ドアパネルをカット、大胆な加工が音に効く[ハイエンド・カーオーディオへの誘い]

「アウター化」が実行されたオーディオカーの一例(製作ショップ:パラダ<福井県>)。
「アウター化」が実行されたオーディオカーの一例(製作ショップ:パラダ<福井県>)。全 12 枚

手軽なやり方でもカーオーディオは楽しめる。しかし、とことん手間とコストをかけて徹底的に高音質を追求するという楽しみ方も存在している。そのようなアプローチのことは「ハイエンド」と呼ばれている。当特集では、その魅力を紐解いている。

スピーカー取り付け方にも「ハイエンド」な方法がある!?

これまでは製品にフォーカスしてきたが、今回は取り付け方にスポットライトを当ててみる。というのも、理想の音を追求するにはより良い製品を使うだけではだめだ。取り付け方の良し悪しでも得られる結果が変わってくる。で、取り付け方においても「ハイエンド」と呼ぶべきアプローチが存在している。今回はその一例について解説していく。

ちなみに取り付けに手をかけるか否かでもっとも音が大きく変わるのは、スピーカーだ。なぜならカー用のスピーカーは製品が裸の状態で売られていて、その時点ではまだ未完成だ。カー用のスピーカーはクルマに取り付けてはじめて完成品となる。つまり、スピーカーの取り付け作業は「スピーカーを作る」行為だと言って良い。そして取り付け方が良くないと、スピーカーとしての完成度が低くなる。

ホーム用のスピーカーを思い浮かべてほしい。それらは普通、スピーカーユニットが箱に取り付けられた状態で売られている。そしてその箱にもメーカーの英知が注がれている。対してカーオーディオではドアが箱の役目を担うのだが、クルマのドアはスピーカーボックスとしては設計されておらず、何もせずにただスピーカーを取り付けただけではスピーカーとしての性能はまだまだチープだ。ゆえに、ドアの音響的性能を引き上げるための作業がさまざま実行されることとなる。

そして、理想の音がとことん追求される際には、とある“最終手段”が選択される。それは「アウター化」だ。「アウター化」とは、「スピーカーの取り付け面をドアの内張りパネル面にまで立ち上げて振動板を目に見えるところに出す」という取り付け方のことを指す。内張りパネルをカットするという大胆な工程が踏まれて、これが実践されるのだ。

「アウター化」はハードルが高い。にも関わらずこれが実行される理由とは…。

というわけで「アウター化」は、なかなかにハードルの高い取り付け手法だ。製作に手間がかかり、結果、コストもかかる。さらには、クルマをリセールに出すときにはドアパネルを買い直さなければならなくなる。クルマを乗り潰すのであれば問題ないが、数年でクルマを乗り替えていこうと考える場合には「アウター化」は不向きだ。

しかし、「ハイエンド・カーオーディオ」愛好家の多くはこれを実行する。その理由は明確だ。「音に効くから」だ。

なお、使用するスピーカーが高級品であればあるほど、その性能を十二分に引き出したくなる。ゆえに、「ハイエンド・スピーカー」は「アウター化」にて取り付けられるケースが比較的に多めだ。例えば、50万円のスピーカーを選んだとして、ここまで高額であるのにその性能を開花させられなければつまらない。なので高級スピーカーになればなるほど、「アウター化」はセット、というような位置付けとなる。

さて、「アウター化」がなぜに音に効くのかというと…。この理由も単純明快だ。それは「スピーカーの振動板から放出される音情報をすべて車室内に届けられるから」だ。

このことが重要である理由を詳しく解説していこう。より良い音を得ようとするとき、鍵となるのは「音源に収められている情報のロスをいかに少なくできるか」だ。どんなに高級なスピーカーでもパワーアンプでも、音源に収められていない情報は付加できない。なので「ハイエンド・カーオーディオ」の世界では、いかに「そのまま再現できるか」、ここのところが徹底的に突き詰められていく。

その観点で言うと、スピーカーをドアの内張りパネル内に収めるようにして取り付けると、多少なりとも音情報が内張りパネル内に回り込む。つまり、わずかであってもロスが発生してしまうのだ。それを防ぐベストな方策が、「アウター化」というわけだ。

実行してみれば「アウター化」の効果を実感可能! そして、実行においてのこだわりポイントとは…。

もちろん、カーオーディオ・プロショップにスピーカー取り付けを依頼すれば、内張りパネル内にスピーカーを収める場合でも、情報量のロスが最小限で収まるように工夫してもらえる。結果、純正スピーカーのサウンドとは別格な良音を楽しめる。しかし、そのスピーカーの取り付け方を「アウター化」に変更すると、その音はまた一段と良化する。それほど「アウター化」の効果は如実に現れる。

ところで、ひと口に「アウター化」とは言ってもやり方はさまざまある。そしてより良い結果を得ようとするのなら、こだわるべきポイントもいろいろとある。参考として、どのようなこだわりポイントがあるのかを紹介していこう。

まず、「背圧(スピーカーの裏側から放たれる音エネルギー)のヌケを良くする」ことがポイントとなる。基本的に「アウター化」では、スピーカーの土台となるパーツである「インナーバッフル」を厚く作ることでスピーカーを立ち上げるケースが多いが、そうすると「インナーバッフル」が筒状になり背圧のヌケが悪くなる。そうなるとスピーカーの振動板の動きにストレスがかかり、性能を十分に引き出しにくくなる。

なのでこれに対しては、奥側に行くほどに口径を大きくする加工が有効策となる。ただしこの加工には手間がかかり、ドア内部の構造によっては実行し難いケースも出てくる。しかしこれを行える条件が揃っていれば、実行される場合は多い。

また、「取り付け面の強化」も有効策となる。取り付け面にボードを設定し、そのボードと内張りパネルとを一体化させると、コンディションはさらに良化する。この方法もコストがかかるが、実行するとスピーカーをより強固に固定できるので振動板の動力エネルギーのロスが減り、さらには内張りパネルの共振も抑制できる。そしてボードの素材にこだわるとそこでも音が変わり、一体化のさせ方に工夫を凝らすことでも完成度が上がる。このように「アウター化」もまた、こだわればこだわるほど高音質化が果たされていく。「アウター化」もユニットチョイスと同様に、「ハイエンド」を極めるポイントの1つとなるのだ。

今回は以上だ。次回も「ハイエンド・カーオーディオ」の魅力を明らかにしていく予定だ。乞うご期待。

太田祥三|ライター
大学卒業後、出版社に勤務し雑誌編集者としてキャリアを積む。カー雑誌、インテリア雑誌、そしてカーオーディオ専門誌の編集長を歴任した後、約20年間務めた会社を退職しフリーに。カーオーディオ、カーナビ、その他カーエレクトロニクス関連を中心に幅広く執筆活動を展開中。ライフワークとして音楽活動にも取り組んでいる。

ドアパネルをカットするという大胆加工が音に効く!? 魅惑の「ハイエンド・カーオーディオ」への誘い 第6回

《太田祥三》

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