過酷だった振子式…キハ283系が四半世紀のロングランに幕 特急『おおぞら』から撤退

札幌駅を出るキハ283系『おおぞら1号』。最終日の下りトップを飾った。2022年3月11日。
札幌駅を出るキハ283系『おおぞら1号』。最終日の下りトップを飾った。2022年3月11日。全 17 枚

3月12日に実施されたJRや大手私鉄のダイヤ改正前日は悲喜こもごものラストラン風景が見られたが、なかでもJR北海道のキハ283系特急型気動車は25年におよぶロングランを経て特急『おおぞら』での運用を全うした。

◆発車案内や車内放送で四半世紀をねぎらう

札幌~釧路間で運転されている『おおぞら』へは、2020年3月のダイヤ改正から車体傾斜機能が省略されたキハ261系特急型気動車が投入されるようになり、振子式のキハ283系は6往復中半数を受け持つまでに縮小した。

『おおぞら』での運用最終日となった2022年3月11日は、改正の都合で、本来なら下りの最終運用列車となるはずだった『おおぞら9号』がキハ261系に振り替えられため、キハ283系は下り2本・上り3本での運用となり、ラストランは釧路発の上り『おおぞら12号』となった。編成は札幌方からキハ283-15+キハ282-2005+キハ282-7+キハ282-4+キロ282-8+キハ283-16の6両だった。

日中に走行した『おおぞら4号』。2022年3月11日。千歳線上野幌~新札幌。日中に走行した『おおぞら4号』。2022年3月11日。千歳線上野幌~新札幌。

同列車の釧路発では惜別の横断幕が掲げられたほか、停車駅の発車案内ではキハ283系がラストランとなる旨の表示が掲出されていた。南千歳を過ぎた後にはラストランにちなんだ放送が流れ、航空機並みのサービスを目指したことや2011年5月の脱線火災事故などに言及。25年の労をねぎらう語りが好評を博した。

札幌運転所へ回送される『おおぞら12号』の編成。ホームの端まで見送りの人が鈴なりに。2022年3月11日。札幌運転所へ回送される『おおぞら12号』の編成。ホームの端まで見送りの人が鈴なりに。2022年3月11日。

札幌駅の到着ホームには、23時近い深夜にも拘わらず『おおぞら12号』を出迎える人々で鈴なりとなり、2015年3月改正で定期『北斗星』や『トワイライトエクスプレス』、711系電車が引退した時以来の熱気を感じた。ただ、以前のラストランにつきものだった「ありがとう」といった掛け声や拍手はなく、熱気のわりに静かな幕引きのように感じた。筆者はキハ283系が『スーパーおおぞら』でデビューした1997年3月22日に札幌駅の出発式に立ち会っているだけに、四半世紀を経たラストランにも立ち会えたことに感無量だった。

25年前、『スーパーおおぞら1号』の出発式。「航空機並のサービス」を目指してツインクルレディと呼ばれる女性客室乗務員が華やかに旅を演出していた。実際、『スーパーおおぞら』は空路の客をかなり奪っていた。25年前、『スーパーおおぞら1号』の出発式。「航空機並のサービス」を目指してツインクルレディと呼ばれる女性客室乗務員が華やかに旅を演出していた。実際、『スーパーおおぞら』は空路の客をかなり奪っていた。

◆制御付き振り子車としては初の定期運用離脱に

札幌~釧路間の特急は、1962年10月に登場した『おおぞら』の釧路編成が最初で(当時は函館発着で旭川編成を併結)、1982年9月に『おおぞら』全列車が新鋭のキハ183系特急型気動車に交替するまで、キハ80系特急型気動車が運用されていた。2001年7月には全列車がキハ283系『スーパーおおぞら』に統一されたが、その歴史上、最も長く活躍していたのはキハ80系でもキハ183系でもなく、キハ283系であったのは意外だった。登場時の記憶が鮮明で、つい昨日のように思えているからだろう。

デビューまもない頃のキハ283系。当時は9~11両の長大編成がよく見られた。側窓がポリカーボネート保護がないオリジナルの状態である点に注目。1998年頃。デビューまもない頃のキハ283系。当時は9~11両の長大編成がよく見られた。側窓がポリカーボネート保護がないオリジナルの状態である点に注目。1998年頃。

