【スズキ GSX-S750 ABS 試乗】日本のスポーツバイクを語る上で欠かせないナナハン4気筒の伝統を唯一残す存在

GSX-R750から引き継いだDNAを色濃く継承する

ストップ&ゴーにストレスを全く感じないエンジンフィーリング

46年分の積み重ねで極まった表情豊かな4気筒エンジン

知らないままで終わるのは実に惜しい価値あるモデル

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スズキ GSX-S750 ABS
スズキ GSX-S750 ABS全 48 枚

日本のスポーツバイクを語るなら、750cc4気筒というエンジン形式は外せない。

「ナナハン」という排気量の俗称は、長らく高回転高出力の象徴として在り続けた。多くのライダーがそのパフォーマンスに憧れ、レースの世界を席巻。メーカーにとって、最先端の技術力を知らしめる、これ以上ないカテゴリーとなった。

そんな伝統の形式を、今に残す唯一の存在がスズキの「GSX-S750 ABS」だ。このモデルは「GSR750」の後継機種として、2017年にデビューしたスポーツネイキッドである。

スズキ GSX-S750 ABSスズキ GSX-S750 ABS

今回、そんなGSX-S750 ABSの乗り味を再確認してみることにした。昨今、歴史あるエンジンを搭載するモデルが、厳しさを増す排ガス規制を前に続々と生産を終えており、このGSX-S750 ABSにもそれが迫っているからだ。タイミングは明らかではないものの、少なくとも現行モデルで一端姿を消すことは間違いなく、だとすると750cc4気筒というエンジン形式そのものが最後になるかもしれない。

GSX-R750から引き継いだDNAを色濃く継承するGSX-S750 ABS

スズキが、初めて4気筒のナナハンを送り出したのは、1976年のことだ。それ以前には、2ストローク3気筒の「GT750」(1971年)が存在したものの、オイルショックや北米で施行された排ガス規制の影響は免れず、4ストローク化への移行は急務となった。そこで、空冷4ストローク4気筒DOHC2バルブエンジンのGS750を開発。国内外で成功を収め、1980年には4バルブエンジンの「GSX750E」へ発展した後、ナナハンKATANAと呼ばれた「GSX750S」(1982年)のベースになったのである。

こうして80年代に入ると、ほどなく世の中は空前のバイクブームを迎えていた。250ccや400ccのレーサーレプリカが爆発的な人気を誇る中、その頂点に君臨することになる1台のナナハンが生まれた。それが、耐久レーサーさながらのフォルムを纏った「GSX-R750」(1985年)であり、ハイパフォーマンスモデルの代名詞となった。

スズキ GSX-S750 ABSスズキ GSX-S750 ABS

そんなGSX-R750の速さや強さをひも解いていくとキリがないわけだが、本稿の主役であるGSX-S750 ABSには、そのDNAが色濃く引き継がれている。たとえば、ツインスパーフレームに懸架されているエンジンは、2005年型GSX-R750用のものをストリート向けに仕立て直したものだ。

2005年当時、レースの世界はレギュレーションが見直され、上位カテゴリーは1000cc、下位カテゴリーは600ccが主流になっていた。80年代から2000年代初頭まで、サーキットのけん引役で在り続けたナナハンスーパースポーツは使命を終えたかに見えたが、スズキはその素性のよさにラップタイム以外の価値を見出していた。600ccよりもトルクフルで、1000ccよりも開けやすい出力特性は、ナナハンならではのもの。誰もが楽しめる万能スポーツとして、探求の姿勢を崩さなかったのだ。

スズキ GSX-S750 ABSスズキ GSX-S750 ABS

事実、この時のGSX-R750は、レースを主戦場としていなかったにもかかわらず、歴代最軽量の163kgという驚異的な乾燥重量を達成していた。その俊敏性を楽しむためのピュアスポーツとして、世界中のユーザーに親しまれたわけだが、そのライディングプレジャーをストリートに落とし込んだモデルが、GSR750(2011年欧米にて発売/国内仕様は2013年から)であり、後にそこから発展したGSX-S750 ABSというわけだ。

ストップ&ゴーにストレスを全く感じないエンジンフィーリング

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目の前にあるGSX-S750 ABSは、排気量を感じさせないほどコンパクトに見える。全長2125mm、軸間距離1455mmという数値は、実はツアラーの「GSX-S1000GT」(全長2140mm/軸間距離1460mm)とほとんど変わらないものの、ヘッドライトとテールエンド間が切り詰められた台形デザインが視覚的な効果を発揮。ライダーにプレッシャーを与えない。

一方、燃料タンクやサイドカウル、シートカウルといった各部はエッジの効いた処理が施され、ボディ後端へいくほど跳ね上げられている。それがシート高の高さや前傾度合いのきつさを思わせるのだが、足つき性になんら不安はない。シートにまたがり、ごく自然な姿勢を取ったところに、いかにも頑強なテーパーハンドルがセットされている。

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GSX-S750 ABS最初のハイライトは、エンジンをスタートさせてクラッチをつないだ瞬間にやってくる。それが冷間時であれ、すでに温まった状態であれ、ゼロ発進をこれほど容易に行えるバイクはそうあるものではない。右手を動かす必要がまったくなく、クラッチレバーを握ってギヤを1速に入れたなら、あとはそれをスッとリリースするだけ。コツもスキルも慣れも求められない。

