定額の交通サービス『mobi』、バスでもないタクシーでもない“ちょいのり”

新たな移動サービスを創出を目指し、WILLERとKDDIが共同で新会社を設立
新たな移動サービスを創出を目指し、WILLERとKDDIが共同で新会社を設立全 17 枚

WILLERKDDIが出資する「Community Mobility」は4月21日、東京都内で事業説明会を開催。相乗りで利用する交通サービス「mobi(モビ)」の展開エリアを、今夏を目標に現在の6エリアから22エリアへ拡大する計画を発表した。

◆半径2km以内で、自転車やマイカーに代わる“ちょいのり”

Community Mobilityは今年1月に設立され、4月1日からはWILLERが提供する交通サービスにKDDIが手掛けるデータをAIで掛け合わせる事業を開始した。その掲げるコンセプトは『人とひと、人とまちをつなぐ、新たなモビリティサービスを提供』すること。これにより、「新しい暮らしに合った移動体験を提供する」としている。そのコンセプトから生まれた移動サービスがmobiだ。

mobiはタクシーとバスの中間のような相乗り定額サービスで、運行対象となる範囲は半径約2km以内。いわばこれまで利用していた自転車やマイカーに代わる、新たな「ちょいのり」サービスとなるものだ。運行に決まったダイヤやルートはないが、エリア内には仮想バス停が設定され、利用者が希望した乗降地点に応じてAIがルートを決定する仕組みだ。

本サービスでは、生活圏における課題解決や欲しいサービスを満たす、小さな生活エリアごとにフィットしたサービス化を目指しており、まずは各地域の課題とニーズを調査した上で22エリアでの実現を目指す。サブスクリプションプランのため経済的ストレスがなく、子供の塾への送迎、最寄り駅の送迎、少し足を延ばした買い物、家族での外食、高齢者の自由な外出など、幅広い用途に応じた利用が可能となる。

2021年12月までは3エリア(東京都渋谷区/名古屋市千種区/京都府京丹後市)のみが対象だったが、新会社設立時点で3エリア(大阪市北区/大阪市福島区/東京都豊島区)を追加。今回の発表で新規拡大検討エリアとなった16エリアには、北海道や東北、北信越、四国など人口がそれほど多くない地方都市が含まれている。各地域の自治体や交通事業者との調整の上、順次運行を開始していく予定だ。

◆新たなパートナーとの協業により移動目的を創出

21年6月からスタートしたこれまでの実績としては総ライド数が約4万回で、総会員数は約1万2000人。利用者からはライフスタイルの変化や外出頻度の増加、行動範囲の拡大に貢献したとして支持する声が聞かれているという。また、22年4月1日からスタートした大阪北区・福島区のサービスでは会員数はすでに約1300名に達し、サブスク会員も約700名を抱えるまでになっている。総ライド数は2500回を数えており、地方、都市部を問わず需要性があることを示した。

また、新た取り組みとして、移動にまつわるエンタメ/スポーツ/教育/医療/介護をはじめとする他業種とのコラボレーションにより、新たな移動目的を創出して移動総量を増やす計画。そのパートナーとして、イオンタウンやイーオン、吉本興業との協業が決定している。

イオンタウンは千葉県旭市に新規オープンする「イオンタウン旭」をはじめ、全国のショッピングモールでの送迎手段として活用。英会話教室のイーオンとは生徒だけでなく教職員スタッフの送迎として、また吉本興業とはサービスの宣伝活動に協力してもらうことにしている。

mobiの利用料金は月額5000円で乗り放題となり、同居家族は最大6人まで1人当たり500円で追加できる(すべて消費税込み)。通常は最初の2週間はトライアル期間として無料。ただし、5月31日までは新会社Community Mobility設立を記念して、先着1000名を対象に、最初の30日間が無料、次の30日間は1980円で乗り放題となる新生活応援キャンペーンを実施する。また、1回乗車として大人300円/こども150円でも利用可能となっている。

◆タクシーほど速達性はなく、バスのように乗降場所がある

ここで気になるのはmobiの提供により、各エリアで、特にタクシー業者との競合は発生しないかということ。

Community Mobility代表取締役社長の村瀬茂高氏は、「mobiはタクシーのように呼び出せるが、相乗りであるため、目的地までの所要時間は(タクシーよりも)時間がかかって速達性はタクシーに劣る」と説明。仮想とは言え「乗降場所があることもバスに近い」存在だと話す。

さらに見逃せないのがmobiとタクシーを組み合わせた利用方法で、「行きはmobiを使い、帰りはタクシーを使うといった使い分けが増えており、新たなタクシー需要を生み出すことにもつながっている」(村瀬氏)との見方も示した。

また、村瀬氏は「全国で画一的なサービスを提供することは考えていない」と話し、地域ごとにフィットしたプランニングも予定していくという。これは地域ごとに様々な課題や需要が存在しているからで、「都市には都市の、過疎化や高齢化が進む地方都市には地方都市のケースに個別に対応していきたい」と述べた。

KDDIとの協業により人流データを活用しているのもmobiの大きなポイントだ。人の動きを常に監視する中で乗降者が多くなりそうな地点を設置することで利便性の向上を図っている。これによって効率的なAIルーティングが可能になったという。

◆新たな移動の目的を作るきっかけに

mobiのような「AIオンデマンド交通」は他にも実例がある。しかし、それらは道路運送法21条に基づいた“実証実験”であり、1年ごとに免許を更新している状況にある。そのため、規模を大きくした展開は難しく、そのため、どの事業も収益性での課題を抱えた状態での運用となっている。

この件について村瀬氏は、現状の収益性については言及しなかったものの、「現在の交通サービスを補完する形で利用が進めばmobi単体での黒字化は可能」とし、あるいは「自治体からの補助金投入によってサービスを維持していく方法で、他の公共機関と結ぶことで路線バスよりも便利な交通サービスとなる」とした。

サービスを選定する基準については「エリア内に4000~5000世帯が存在すれば、事業はなり立つ可能性はある。かといって、3000世帯ならダメかと言えばそうではなく、地域の方が実施を希望すれば可能性はある」(村瀬氏)とし、各地域の協力体制など状況を見ながら判断していくと述べた。

mobiの今後について村瀬氏は、「協力してくれるパートナーの知見に、我々の移動という専門の知見を掛け合わせることで、提供される公共交通に乗るだけでなく、コミュニティが新たなサービスを作り出すことを考えていきたい。それが“生活のリ・デザイン”になっていく。そこが重要だと思っている」と述べた。

《会田肇》

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