【ルノー ルーテシア E-TECH 新型試乗】この上なく日本の路上のリアルに即した輸入車だ…南陽一浩

ルノー ルーテシア E-TECH
ルノー ルーテシア E-TECH全 24 枚

欧州が傾倒している電動化は、性急なBEV化のように思われているが、そうじゃないという好個の一台がついに日本に上陸した。それが今回試乗してきた、ルノー『ルーテシア E-TECH HYBRID(Eテック・ハイブリッド)』だ。

クーペSUVであるルノー『アルカナ』が先行したものの、1.2kWh容量のリチウムイオンバッテリーを積み、230Vのシステムを通じて、モーター側とエネルギーの出し入れ、つまり駆動と回生を行うE-TECH(E-テック)は、輸入車では数少ないフルハイブリッドだ。それがアルカナよりも160kgも軽量で低重心のハッチバックボディ、つまりルーテシアに搭載されたことが、ルーテシア Eテック・ハイブリッドの主眼といっていい。

電動化戦略がBEV一辺倒ではない裏返しの存在

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ところで欧州やフランス本国でEテックは2種類。日本にも導入される230Vシステムのストロングハイブリッド仕様に加えて、400Vシステムでバッテリーを約10kWhと大きめ容量にして、出力も航続距離も稼いだPHEV仕様のEテックがあるのだ。とはいえPEHV仕様は今のところ『キャプチャー』にしか搭載されておらず、同じBセグメント内でボリューム重視のSUVに対し、そこそこの体格でスタイル重視のクーペSUVと、日常的な軽便さを重視するハッチバックでは、ひとまずPHEV抜きでストロングHVのみとした、ルノーの戦略と判断はかなり興味深い。

それにルノー・ルーテシアが日産『ノート』と共有するCMF-Bプラットフォームは、小型車を得意とする欧州側、つまりルノー主導で開発されており、その上のCMF-Cプラットフォームは2代目『エクストレイル』が皮切りとなった通り、逆に日産主導で開発設計がなされている。もちろん互いの主導で開発したプラットフォームに対し、他方のバリデーションは為されている。最新世代のCMF-EV辺りでは、『アリア』や『メガーヌEテック』といったそれぞれの地域に即した先行モデルがほぼ同時発表されていることを思えば、アライアンス内の「リーダーとフォロワー」戦略が、滞りなく機能している証左でもある。

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話が目の前のルーテシア Eテック・ハイブリッドから少し逸れたが、欧州市場のBセグメントでルノーは同時に純BEVのロングセラー、『ゾエ』を展開していることも忘れてはならない。いわばルーテシア Eテック・ハイブリッドの存在は、ルノーの電動化戦略がBEV一辺倒ではない裏返しでもある。そしてハイブリッド王国たる日本市場では、プラットフォーム・ファミリーとして兄弟とはいわないが「従兄弟」ぐらいの感覚ともいえる日産『ノートePOWER』、つまりシリーズ・ハイブリッドと、ルノー独自のフルハイブリッドであるEテックがどう異なるか、そんな興味をも喚起するだろう。

しかもルーテシア Eテック・ハイブリッドはWLTCモードで25.2km/リットルという、輸入車ナンバーワンのカタログ燃費値を実現している。当然エコカー減税対象だ。同ナンバーツーはアルカナなので、昨今の輸入車の燃費ランキングはルノーの1-2体制。ちなみに3位はシトロエン『C4ディーゼル』だそうで、輸入車の好燃費モデルのトップ3はフランス車が占めていることになる。フランスの道路事情はドイツほど極端な高速域ではなく、第二東名の120km/h区間のように日本の道路事情がやや近づいたこともあり、元よりパリなど欧州地域では少ない大都市部でストップ&ゴーが重視される土壌もあるので、車としてのスイートスポットが似通ってきた背景もある。

ルノーのモータースポーツ経験なればこそ

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見た目上、ルーテシア Eテック・ハイブリッドをガソリンのモデルと見分けるポイントは、ルーフ上のシャークフィンアンテナと、リアハッチゲートに備わるE-TECHエンブレム、あるいは車内のシフトコンソール上のE-TECHロゴぐらいしかない。あとはADAS面で約70km/h以上で作動するレーンキープアシストが追加されていたり、オプションの内装トリムとして前席シートヒーター付きのレザーパックが選べもするが、相違点は9割9分9厘、パワートレインにある。

