【MaaS体験記】新しい公共のカタチをつくる…富山県朝日町・博報堂「みんなで未来課!」官民連携の取り組み

発足式会場の「ノッカルあさひまち」車両
発足式会場の「ノッカルあさひまち」車両全 8 枚

今回の取材は、富山県朝日町と株式会社博報堂がすすめるデジタル・トランスフォーメーション(以下「DX」)の取り組みだ。

朝日町と博報堂は、2021年10月にDX推進を目的に連携協定を締結しており、その連携協定にもとづき2022年度より朝日町に新部署「みんなで未来!課」を創設した。今回は、朝日町にある観光名所「春の四重奏」が見える場所で行われた発足式に参加した。

「春の四重奏」を背景に朝日町「みんなで未来!課」の発足式での記念撮影。左から、博報堂DXソリューションデザイン局の中村 信局長、笹原靖直町長、博報堂常務執行役員の名倉健司氏「春の四重奏」を背景に朝日町「みんなで未来!課」の発足式での記念撮影。左から、博報堂DXソリューションデザイン局の中村 信局長、笹原靖直町長、博報堂常務執行役員の名倉健司氏

朝日町における課題

富山県朝日町は、富山市から東に約50kmほど離れた新潟県(糸魚川市)との県境に位置する人口約1万1000人、高齢化率は40%を超える町だ。過疎化や少子高齢化がすすみ、過去には路線バスが撤退するなど公共交通機関も少ない。そこで2020年に、地域住民がドライバーとなり高齢者を送迎するサービス「ノッカルあさひまち」を始めた。

朝日町が導入した「ノッカルあさひまち」は、住民同士の助け合いの精神を生かして、モビリティの課題を解決する公共交通サービスだ。自家用有償旅客運送に則ったサービスで、住民が所有している自家用車を利用して、移動手段を持たない高齢者を送迎する。朝日町が運行主体となり、ドライバーや利用者の募集、運行管理をし、博報堂がサービス設計・コミュニケーションデザイン設計を担っている。

この取り組みを背景に、2021年には博報堂とDX協定を締結し、朝日町における地域課題を一緒になってすすめてきた。今回は、そうしたDX推進の取り組みをさらに発展させるため、朝日町に新部署「みんなで未来!課」を創設し共同プロジェクトを開始する。

発足式会場の「ノッカルあさひまち」車両発足式会場の「ノッカルあさひまち」車両

あさひ舟川「春の四重奏」で開催された発足式

2022年4月6日、朝日町の観光名所であるあさひ舟川「春の四重奏」を背景に「みんなで未来!課」官民連携発足式は開催され、朝日町や博報堂の関係者、報道関係者など約30名ほどが集まった。天候に恵まれ桜の満開まであと少しであったため、地元の観光客もいて屋台なども建ち並んでいた。

発足式会場となった「春の四重奏」が見える駐車スペース発足式会場となった「春の四重奏」が見える駐車スペース

今回創設される新部署「みんなで未来!課」の住吉嘉人課長の司会進行のもと、朝日町と博報堂の連携について朝日町の笹原靖直町長から説明があった。朝日町は2022年度より、町の将来への価値創造につながるDXやカーボンニュートラル、戦略的な情報発信にて町の魅力度向上を目指し、その強力なパートナーとして博報堂とタッグを組む。博報堂は、地域活性化起業人制度を活用して、博報堂社員をDX専門人材として派遣し、博報堂MDコンサルティング局の畠山洋平局長代理は次世代パブリック・マネジメント・アドバイザーに就任する。

笹原町長からは、町民の目線に立ち、ニーズを的確にとらえ、町民ひとりひとりの生活の利便性が向上することを第一に考え、町の将来像である「夢と希望が持てる町づくりの実現」そして町民が生き生きと暮らしを実感できる朝日町になるよう博報堂と推し進めていきたいと話した。

司会進行をした新部署「みんなで未来!課」の住吉嘉人課長司会進行をした新部署「みんなで未来!課」の住吉嘉人課長

生活者発想で新しい公共を目指す

博報堂はこれまで、広告領域におけるクライアントビジネスで全国約3000社とともに、生活者発想・パートナー主義をマーケティング領域で実践してきた。生活者発想とは、生活者を単に消費者としてとらえるのではなく、ひとりひとりをまるごと理解して新しい価値を想像し、生活を豊かにする取り組みだ。博報堂常務執行役員の名倉健司氏からは、そうした取り組みを全国の社会課題の解決にまで拡張していくチャレンジを推し進めているとし、その代表例が朝日町の取り組みだと話した。

朝日町とは、2020年に公共交通のDXである「ノッカルあさひまち」の実証実験を行い、2021年10月には本格運用を開始、1500人を超える朝日町民の方にご利用いただいている。朝日町に暮らす生活者の移動や地域コミュニティの活性化に取り組んできた成果だと話し、今回朝日町の挑戦をさらに一歩前に進めるのが、朝日町に新設される部署「みんなで未来!課」官民連携の取り組みになる。

この取り組みは、公共交通DXに加えて、行政サービス、カーボンニュートラルなどのグリーン戦略、子育て環境など幅広い分野でも生活者の暮らしや地域コミュニティを豊かにする「価値創造型DX」を実現していく。この朝日町モデルの成功が、全国の地方地自体でも活用されることを目指すと話した。

