「航続距離104km」は実用的な数字か? 原付2種のEVスクーター『E01』で市街地を走ってわかった事実

『E01』が原付2種のEVスクーターである、ということ

バッテリーの重さは走りに影響するのか

最高速は100km/h!ハンドリングも軽やかそのもの

「航続距離104km」は実用的な数字か

ヤマハのEVスクーター『E01』で市街地を走り、その実用性を確認
ヤマハのEVスクーター『E01』で市街地を走り、その実用性を確認全 24 枚

『E01』が原付2種のEVスクーターである、ということ

ヤマハが開発した電動スクーター『E01(イーゼロワン)』による実証実験が間もなく始まる。この実験は、E01を一般ユーザーに使ってもらい、今後のモデル開発やインフラ整備に反映させるデータ収集を目的にしたものだ。ヤマハは、そのために100台のE01を用意し、3か月間使用してもらうモニターを募集。この7月から順次引き渡しが行われる予定だ。

ヤマハは2035年までに製品の20%を電動化すること、そして2050年までに製品使用時のCO2排出量を90%削減することを目標に掲げており、今回の取り組みが大きな一歩になる。事実、この実験は日本のみならず、欧州、台湾、タイ、マレーシア、インドネシアでも実施。道路事情や気候が異なる多様な環境のもと、電動の可能性と改善すべき点が浮き彫りになるはずだ。

ヤマハの歴代EV『パッソル』ヤマハの歴代EV『パッソル』

もっとも、E01はヤマハにとって初めての電動スクーターではない。2002年に発表された『パッソル』を皮切りに、『EC-02』や『E-Vino』などが登場。これまでのモデルは、海外向けの一部を除いて基本的に原付1種(50cc以下)に相当するモデルだったのに対し、E01は原付2種(50cc超~125cc以下)に区分されていることが特徴だ。

つまり、動力性能に余裕があることを意味しているのだが、それは一体どれほどのものなのか? E01の機能や装備に関してはこれまで幾度か紹介しているため、今回は市街地を実際に走ってみた印象をお届けしたい。

バッテリーの重さは走りに影響するのか

ヤマハのEVスクーター『E01』ヤマハのEVスクーター『E01』

車体サイズは、ヤマハの125ccスクーター『NMAX』とほぼ同等だ。シート高はE01の方が10mm低く(E01:755mm/NMAX:765mm)、足つき性のよさもその通り。身長174cmの筆者がまたがった場合、両足のかかとがしっかりと接地する。

一方、車重はE01の方が27kg重い(E01:158kg/NMAX:131kg)。この点は、バッテリー容量が航続距離に直結する電動モデルの宿命でもあり、同じクラスの車体ならほぼ例外なく、ガソリンエンジン車よりも重くならざるを得ない。

とはいえ、スクーターという車体の構造上、数値ほどネガティブな印象はない。なぜなら、重量物のバッテリーがハンドルから離れた低い位置にあるため、増した重量がそっくりそのまま手応えとして伝わってくるわけではないからだ。小柄なライダーでも無理なく取りまわすことができ、もしもの場合はリバース機能に頼ることができる。

これは左ハンドルのスイッチと右ハンドルのモードボタンを同時に押すことで作動。その間だけモーターが逆回転し、バックができるアシスト機構だ。そのスピードは1km/hに抑えられ、狭い場所でも不安なく使えるよう、よく作り込まれている。

左ハンドルの「Rボタン」を押しながら、右ハンドルの「モードボタン」を同時に押すことでリバースできる左ハンドルの「Rボタン」を押しながら、右ハンドルの「モードボタン」を同時に押すことでリバースできる

最高速は100km/h!ハンドリングも軽やかそのもの

前進側には、モーターの出力を最大限発揮できるPWR(パワーモード)、30km/h~80km/hの常用域でNMAXと同等の性能を引き出せるSTD(標準モード)、最高速を60km/hに制限し、バッテリーの消費が抑えられるECO(エコモード)の3パターンが用意されている。

その名称のイメージ通り、PWR選択時は、交通の流れをリードするには充分過ぎるダッシュを披露。最高速は100km/hに達するというから、動力性能に不満を覚える場面などそうはないはずだ。

ヤマハのEVスクーター『E01』ヤマハのEVスクーター『E01』

少なくとも、日本の交通事情ではECOでもまったく不足はなく、シティコミューターとして及第点以上の加速力でスイスイと走ることができる。減速方向はと言えば、回生ブレーキが弱めに設定されているため、スロットルを戻した時の車速の落ち方はエンジン車と変わらないナチュラルなものだ。ハンドリングは低重心の利を活かして軽やかそのもの。路面のギャップを拾った時の吸収性も高く、その車重が乗り心地や路面追従性のよさに貢献している。

このE01に限らず、電動に慣れない内は、リアタイヤが路面を蹴り出す、いわゆるトラクションが希薄に感じられるかもしれない。言い方を変えると、エンジン車の場合は、その音や振動をいかに脳内でトラクション感に変換していたのかが分かる。電動化が進むことによって、タイヤや足まわりに対する評価センサーが磨かれていくのではないだろうか。

「航続距離104km」は実用的な数字か

およそ50kmを走り、残距離は66km。ほぼカタログ値通りだおよそ50kmを走り、残距離は66km。ほぼカタログ値通りだ

さて、気になるバッテリー容量と走行距離の関係性だが、今回市街地を50km強走行し、約40%を消費した。これはカタログスペックにある「一充電走行距離:104km」とほぼ一致するもので、モード選択もスロットル開度もあれこれと試して負荷をかけたことを思えば、極めて実用性の高い数値だと考えられる。一般的な通勤や通学を想定した場合、数日に一度、夜間に充電を済ませておく、という使い方で不便はないはずだ。

初夏の爽やかな陽気の中、静かでスムーズな時間をもたらしてくれたE01は、自転車のサイクリングよりもずっと快適で、スポーツバイクで出掛ける時ほどの準備を要しない、ちょうどいい移動のツールとして機能。新しい時代の到来が、すぐそこに感じられた心地いいひと時だった。

ヤマハのEVスクーター『E01』と伊丹孝裕氏ヤマハのEVスクーター『E01』と伊丹孝裕氏

■5つ星評価
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
コンフォート:★★★★★
足着き:★★★★
オススメ度:★★★★

伊丹孝裕|モーターサイクルジャーナリスト
1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。

《伊丹孝裕》

モーターサイクルジャーナリスト 伊丹孝裕

モーターサイクルジャーナリスト 1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。

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