電源をオンにしても、バッテリー残量があればシステム音が聞こえてくるのみで、ICEのアイドリングはない。 ルーテシア Eテック・ハイブリッドの出力は、アルカナより少々デチューンされた140ps、うちICEの内訳は91psのみ。駆動用モーターは49ps(36kW)、ハイボルテージスターターモーター(HSG)は20ps(15kw)だが、すべての要素が足し算式に最大パワーに到達することはない。ちなみにトルクは順に144Nm・205Nm・50Nmで、HSGのそれはおもに変速作動時、ICEと駆動用モーターのトルク差を埋め合わせるのに用いられるという。

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Eテックに用いられる1.6リットルのNAは、ルノーではモトゥールH、日産ではHR系列に属するガソリンICEで、かなりの年代物であることは間違いない。が、ゼロ発進のような高負荷仕事や45km/h以下の領域は、電気モーターに任せきる。ICEの出番は中速域でのミックス状況や高速域といった場面で、効率よく出力を引き出し組み合わせるという発想を可能にしたのが、ルノー独自の電子制御のドグクラッチマルチモードATだ。

実質的にギア比は、重複を除けばEV1速から12速の要素があるという。この変速幅を恐ろしくコンパクト軽量に組み込み、しかもスムーズに作動するのが、Eテックの長所といえる。ドグクラッチを油圧制御することで、ダイレクトな繋がりと高効率トラクションを実現できたのも、F1からクライアント・モータースポーツまで幅広く手がけて、ルノーのモータースポーツ経験なればこそ、だ。

アクセルの踏み始めから加速初期は、明らかに純ICEよりレスポンスよく、スムーズだ。だがそれは、純BEVのような極端な蹴りだし感ではなく、加速し続ければ50km/h前後の中速域から、エンジンがスルリと介入してくる。電気モーター駆動の下支えがあるので、よほど強く踏み込まない限り、エキゾーストノートが唸りを上げることもない。

日本車HVより一段上のトルク&パワー感

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バッテリー残量はメーターパネル内の左側、12.5%づつ示されている。つまりフルスケールで8段階だ。アクアラインのトンネル下りで、意識せずアクセルペダルを浮かし気味に走っていたが、大げさな減速Gを感じさせるでもなく、バッテリー残量が8分の7まで回復したのには驚いた。でも貯めこんだエネルギーを惜しむでもなく、ルーテシア Eテックは館山道を下りる頃には3目盛りほど使って、バッテリー残量50%に戻った。つまりドライバーが気づかない回生マナーで、高速道路でも走行負荷が少なければ積極的にEVモードへと切り替わるプログラム制御なのだ。

欧州BセグはICEの標準モデルで大体1200kg台なので、ハイブリッドで1310kgという車両重量は、日本車のHVより重く見えるが、ユーロNCAPを強く意識する欧州車としては相対的に軽い部類といえる。だからこそアウトプット面では日本車HVより一段上のトルク&パワー感を備えている。そして以下は、制御プログラムの側面が大きいだろう。結果的とはいえ、モーター駆動によるトルクのツキのよさと優れたトラクション伝達が織りなすパワートレインのキビキビ感、しっとりしたフィールながら軽快でキレのあるハンドリング、速度域を選ばず持続するフラットな乗り心地では、ルーテシア Eテック・ハイブリッドに大きく分がある。

ハンドリングはモニター内の「MySense」で、ステアリング設定をスポーティにすると、より一層リニアかつ自然に感じられた。それでいて、一般道だろうが高速道路だろうがごく日常的な走らせ方で瞬間燃費をモニターしていても、実燃費の良さが伝わってくる。

この上なく日本の路上のリアルに即した輸入車

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やや惜しいと感じるのはエコタイヤが70km/h前後の速度域では、県道レベルでよくある舗装が細かく波打った路面に適さないのか、タイヤノイズが車内で目立つこと。あとは7インチのタッチモニターがやや小さく、試乗車のレザーパッケージでも標準のコンビ内装でも、ダッシュボードやドアパネルといったトリムの仕上げが画一的な点だ。

ただしこれは標準グレードで329万円、レザーパッケージ仕様で344万円という、ユーロ高の昨今で相当に野心的な車両価格と、表裏一体のところでもある。動的質感の面では、この上なく日本の路上のリアルに即した輸入車なので、個人的にはもう少し内装にフランス車らしい艶のある仕様が登場するのを待ちたい、そう思わせる出来栄えだった。

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■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★

南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

《南陽一浩》

南陽一浩

南陽一浩|モータージャーナリスト 1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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