欧米・中国で盛り上がるパワー半導体市場:ルネサスがデモEVを制作

6つ見えるのがゲートドライバIC。この下に新世代型IGBTが6つ実装されている
6つ見えるのがゲートドライバIC。この下に新世代型IGBTが6つ実装されている全 15 枚

ルネサスエレクトロニクスが8月30日、「AE5」という新世代型、耐圧750V・300AのSi-IGBT(シリコン・絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)のサンプル出荷を開始した。2023年上期に量産も始まるという。

ジムニーEVの写真他

CASE車両・xEVにとってエンジン以上に重要なデバイスが半導体(とバッテリー)であることはいうまでもない。だが、ひとくちに半導体といっても、CPU/GPU(マイコン)のようなデジタルチップ、MEMSなどの半導体センサー、そしてIGBTやMOS FETなどパワー半導体など種類はさまざまだ。どれも車両開発に欠かせないものだ。ルネサスのポートフォリオはこれらの半導体製品をひととおりカバーしている。今回発表したIGBTは車両開発において、おもにインバーターに用いられるデバイスで、その出力や容量などの性能に直結する心臓部品だ。

発表にあわせて、同社が製作したモーター制御ユニット(モーター制御・インバーター)の評価モジュール、デモEV車両、車両モーター用テストベンチも公開した。モーター制御ユニットは、車両用モーターに取り付けることが可能なアルミ筐体に収められており、そのまま開発車両に組み込めるものだ。

ルネサスでは、モジュールのコアとなるマイコン、パワー制御IC、ゲートドライバ、IGBTで構成されるリファレンスボート、モデル開発用設計データ、開発環境を「ターンキーソリューション」として提供している。公開されたモーター制御ユニットは、これを実際に製品としたらこうなる、といういわば見本だ。デモ車両には実際にこのユニットが搭載されている。

通常、半導体メーカーは自社デバイスの評価ボード、リファレンスボードまで提供することはあるが、アプリケーションまで踏み込むことは稀だ。インバーターユニットやモーター制御ユニットを設計・制作するのはメーカーやサプライヤーの領域だからだ。しかし、同社は、そのユニットどころか、それを組み込んだ車両までつくっている。

さらに、自社半導体およびターンキーソリューションによる製品開発の支援、検証のためモーターのテストベンチも作り、OEM、サプライヤーにソリューション提案を行っている。

ルネサスは半導体メーカーだ。ソリューションも重要だが肝心の半導体の性能や品質が担保されなければ意味がない。xEV向けのターンキーソリューションのかなめとなるのは高周波・高耐圧・大電流のスイッチングデバイスだ。インバーターの心臓である半導体スイッチはシリコンIGBTのほかにMOS FETがあるが。SiC(シリコンカーバイト)MOS FETは周波数特性に優れるが、「コストがまだ高い。IGBTに比べると3倍くらい。またサプライチェーンの問題から安定供給もこれから」(ルネサスエレクトロニクス パワーシステム事業部 事業部長 小西勝也氏)だという。

ルネサスは、中国・欧州で高まるxEV需要にこたえるため、高性能なIGBTの量産体制を整えるとする。2027年の自動車生産台数の約半分は(HVを含む)xEVになるといわれ、そのうちのさらに半分以上がBEVになると予想している。IGBT、SiCの市場もこれにつられて拡大する。パワー半導体に注力する理由のひとつはこれだ。

今回発表されたAE5 IGBTは400V前後のパワートレインに対応すべく750Vの耐圧、300Aの容量を持つ。一般的なストロングハイブリッドからBEVのインバータに対応する。電力損失(VCE(sat))を10%改善。セルのトレンチ(溝)の形状や構造を改良し破壊耐量(こわれにくさ)を向上させている。チップサイズの小型化も実現した。

AE5は、23年上期に那珂工場で200ミリのウエハーで量産を開始し、その後300ミリでの量産を24年に予定している。300ミリでの量産は甲府工場のラインを刷新することで、最終的には甲府での大量生産を目指す。

しかし、大手OEM、Tier1サプライヤーはバッテリーやEVパワートレインなど、CASEの心臓部は内製化する動きがある。車両の性能や差別化に直結するためアウトソースで「ブラックボックス化するよりホワイトボックス化するモチベーションが働く」(小西氏)からだ。トヨタ、フォルクスワーゲン、ボッシュ、デンソーなどは半導体の内製体制を持っている。中国OEMは半導体内製までいかずとも方向性は同じだ。

パワー半導体ではドイツ「インフィニオイン」など大手競合が存在する。OEMやTier1の調達競争に勝つためには、ルネサスならではの付加価値が必要だ。これが、ソリューション提案、ターンキーソリューションだ。同社のマイコン、アナログIC、パワー半導体、それにエミュレーターによるモデル設計環境を一式とした製品提案。

そのために、インバーターの製品見本やモーター制御のテストベンチ、さらにはデモEVカーが必要だったという。その成果として、すでに中国OEMでは量産採用の話が進んでいる。今後は北米にもxEVの波がくるとして米国市場にも進出したいとのことだ(小西氏)。タイやインドネシアはその次になるとみているが、ベトナムの国策企業(「ビンファスト」のことと思われる)についてはアプローチする。


《中尾真二》

テクノロジージャーナリスト・ライター  中尾真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。現在はWebメディアを中心に取材・執筆活動を展開。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から利用し、ネットワーク、プログラミング、セキュリティについては企業研修講師もこなす。エレクトロニクス、コンピュータのバックグラウンドを活かし、自動車業界についてもテクノロジーを中心に取材活動を行う。

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