今回、朝日町の次世代パブリック・マネジメント・アドバイザーに就任した博報堂MDコンサルティング局の畠山洋平局長代理からは、目指したいのは「新しい公共」だと話があった。いろいろな社会課題に向き合う取り組みは全国でもあるが、今回の官民連携も「構想は大きく、やることは地域住民の方と一緒になって取り組むもの」で、博報堂が勝手にやりたいことをやるのではないと話した。生活者をシンプルに豊かにする、生活者がイキイキと住み続けられる町を住民の方と一緒になって作っていくのが新しい公共のカタチだと話した。

畠山氏は、2019年から朝日町に携わっており現在も週一回は朝日町に来ていると言う。そのなかで朝日町の住民の皆さんといっしょにどうすれば地域課題が解決するかを考えて実施したひとつが「ノッカルあさひまち」だ。このサービスを開始したことで、ドライバーの方からも「地域に役立ちたいという思いはあったが機会がつくれなかった」や「このサービスがあることで、久しぶりに外に出ることができた」などの住民の声があがっているようだ。地域の移動を充足するとともに、人がやってみたくなる、ワクワクすることを朝日町の皆さんと一緒に作っていきたいと話した。

朝日町の次世代パブリック・マネジメント・アドバイザーに就任した博報堂MDコンサルティング局の畠山洋平局長代理朝日町の次世代パブリック・マネジメント・アドバイザーに就任した博報堂MDコンサルティング局の畠山洋平局長代理

地方だからこそできるコミュニティ共創型のDX推進

2021年10月に、朝日町と博報堂はDX協定を締結し、共同プロジェクトを開始した。朝日町の住民との対話が増え、日本の大きな社会テーマでもある3つのテーマ「ブランドDX」「情報発信DX」「子育てDX」について議論してきた。さまざまなステークホルダーと話をしたことで、いろいろな課題がみえてきたと畠山氏は話す。

そのなかで具体的な取り組みのひとつに、朝日町全体で地域活性化キャンペーン「ポHUNT(ポハント)」をLINE上で実施している。お出かけスポットのQRコードを読み取ることでポイントがもらえる商品応募キャンペーンと、自治体が情報発信した動画コンテンツの視聴やクイズの回答でポイントがもらえる仕組みだ。自宅にいても地域活性化に貢献できることで、人口1万人の朝日町で1300人が参加。参加者は「家族でとても楽しませていただいた」「知らない人とも話すきっかけができた」など、町民どうしが触れ合う町民プラットフォームになっていると博報堂DXソリューションデザイン局の中村 信局長は説明した。

富山県朝日町と株式会社博報堂がすすめるデジタル・トランスフォーメーションの取り組み富山県朝日町と株式会社博報堂がすすめるデジタル・トランスフォーメーションの取り組み

こうしたDX推進活動は、朝日町の住民の方々にも好評で、アンケート調査によると「ノッカルあさひまち」の認知率は80%を超え、「ポHUNT」でも50%に届く認知率だと言う。大事なのは、デジタルで新しいことをやるということより、地域に根づいているハードやアセットは揃っていると考え、そこにデジタルをどう加えることができるかを考えていくことだと中村氏は話した。

そのうえで、地域の生活者や事業者が、主体的に取り組める仕組みをいかに創り出せるかが課題だと話し、地方だからこそできるコミュニティ共創型のDX推進を目指す。20年後の日本の社会課題が顕在化している朝日町から、デジタル田園都市国家構想を見据えた日本全国の社会課題解決モデルにしていこうと中村氏は話した。

公共のあり方を問うスマートシティ

20年後には、高齢化率が45%を超える町はさらに増えていく。11,000人規模の町で実践しているこの取り組みが、同じように高齢化・デジタル化に課題をもつ日本全国にも波及していく。実際、「ポHUNT」を通して、町民の20代~60代など年代差があっても同じ話題で会話ができているということに笹原町長は手応えを感じている。また畠山氏からも、町の中華屋さんに寄ると「ポHUNTやっていく?」など町民の会話の中にも浸透が見えたと話した。

スマホの利用に対してハードルが高いと言われる80代の高齢者に対しても、電話予約だけではなく繰り返し利用者などに対しては、LINEでのボタン操作でかんたんに予約ができるようデジタルの利用機会を提供していくと博報堂の堀内氏は話している。

ただ、こうしたDX推進の取り組みがすべての住民に受け入れられるどうかは疑問がのこる。LINEからでしかできないことがどこまで浸透するかや、地域貢献したい希望を継続的にできる環境づくりがどこまでできるのかなど、今後の取り組みに注目したい。

発足式で何度も話されていた、行政だけでもなく事業社だけでもなく町民だけでもなく、一緒になって取り組むことが重要という言葉が印象に残る。朝日町には、全国でも共通する社会課題をすべて持っていると言う。ここで解決できれば、全国でも解決できる糸口が見つかるはずだと関係者は自信をのぞかせる。

3つ星評価
エリアの大きさ ★☆☆
実証実験の浸透 ★★★
利用者の評価 ★★★
事業者の関わり ★★★
将来性 ★★★

坂本貴史(さかもと・たかし)
株式会社ドッツ/スマートモビリティ事業推進室室長

グラフィックデザイナー出身。2017年までネットイヤーグループ株式会社において、ウェブやアプリにおける戦略立案から制作・開発に携わる。主に、情報アーキテクチャ(IA)を専門領域として多数のデジタルプロダクトの設計に関わる。UXデザインの分野でも講師や執筆などがあり、2017年から日産自動車株式会社に参画。先行開発の電気自動車(EV)におけるデジタルコックピットのHMIデザインおよび車載アプリのPOCやUXリサーチに従事。2019年から株式会社ドッツにてスマートモビリティ事業推進室を開設。鉄道や公共交通機関におけるMaaS事業を推進。

《坂本貴史》

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