【ベンガルール通信 その19】スタートアップはインド社会に変化をもたらすのか

インド・スタートアップ界に暗雲

社会インフラ的サービスにおける4つの成長段階

最終段階まできたが、従来型のビジネスモデルに逆戻り

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南インドより、ナマスカーラ!

2022年6月末、都心から車で30分ほどの郊外、ちょうど延伸されたメトロの新駅近くに多くのベンガルール市民が待ち侘びたIKEAがオープン。ハイデラバードにインド1号店が開店したのは2018年7月だったから、それから既に4年が経ったことになる。疫病騒動の間、ムンバイ近郊に2店舗を展開し、この度、ようやく当地に「インド旗艦店」が出来たのだという。国内最大の4万3000平米 (1万3000坪) の売り場面積は、日本最大という新三郷店の2万6000平米と比べても圧倒的な規模感。ここで1000名超の従業員を雇って65のインテリアを紹介展示し、7000点の商品を扱う。

併設されるレストランも1000席を確保、子どもの遊び場も最大規模だという。数週間前から周囲がざわつき始め、SNSでは「初日にみんなで行こうぜ」とツアーを企画する者も現れるくらいの盛り上がりぶり。現に、当日は早々に3時間待ちの行列が発生し、公式SNSが「通販もやってるよ」と呼びかけるほどの人波が殺到。結果、午後6時に閉店時間を繰り上げても来訪者数は2万人に達したというから、年間来場者数500万人という目標の達成も遠い話ではなさそうだ。

もっとも、ベンガルールに旗艦店が置かれるのは、その規模感のみの話ではない。同社はベンガルール市を州都とするカルナタカ州に対してRs. 3000 Cr. (500億円超) の投資や、直接的に1000名、間接的に1500名の雇用機会確保を表明している。そして何より、開店時点で既に取り扱い商品の4分の1を現地調達している上、将来的には半数以上を州内の事業者から調達する計画だという。

これに伴って約10年に渡り活動したデリー首都圏の購買部門を今年度いっぱいで閉鎖して、ベンガルール旗艦店内に機能移管するのだという。既に関係者には異動や転職に備えるようアナウンスもされたそうで、成長していく市場と地場生産・調達のバランスを見極めて更にインド事業にドライブをかける拠点として、ベンガルールを核に展開していこうとする様子がうかがえる。

◆インド・スタートアップ界に暗雲

さて、従前から「配車アプリのスタートアップが世界最大の電動車メーカーになろうとしている」と紹介しているOLAだが、このところ雲行きが怪しい報道が相次いでいる。製品ローンチに際して盛大なイベントやアピールを繰り返した電動スクーターOla『S1』『S1 Pro』は6月の登録台数が6000台に満たず、メーカー別の売上ランキングでも4位に後退している。

半導体の供給不足を理由としているが、4月には1万2000台超の登録実績があったのが5月は9000台に落ち込んでいた。それでも会社側は「日産1000台の目標は実現可能な見通し」と表明し続けているから、日本の製造業の常識からすれば、いまいち捉えどころのない話だ。インド企業の事業計画の何をどこまで信じるかは見る人次第、読み方次第だから、予実差でケタがひとつズレるくらいなら誤差の範囲と言えなくもない。

ただ、電動車メーカーであるOLA Electricのみならず、最近は本業の配車アプリ事業を含むグループ全体の不調も聞こえてくる。過去2カ月は95%の売上減だったとか、従業員の4分の1に相当する1400名のレイオフが予定されているとか、直近2年間で離職した高級幹部は30名以上とか、話題に尽きないから、中には「OLAは倒産するのか」といった見出しの記事まで出回っている。

そんな中、ここ数年の業界や同社の動きを関係者の思惑の移り変わりを踏まえてうまく表現している分析記事*が目についたので紹介したい。OLAの不調は同社自身の要因もさることながら、インド・スタートアップ界を取り巻く構造的な問題ではないかという指摘だ。


《大和 倫之》

大和 倫之

大和倫之|大和合同会社 代表 南インドを拠点に、日本の知恵や技術を「グローバル化」する事業・コンサルティングを展開。欧・米の戦略コンサル、日系大手4社の事業開発担当としての世界各地での多業種に渡る経験を踏まえ、シンガポールを経てベンガルール移住。大和合同会社は、インドと日本を中心に、国境を越えて文化を紡ぐイノベーションの実践機関。多業種で市場開拓の実務を率いた経験から「インドで試行錯誤するベースキャンプ」を提供。インドで事業を営む「外国人」として、政府・組織・個人への提言・助言をしている。

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