【フォーミュラE】エネルギー効率が戦略の鍵…「次世代のモータースポーツ」にみるEVの特性

フォーミュラEがサウジアラビアで開幕
フォーミュラEがサウジアラビアで開幕全 8 枚

電気自動車のF1とも言える「フォーミュラE世界選手権(FE)」が先週末、サウジアラビアで開幕した。FEは内燃機関の代わりにモーターを搭載し、二酸化炭素を排出しないBEVで争われる。この次世代のレースには、今までにない見どころがある。

◆伝統的なモータースポーツの良さも

金曜日と土曜日に行われた第1戦と第2戦では、22台のレーシングカーが首都リヤド郊外にあるディルイーヤの町中に設けられたコースでバトルを演じた。FEは主に幅の狭いストリートサーキットで行われ、壁ギリギリのドライビングなど手に汗握る場面が見られる。ダラーラ製のワンメイクシャーシは頑丈に作られており、マシン同士の接触などエキサイティングなシーンも多い。

◆「アタックモード」

EVの特性と独特のレギュレーションを活用して行われるFEには、こうした伝統的なモータースポーツにはない面白さがある。決勝レースではモーターの最高出力が220kWに制限されているが、250kWにアップする「アタックモード」を2回使用することが義務付けられている。FEの場合はパワーアップが必ずしも有利に働かないため、レースでは戦略が勝敗を分ける。

開幕戦では、ポールポジションからスタートしたストフェル・バンドーン(メルセデス- EQフォーミュラEチーム)がこの罠にはまった。アタックモードに入るには、コース上に設けられた「アタックモード・アクティベーション・ゾーン」を通過する必要がある。このゾーンは通常の走行ラインから外れた場所にあるため、一時的にタイムをロスする。

バンドーンはレース中盤まで順調にトップを走行していたが、2度目のアタックモードに入る際にゾーンを不通過するミスを犯してしまう。もう一度ラインを外れてアクティベーションゾーンを走行しなければならず、2位を走行していたチームメイトのニック・デ・フリーズ(メルセデス)に先行を許してしまった。ゴール後、「今日はマシンの状態が良く、ほぼすべてをコントロールしてレースをリードしていたのに…」と悔しさをにじませた。

◆「電費」とバッテリー効率

すべてのマシンには、マクラーレン(アプライド・テクノロジー社)が供給する54kWhのバッテリーが搭載されている。45分 + 1周の決勝レースを走りきるためには、エネルギーの使い方も鍵になる。ワンメイクであるため基本的に性能差はなく、電力を使ったりセーブしたりするタイミングが重要だ。また、減速時の回生も行われるため、レースの状況に応じた頭を使った走りが結果を大きく左右する。

日本にもファンの多い、アンドレ・ロッテラー(TAGホイヤー・ポルシェ・フォーミュラEチーム)は予選で速さを見せ4番グリッドからスタートした。中盤までは3位を走行していたが、残り10分を切った頃からペースダウン。23周目に後続に抜かれると、ずるずると順位を下げ13位でレースを終えた。

これは、チームによる計算ミスでエネルギー(充電量)が足りなくなったためのスローダウンと言われている。FEのレギュレーションでは、コース上のアクシデントによりセーフティカー(SC)が導入されると、1分ごとにレース時間が45秒延長される。このレースでは、スタート10分後に発生したオリバー・ローランド(マヒンドラ・レーシング)のクラッシュによってレース時間がおよそ5分延長された。

SC先導によるスロー走行時には、基本的に電力消費は予定よりも少なくなるだろう。一方、レース距離が増えれば、それだけ多くのエネルギーが必要になる。細かな計算を基に、効率の良いドライビングが求められる。エンジン搭載車の場合、燃料消費量節約のためレース展開によっては「リフト・アンド・コースト(アクセルペダルから足を上げて惰性で走行)」をコースの一部で行うことがある。FEの場合は、減速時の回生も合わせた「電費」節約のテクニックが重要になる。

ジェイク・デニス(アバランチ・アンドレッティ・フォーミュラE)はロッテラーの巧みなブロックでなかなか前に出ることができず、コースをオーバーランするシーンも見られた。ピットからは、ロッテラーよりもエネルギー(充電量)が1%多いことが無線で伝えられ、慎重なオーバーテイクが促されていた。

◆次世代のモータースポーツ

最終的には、デ・フリーズがトップでチェッカーフラッグを受けて優勝。2回目のアタックモードで失敗したバンドーンも2位は死守し、メルセデスが「シーズン8」開幕戦を1-2フィニッシュで飾った。デニスは終盤メルセデス勢を追ったが、「彼らの方が少し速かったが、良いレースだった」と表彰台獲得に満足そうだった。

このように、FEは伝統的なモータースポーツの魅力に加えEVならではの要素も含む、まさに「次世代」のレースと言えるのではないだろうか。また、レースのための高効率なパワートレイン開発は、市販の電気自動車に採用される技術の発展にも貢献するだろう。今後も、「電気のF1」については独自の視点からレポートしていきたい。

《石川徹》

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