同車は、カーブが多く地盤も軟弱、かつ自然条件も厳しい道東の地を高速で駆け抜けるために、傾斜角6度の制御付き振子やリンク式の自己操舵台車を採り入れて走行性を高めたほか、遠心力を緩和するため冷房装置を床置きにするなど徹底的な低重心化や軽量化が図られた。最高速度はキハ183系(HET編成)やキハ281系と同じ130km/hではあったが、踏ん張っていないと立っていることさえ困難な韋駄天ぶりで、例えば悪いが「暴れ馬」のような印象さえあった。

石勝線のシェルターを通過する上りのキハ283系『スーパーおおぞら』。キハ283系は2000~2013年には札幌~帯広間の『スーパーとかち』にも運用されていた。2019年3月。石勝線滝ノ上~川端。石勝線のシェルターを通過する上りのキハ283系『スーパーおおぞら』。キハ283系は2000~2013年には札幌~帯広間の『スーパーとかち』にも運用されていた。2019年3月。石勝線滝ノ上~川端。

JR北海道が車両の高性能化に最も意欲を燃やしていた1990年代の集大成的な車両であったが、先行して登場しているキハ183系やキハ283系より早く定期列車から退いたことは、いかに過酷な条件で運用されたのかを物語っている。1989年に世界初の制御付き振子式気動車として登場したJR四国の2000系が依然として現役であることを考えると、一層、キハ283系のハンディキャップが際立つ。

経営環境が厳しく、高速化を犠牲にしても安定・安全を優先するようになったJR北海道では、コスト面で維持が難しくなった点は否めず、時代の変化が早期の退役に追い込んだとも言えるだろう。

◆残るJR北海道の振子式はキハ281系に

今回は定期『おおぞら』からの撤退となり、2021年3月に定期列車から撤退したJR東日本の185系特急型電車や、同じ改正で定期運用を終了した小田急電鉄の50000形VSEのように臨時列車やイベント列車として運用されるかどうかは不明だ。

札幌・旭川~網走間の特急『オホーツク』『大雪』に運用されているキハ183系の老朽化が深刻なため、はるかに経年が少ないキハ283系が転用されるのでは? と見る向きもあるが、JR北海道が2019年4月に発表した「中期経営計画2023」では、一般型のH100形とともにキハ261系の増備が2023年度まで続けられメンテナンスコストなどの削減が図られることになっているだけに、『おおぞら』の引退で使命を終えたと考えるのが妥当だろう。

札幌発着の特急として唯一、キハ183系で残る『オホーツク』。しかし、ご覧にように老朽化が進み、置換えは待ったなしの状況だ。2022年3月11日。札幌駅。札幌発着の特急として唯一、キハ183系で残る『オホーツク』。しかし、ご覧にように老朽化が進み、置換えは待ったなしの状況だ。2022年3月11日。札幌駅。

このまま完全に引退すると、JR北海道に残る振子式車両は、現在、函館~札幌間の『北斗』に運用されているキハ281系のみとなるが、これも老朽置換えの対象になっているため、2022~2023年度中にはキハ283系と同じ運命を辿ることになるだろう。

キハ283系が定期運用を退いてからは、このキハ281系がJR北海道で定期運用を持つ振子式車両となっている。キハ283系は『スーパー北斗』にも充当された時期があり、キハ281系との併結も見られた。函館行き『北斗16号』。2022年3月11日。石勝線新札幌~上野幌。キハ283系が定期運用を退いてからは、このキハ281系がJR北海道で定期運用を持つ振子式車両となっている。キハ283系は『スーパー北斗』にも充当された時期があり、キハ281系との併結も見られた。函館行き『北斗16号』。2022年3月11日。石勝線新札幌~上野幌。

車体傾斜機能を持つ車両全般を見ても、キハ261系は2015年頃からその機能が封印されており、近年の増備車では最初から省略されている。一般型のキハ201系も機能を発揮しているとは言い難く、JR北海道の車両は数年のうちに「通常の車両」へ収斂していくと思われる。

タンチョウをあしらったキハ283系『おおぞら』のヘッドマーク。このLED表示も見納めとなった。現在の『おおぞら』は2020年3月改正で『スーパーおおぞら』を改称したもの。2022年3月11日。タンチョウをあしらったキハ283系『おおぞら』のヘッドマーク。このLED表示も見納めとなった。現在の『おおぞら』は2020年3月改正で『スーパーおおぞら』を改称したもの。2022年3月11日。

《佐藤正樹》

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