、アジアの金融市場で、アジア各国の市場に精通している。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。

《川崎 大輔》

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