「3ウェイ」が存在するスピーカー[カーオーディオ“なぜ?”]

「3ウェイスピーカー」を搭載したオーディオカーの一例(製作ショップ:カーオーディオクラブ<大阪府>)。
「3ウェイスピーカー」を搭載したオーディオカーの一例(製作ショップ:カーオーディオクラブ<大阪府>)。全 8 枚

カーオーディオは比較的に専門性が高い。ゆえに初心者に、なんとなくの“とっつきにくさ”を感じさせることもある。当連載はそんなイメージを和らげるべく、ビギナーが感じがちな“素朴な疑問”の答を示している。今回は、「3ウェイ」について考える。

愛好家の多くは「3ウェイ」を使っている。その理由は?

カーオーディオでは「セパレート2ウェイスピーカー」が使われることが多い。ちなみに「セパレート2ウェイスピーカー」とは、低音から高音までのフルレンジの信号を、高音再生用のスピーカーであるツイーターと、中低音を再生するスピーカーであるミッドウーファー、この2つを使って鳴らそうとするスピーカーシステムのことを指す。

だが、音へのこだわりが強いカーオーディオ愛好家の多くは、「2ウェイ」ではなく「セパレート3ウェイスピーカー」を使っている。それはなぜなのか…。今回はその理由を説明していく。

結論から入ろう。高音質を追求しようとする愛好家の多くが「3ウェイ」を選択するその理由はズバリ、「音的なアドバンテージが大きいから」だ。

「音的なアドバンテージ」とは、主には3つある。まず1つ目として挙げるべきは、「各スピーカーの負担を減らせること」だ。「2ウェイ」も、ツイーターとミッドウーファーの2つのユニットを用意し、それぞれに得意な仕事に専念させてよりスムーズに高音から低音までを再生しようとするものだが、しかし実を言うと「2ウェイ」でも各スピーカーへの負担が結構大きい。特に、ミッドウーファーに大きな負荷がかかってしまう。

というのも、「2ウェイスピーカー」のミッドウーファーの担当再生帯域は案外広い。人間の可聴帯域は概ね10オクターブ分あるのだが、「2ウェイ」のミッドウーファーは、その70%くらいの音域を担当することとなる。スピーカーによってまたはチューニングによって変動があるが、場合によってはそれよりも広い帯域の再生を担うことも少なくない。

「2ウェイ」のミッドウーファーでは、「分割共振」が起こりがち!?

このように「2ウェイ」のミッドウーファーは担当帯域が広いので、実はとある問題が発生しがちだ。その問題とは、「分割共振」だ。

「分割共振」とは以下のような現象のことをいう。ミッドウーファーの振動板は「コーン型」である場合がほとんどだが、良質なサウンドを得るためにはそのコーンの中心側と外周側が常に同じ動きをする必要がある。例えば中心側が0.5ミリ前方に動いたときには外周側も一糸乱れずに同様に0.5ミリ前方に動くのが理想形だ。ちなみにこのような動き方のことは「ピストンモーション」と呼ばれている。

しかしながらミッドウーファーにある程度高い音程の信号が入ると、「ピストンモーション」が乱れがちとなる。中心側と外周側の動きがシンクロせずに、振動板が波打ったような動作をしてしまうことがあるのだ。このような状況のことが「分割共振」と呼ばれていて、これが起こると多少なりとも音が濁る。

なおこの「分割共振」は、ほぼすべてのスピーカーで起こり得る。いわば「2ウェイ」の宿命なのだ。

しかし「3ウェイ」化を図ると、「分割共振」の発生を防げる。中音再生のスペシャリストである「スコーカー(ミッドレンジ)」を加えることで、主にミッドウーファーの担当帯域を大幅に減らせるからだ。「分割共振」が起こりやすい帯域の再生をミッドウーファーが担わなくても良くなるのだ。

そして「音的なアドバンテージ」の2つ目は、「中音の出どころを高い位置に上げられること」だ。実は、音楽の美味しいところは中音に集中する。ボーカル帯域はもとより、ソロ楽器やピアノやギターによる和音の演奏も、多くが中音だ。

「3ウェイ」はサウンドステージを上げやすく、得られる情報量も増える!?

で、「2ウェイ」ではその音楽の主要部分である中音が、足元(ドアの下側)に取り付けられたミッドウーファーにて鳴らされることとなる。対して「3ウェイ」では中音を、Aピラーとかドアの上部に取り付けた「スコーカー」にて再生できる。結果、サウンドステージを高い位置に再現しやすくなる。

さらに「音的なアドバンテージ」の3つ目は、「中音の情報量を多く得られること」だ。というのも、ミッドウーファーで中音を鳴らす場合、ミッドウーファーは反対側のドアの方を向いているので、リスナーは斜からその音を聴くこととなる。対して「3ウェイ」では、スコーカーと正対できる。または完全に正対できない場合でも、ミッドウーファーほど振動板が横を向かない。

このことがどのように音に効いてくるのかと言うと、それは以下のとおりだ。中音は低音と比べて指向性が強い。つまり、真っ直ぐに進もうとする性質が強い。となるとスピーカーが斜を向いてしまうと得られる情報量が落ちがちとなる。真正面を向いている方がたくさんの情報を得られやすくなるのだ。

とはいえ「3ウェイ」にもデメリットがある。それは主には2つある。1・「コストがかかること」、2・「制御が難しくなること」、この2つだ。スピーカーユニットの数が増えるので製品代がかさみ、取り付け費用も多くなる。さらに1つ1つのスピーカーにパワーアンプの1chずつをあてがう「マルチアンプシステム」を組む場合には、パワーアンプのch数も多く必要になるのでその分のコストも上がってしまう。

そしてサウンドチューニングの難易度も上がる。スピーカーユニットが増える分だけケアすべき要素も増えるからだ。

しかしこれらハードルを越えられれば、より良い音が得られる可能性も高まる。もしも高音質を追求しようとするのであれば、挑戦してみる価値は大きい。覚えておこう。

今回は以上だ。次回以降もカーオーディオ初心者が抱きがちな“疑問”の答を解説していく。お楽しみに。

太田祥三|ライター
大学卒業後、出版社に勤務し雑誌編集者としてキャリアを積む。カー雑誌、インテリア雑誌、そしてカーオーディオ専門誌の編集長を歴任した後、約20年間務めた会社を退職しフリーに。カーオーディオ、カーナビ、その他カーエレクトロニクス関連を中心に幅広く執筆活動を展開中。ライフワークとして音楽活動にも取り組んでいる。

「3ウェイ」が存在するのはなぜ?「カーオーディオにまつわる“なぜ?”を解明!」Part3「スピーカー」編 その6

《太田祥三》

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