我が国のMaaSにおいて重要な役割を占めているのが、以前から経路探索などを提供してきたIT企業だ。そのひとつである駅探が取り組む北海道江差町での実証実験が注目を集めている。運営に関わったソリューション事業部長兼テクノロジーマネジメント推進室長の小柳智晃取締役に、現在の状況と今後の展望を伺った。
◆初のコンシューマー向けサービスとして使いやすさを追求
車内風景―駅探がMaaS事業を展開するに至った経緯と理由を教えてください。
小柳智晃取締役(以下、敬称略)「コーポレートメッセージにもある『社会の役に立ちたい』というビジョンのもと、新しいサービス作りをしたいという思いがありました。近年、シェアリングやオンデマンド交通などの新しいモビリティが出現したことを受け、これらを組み合わせた新たなサービスの展開を目指しました」
「法人向けとしては以前からMaaSを手掛けておりました。例えば、2019年には観光型MaaSの実証実験を富山県射水市、高岡市、氷見市で展開しました。2020年頃から北海道江差町の検討を始め、2021年12月に発表しました」
―『駅探MaaSソリューション』の特徴、強みはどこにあるでしょうか。
小柳「初のコンシューマー向けサービスとして、多くのユーザーが使いやすいインターフェイスを心掛けました。特筆できるのは、公共交通とオンデマンド交通を融合したことです。オンデマンドは国内で多くの実績を残している未来シェアのシステムとの連携を標準化しています」
◆地域住民が主体となるため収益循環モデルの構築がカギ
ソリューション事業部長兼テクノロジーマネジメント推進室長の小柳智晃取締役―昨年度(2022年2月)実施された「北海道江差町エリアでの地域住民向けMaaSの実証実験」に取り組んだ経緯について教えてください。
小柳「私たちが江差町を訪問したのは2022年1月でしたが大雪で、住民、特に高齢の方は雪道の運転が不安だと言っていました。しかし、江差町は鉄道が廃止され、函館からはバスで1時間半ほどかかり、路線バスの便数も限られているため、公共交通での移動がかなり制限されている印象を持ちました。そこで、オンデマンド交通を提供することにより移動を促進し、地域のお店で買い物をしていただくことでお店の売上にもつながる、という収益循環モデルを作れないかという気持ちがありました」
―北海道への関わりはこれが初めてだったようですが。
小柳「北海道でドラッグストアを展開するサツドラホールディングス様とのつながりがきっかけでした。ただしサツドラホールディングス様もMaaSは初めて、江差町も手探り状態で、未来シェア様とその母体であるはこだて未来大学様、同大学と協定を結んでいる札幌市立大学様の知見に助けられました」
―駅探は江差町以外に、長野県小諸市などでもMaaSに関わっています。江差町の人口は約7000人、小諸市は約4万人で、取り組み方が違ってくると思われますが。
小柳「小諸市のような規模の都市は、地域住民よりも観光客を意識したMaaSになるのに対し、江差町は地域住民が主体です。ここで課題になるのが高齢化です。住民の多くはマイカーを移動手段としていますが、免許返納問題もあり、これをオンデマンド交通でカバーすることが大切だと考えました」
◆アプリ以外の選択肢として自動音声による配車も
次回の実証実験におけるサービスイメージ―MaaSではUIやUXも重要になってきますが、この面のこだわりについてはいかがでしょうか。
小柳「従来の経路検索ではスマートフォンアプリがメインでしたが、高齢化率の高い地域では、スマートフォンに不慣れな方もおり、アプリ以外の手段を用意して利便性を向上させる必要があると感じました。そこで電話の自動音声で配車ができるサービスを開発しました。電話ならほとんどの人ができますし、持続的な収益循環モデルの実現を目指すにあたって、配車を行うオペレーター不要なのでコストダウンも期待できます。一方のアプリは、コンシューマサービスでのブラッシュアップの経験を生かしています」
―江差町での実証実験はどのように進められたのでしょうか。
小柳「オンデマンド交通は地元のハイヤー会社が担当してくれました。同社は車両を2台、所有していましたが、そのうちの1台をお借りし、運行日を限定しました。トータルで16日間運行していただきました。」
―利用者や自治体からはどのような声が上がりましたか。
小柳「利用者は想定より少なめで、1日1~2人でした。ただ利用した方には満足していただいており、運行日を増やしてほしいという声もありました。予約方法はスマートフォンと電話が半々で、行き先は病院、町役場、ドラッグストア(サツドラ)、スーパーマーケットが多かったです」
◆今年度の実証実験では内容が大幅に拡大。複合経路検索の実現を目指す
ソリューション事業部長兼テクノロジーマネジメント推進室長の小柳智晃取締役―今年度の実証実験は経済産業省、国土交通省のMaaS事業に採択されたとのことですが、前回との違いはあるのでしょうか。
小柳「2022年10月から第1フェーズ、12月から第2フェーズとして開始予定です。今回は運賃を徴収し、スマートフォンアプリからは公共交通とオンデマンド交通の双方を紹介する複合経路検索を実現します。バスやフェリーの事業者も加わる予定です。さらに第2フェーズではエリアを広げ、車両も増やすつもりです」
―今後、駅探独自のMaaSソリューションの拡充に向けて、どのように取り組んでいきますか?
小柳「江差町での取り組みは継続していきたいと考えています。課題となる運営コストは、実証実験で確かめていくつもりです。並行して、実証実験で得たノウハウを生かし移動を軸にしたサービスを通じて地域活性に貢献していけるような存在になりたいと考えています」
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