中国、欧州のEVゴリ押しは限界が見えてきた…EV新時代を読み解く 第4回

中国はフェアな競争をすべき

電動化の目標が現実路線に軟化しつつある

各メーカートップの発言にも変化

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製品、戦略、開発力、インフラなどさまざまな視点からEVのこれからについて、モータージャーナリストの岡崎五朗氏が語るインタビュー連載企画「EV新時代到来」。これまでは日本メーカーの動向を中心にまとめてきましたが、第四回目となる今回は、海外のメーカー・市場の動向を中心に分析します。

◆中国はフェアな競争をすべき

---:今日は海外メーカーと海外市場の動向を中心にお聞きしていきたいと思います。まず全体的な状況についてはどう見られていますか。

岡崎五朗氏(以下、敬称略):世界的には電動化が進み、EV・PHEVのシェアは拡大しています。しかし、ここで疑問に思うのがEVを増やすことが本当に正義なのか、ということです。日本ではまだEVの普及率が低く、ガラパゴスだと叫ぶ人がいますが、これは単に、世界の流れに乗り遅れるぞ、と騒いでいるだけに見えるのです。納得のいく説明を今まで一度も誰からも受けたことがないからです。

世界的に見てEVの比率がどんどん高まっている国は補助金漬けですよ。

---:購入時の補助金だけでなく、メーカーや自動車産業に対する政策支援も大きいですね。

岡崎:そうです。中国の大都市圏では、エンジン車はナンバーを取得するために数年待ちますが、新エネルギー車(BEV、PHEV、FCV)の場合はかなり取りやすくなっています。

中国は2001年にWTO(世界貿易機関)に加盟しており、世界の貿易ルールに則っているはずなのですが、最近まで、中国で生産されるEVには自国製のバッテリーを積まなければいけないというルールがありました。また、基本的に輸入車は認めず、中国企業との合弁会社の設立と現地生産を求めていました。これはWTO的にいうと限りなく黒に近いのですが、こうしたビジネスを加盟以来21年間も続けてきた。こうすることで、国内の自動車メーカーとバッテリーメーカーを育成してきたわけです。加えて、5兆円とも6兆円とも言われる補助金も投入してきました。これにより、他国のメーカーは追いつけなくなっていき、どんどん撤退していくのです。太陽光パネルで市場をほぼ独占したことを、バッテリーでもしようとしているわけです。

日本ではよく先日日本参入を発表したBYDや、CATLをはじめとした中国のバッテリーメーカーの勢いが高く評価されていますが、それは長年にわたって行われてきたルール違反が生み出したものだという現実を我々はきちんと認識し、その上で公平公正な競争を求めていかなければいけないのでは? と考えます。

---:確かに、フェアな競争環境であるべきですね。

岡崎:海外はすごい、日本はダメだという思想から脱却しきれていないと感じます。再生可能エネルギーに関しても同様です。欧州では太陽光や風力が進んでいるのに日本は遅れている、と言う人がいますが、このような人は日本で原発再稼働の話になると反発します。ところが、電源構成において原子力発電が約7割を占めるフランスには何も文句を言わないわけですよ。

再エネの話でいうと、例えば風の吹く量を意味する風況は、欧州と比べて日本は半分。風が吹かない、太陽が照らない、原油を掘っても出てこないという日本にとって、一番良い方法は何なのかということを考えないといけないのに、とにかく海外の方がいいのだという意見ばかり目立ってしまっています。

◆電動化の目標が現実路線に軟化しつつある

岡崎:バッテリーEV化を強力に推し進めようとしている欧州や中国に対して、日本のメーカーがBEVに取り組むことは当然だと思いますが、そこで気をつけなければならないのは海外メーカー、特に欧州はすぐに手のひらを返すことがあるということですね。過去、ディーゼルが最高だと言いながら、ディーゼルは今、どうなりました? 最近だとフォルクスワーゲンのヘルベルト・ディース元CEOが、やはり急速にEVを増やすのは無理だと言っていました。


《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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