脱大手へ、配車アプリの新潮流 【ベンガルール通信その23】

配車アプリでの三輪タクシーの取り扱いが突如停止

サービスの担い手目線のアプリに注目が集まる

三者三様の配車アプリが登場し競争が激化

EVリキシャ(電動三輪タクシー)の車内より。並走する「黄色と緑」は内燃機関モデル
EVリキシャ(電動三輪タクシー)の車内より。並走する「黄色と緑」は内燃機関モデル全 1 枚

南インドよりナマスカーラ!

ベンガルールの都市交通における新たな試みがまた始まった。2022年11月1日、「私のお客さん」というベタなネーミングの配車アプリ「Namma Yatri」が正式にローンチされた。1か月ほど前より公式ストアからダウンロード可能になっていたこの三輪タクシー専用の配車アプリには未だベータ版の断り書きが残るが、既に1万4000万台の三輪タクシー、2万人の利用者がサービスに登録しており、一日あたり500から1000件の利用があるという。公開からわずか数週間で正式ローンチに至った時点でこれだけの引き合いを得ているという事実が今のベンガルールの勢いを物語っている。

このNamma Yatriの一番の特徴は、ベンガルール市内の三輪タクシー業界の運転手労働組合(ARDU:Auto Rickshaw Driver Union of Bengaluru)がアプリの製作者であり運営主体であることだ。早速ダウンロードして起動してみると、必要にして十分な機能性。車種選択や乗り合いの有無など余計な選択肢に迷ったり、広告に惑わされたりする余地もなく、動作は軽い。いち早くどこかに移動しようとする際に開くこの手のアプリの利用シーンに照らせば尚更、非常に快適な操作感が好印象だ。最近、改めて乱立気味な配車アプリの最新トレンドも取り込んだシンプルモダンなつくりは、むしろこれ以上に何が必要だったか、とすら感じる。

配車アプリでの三輪タクシーの取り扱いが突如停止

さて、このNamma Yatriが登場した背景を理解するには、少なくともここ数か月の業界の動きを解説せねばなるまい。輻輳的な事の流れがあるが10月初旬、ベンガルール市を州都とするカルナタカ州の交通局(Karnataka Transport Department)が配車アプリ3社(Uber、Ola、Rapido)に対して「三輪タクシーの取り扱いを3日以内に中止せよ」と通告したことが象徴的なきっかけだ。

9月の1か月間に乗客から寄せられた料金に関する苦情が300件に上った、というのがその理由。初乗り区間である2km以内の短距離乗車にも関わらず公定価格30ルピーの3倍を超える100ルピーが課されたとか、キャンセル料が高額に過ぎる、という訴えが殺到したという。州交通局は、そもそも配車アプリは四輪タクシーのみに認められているのであって、庶民の足を担い価格も一段割安な三輪タクシーは与えた認可の範疇にない、とまで主張してサービスの中止を求めた。

これに対して配車アプリ側からは特に目立った反応もなく、何事もなかったようにこれまで通りの日常が続き、結果としてこの行政指導も黙殺されて終わるかとも思われた。現に、生活必需アプリとして市民の日常を支えている実態がある以上、後追いの行政の指摘・指導が形ばかりのものに終わるのが当地の常だが、今回はどういう事情か、なかなかの強硬姿勢が貫かれた。3日の猶予を過ぎても何ら改善、改変の兆しがないのを見て、州交通大臣が即刻のサービス停止命令を発出。地裁による違法認定を踏まえて、違反車両の押収を指示すると共に、違法操業1日あたり5000ルピーの罰金を科すとも宣言された。


《大和 倫之》

大和 倫之

大和倫之|大和合同会社 代表 南インドを拠点に、日本の知恵や技術を「グローバル化」する事業・コンサルティングを展開。欧・米の戦略コンサル、日系大手4社の事業開発担当としての世界各地での多業種に渡る経験を踏まえ、シンガポールを経てベンガルール移住。大和合同会社は、インドと日本を中心に、国境を越えて文化を紡ぐイノベーションの実践機関。多業種で市場開拓の実務を率いた経験から「インドで試行錯誤するベースキャンプ」を提供。インドで事業を営む「外国人」として、政府・組織・個人への提言・助言をしている。

+ 続きを読む

アクセスランキング

  1. 「やっと日本仕様が見れるのか」新世代ワーゲンバス『ID. Buzz』ついに上陸! 気になるのはサイズ?価格?
  2. 最後のフォードエンジン搭載ケータハム、「セブン 310アンコール」発表
  3. 高機能ヘルメットスタンド、梅雨・湿気から解放する乾燥ファン搭載でMakuake登場
  4. 船上で水素を製造できる「エナジー・オブザーバー」が9年間の航海へ
  5. 「三菱っぽくないけどカッコいい」ルノーの兄弟車となる『エクリプス クロス』次期型デザインに反響
ランキングをもっと見る

ブックマークランキング

  1. 米国EV市場の課題と消費者意識、充電インフラが最大の懸念…J.D.パワー調査
  2. 低速の自動運転遠隔サポートシステム、日本主導で国際規格が世界初制定
  3. 「やっと日本仕様が見れるのか」新世代ワーゲンバス『ID. Buzz』ついに上陸! 気になるのはサイズ?価格?
  4. BYD、認定中古車にも「10年30万km」バッテリーSoH保証適用
  5. 「あれはなんだ?」BYDが“軽EV”を作る気になった会長の一言
ランキングをもっと見る