クラッチのミートポイントが分かりやすい。その時のつながりがスムーズ。低回転域のトルク特性に優れる……といった基本性能もさることながら、スズキがいくつかのモデルの採用する「ローアシストRPM」が完璧に機能。これは発進や低速走行時に起こるエンジン回転数の落ち込みを抑制するもので、言われなければ気がつかないほど、ライダーのスキルを影で支えてくれている。

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今やこの手のデバイスは珍しくないのだが、過保護なまでにアシストしようとして回転が上昇し過ぎたり、制御を緻密にしようとする余り違和感があるモデルも散見される。一方、スズキのそれはシンプルながら常に正確に作動し、ストップ&ゴーにストレスを感じる場面が一切ない。初めて乗っても長年の愛車のように扱える、極めて稀有なモデルだ。

46年分の積み重ねで極まった表情豊かな4気筒エンジン

驚くべきは、根本的なトルクの豊かさだ。乗り方として決して推奨するものではないが、発進加速は4速からでも難なく行える。この領域になると、ローアシストRPMの効果というよりも、エンジン自体のフレキシビリティのおかげだ。そこからわずかでも車速が上がれば、6速2000rpmからでもノッキングすることなく増速していく。

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スペック上、最大トルクの発生回転数は9000rpmになっていて、その時の数値は80N・m(8.2kgf・m)と、特別低回転寄りではない。にもかかわらず、かつての油冷エンジンを思わせるゴリゴリとした力強さで、車体が押し進められていくのだ。

では、そのぶん高回転域が犠牲になっているのだろうか。中高速コーナーが続くワインディングでスロットルを大きく開けてみたところ、油冷的なトルクフィーリングからは一転。今度は空冷マルチを思わせるような爽快さで、11000rpm超まで回り切っていく。

たまらないのはその時の高揚感で、吸気系と排気系のサウンドが折り重なり、尾を引くように山間に響き渡る。回転域によってこれほど表情が豊かで、それでいてそれぞれに味わいがあるエンジンは珍しく、しかもどの領域も実用性に富む。GS750に端を発し、途切れることなく積み重ねられてきた46年分の知見が、そこに極まっていた。

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ワインディングを行き来し、矢継ぎ早にギヤのアップ、あるいはダウンを繰り返した時に気がついたのは、タッチのよさだ。これこそまったく推奨するものではないが、クラッチレバーを操作しなくとも、ペダルへ入力するだけで滑り込むようにギヤが切り換わっていく。クイックシフターが装備されていると思ったほど、組み付けと加工精度の高さが感じられる部分だった。

知らないままで終わるのは実に惜しい価値あるモデル

ハンドリングは低速域では軽やかに反応し、高速域になるほど、フロントに落ち着きが増していく。深々としたバンク角も受け入れてくれる一方、その手前で切り返すような中間域でも高い旋回力を披露し、手狭なワインディングでも無理なくスポーティな気分が味わえる。

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見た目の印象と異なり、乗車中の姿勢はややリヤが低く感じられる。そのため、サスペンションの動きとリアタイヤの接地感が掴みやすく、安心してスロットルを開けられる。試乗コースの路面は決してグリップの高い方ではなかったが、前後のタイヤはきっちりと路面を捉え、狙ったラインをトレース。良好な荷重配分によって、トラクションコントロールが介入する場面(3段階+OFFの設定が可能)はなかった。

サスペンションは前後ともKYB製が選択されている。いずれもプリロード調整のみが備わるオーソドックスなタイプながら、バネレートも減衰力も適切なものだ。ギャップを拾った後の収束は早く、突き上げられた後の余韻を残さない。

スズキ GSX-S750 ABSスズキ GSX-S750 ABS

それにしても見事なバランスだと思う。街中ではトルクに任せて流し、高速道路は快適なライディングポジションにゆだねて駆け抜け、ワインディングではシャープに回るエンジンとヒラヒラと舞うような旋回性で、ひと時のスポーツを満喫する。そのすべてが高いレベルにあるのが、このGSX-S750 ABSである。

ナナハン4気筒という、日本のスポーツバイクを支えた大きなアイコン。GSX-S750 ABSがその最後を飾ることになるのかどうかは分からない。しかし価値あるモデルであることは間違いなく、ひとつの極みに達している。知らないままで終わるのは、実に惜しいハンドリングマシンである。

スズキ GSX-S750 ABSスズキ GSX-S750 ABS

あえてナナハンを選ぶ。それはなにかと比べたり、あるいは誰かのマウントを取るためでもない。モノの良し悪しを知っているからこその、ツウな選択になるはずだ。

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■5つ星評価
スズキ GSX-S750 ABS
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
コンフォート:★★★★
足着き:★★★★
オススメ度:★★★★★

伊丹孝裕|モーターサイクルジャーナリスト
1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。

《伊丹孝裕》

モーターサイクルジャーナリスト 伊丹孝裕

モーターサイクルジャーナリスト 1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。

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