ポルシェがパリダカ復帰か!?『911ダカール』の本気度に胸が高鳴る…ロサンゼルスモーターショー2022

ノーマルより50mm引き上げられたサスペンション

12V電源も装備、911ダカールのエクステリア

ポルシェが本気でオフロード性能を磨いた理由

パリダカ復帰? ランクルvs911の異種格闘技戦も

ポルシェ 911ダカール ラリーデザインパッケージ(ロサンゼルスモーターショー2022)
ポルシェ 911ダカール ラリーデザインパッケージ(ロサンゼルスモーターショー2022)全 36 枚

11月17日、ロサンゼルスモーターショー2022(LA Auto Show 2022)でポルシェが『911ダカール』をワールドプレミア発表した。日本では3099万円のプライスとなる、全世界で2500台というこの新たな限定モデルは、1984年のパリ・ダカール・ラリー優勝車の911がオマージュ元と報じられている。が、911を4駆化するという、今でいう魔改造が施された当時のワークスカーはむしろ「953」と呼ばれていた。953は翌年から伝説のグループBカー、あの『959』に置き換えられ、後のカレラ4、つまり市販911の4WD化に繋がったといわれる。

◆ノーマルより50mm引き上げられたサスペンション

ポルシェ 911ダカール(ロサンゼルスモーターショー2022)ポルシェ 911ダカール(ロサンゼルスモーターショー2022)

992型のカレラ4をベースに、911ダカールに施されれた最大のモディファイは、サスペンションだろう。ノーマルの911カレラより50mmも高く、標準で備わる車高リフトシステムによってさらに30mm、フロントとリア双方とも持ち上げられるという。このリフトシステムは障害物の多い低速域だけでなく、リチューンが施されたシャシーの一部として、車高を上げたまま170km/hまで対応し、それ以上の速度域では自動的に車高を下げるという。

タイヤはピレリとの共同開発によって生み出されたスコーピオン・オールテレイン・プラスというタイヤで、装着サイズはフロントが245/45R19、リアが295/40R20となっていた。トレッド面は最大9mmの深い溝が彫り込まれており、補強の入ったサイドウォールにもパターンの刻まれるタイプだが、走破性よりも岩や石の多い路面でのサイドカットなどに配慮したブロックだ。

ポルシェ 911ダカール(ロサンゼルスモーターショー2022)ポルシェ 911ダカール(ロサンゼルスモーターショー2022)

オプションでピレリPゼロが夏もしくは冬タイヤとして用意されるものの、オフロードタイヤ自体はノーマルの992よりタイヤ外径そのものも2~3cmほど大きくなっているため、着座時の視点や車高はサスの分に加え、さらに嵩上げされる。それでも展示車の下回りを覗いた限り、リアのマルチリンクサスのロワアームが反角をつけて静止しているので、サブフレームの取り付け位置ごとノーマルと異なっているかもしれない。

内装については、車重を抑えるためにリアシートを省略し、カーボンのシェルにレザーや起毛素材でパッド化されたフルバケットシートを装備。5連メーターのひとつ、そしてダッシュボードの端に“911Dakar”のロゴが入っているのと、車高リフトの操作スイッチ以外は、通常の992と変わらないように見えるが、ライトウェイトガラスやバッテリー採用により、911カレラ4GTSよりわずか10kg増しの1605kgを実現したという。

◆12V電源も装備、911ダカールのエクステリア

ポルシェ 911ダカール(ロサンゼルスモーターショー2022)ポルシェ 911ダカール(ロサンゼルスモーターショー2022)

外装のトリムで際立つのはカーボンパーツ、つまりGT3譲りのエアアウトレットにネットを張ったフロントボンネット、そしてハイマウントストップランプを支持部に配したリアウイングだ。他にもボディ周りでは、前後バンパーの下回りとサイドスカートにステンレス製のアンダーガードが備わる。フロントバンパー内で、飛び石から左右インタークーラーを守るためのグリルネットもステンレス製だ。さらに前後バンパーとも、ウレタンのコーナー部分の下まわりには、岩や石から決定的なダメージを防ぐためのディンプルが付けられている。他にアルミニウム製の赤い牽引ヒッチが右寄りに付くことと、ホイールアーチも深くなっている点は、911ダカールならではのオフロード装備といえる。

もうひとつ注目は、ルーフ後ろ寄り、通常ならドルフィンアンテナの位置に、12V電源アウトレットが備わっていることだ。これはオプションのルーフラックに内蔵されるLED補助ランプに電源を送るためのものだが、911ダカールにはルーフテントもオプションで用意されるとのことで、テント内で家電を使う際にも転用できるだろう。ただしルーフラック自体の耐荷重は42kgなので、荷重を地面に分散できるタイプか、子供用のいずれかか。『タイカン・クロスツーリスモ』用のオプションとして展示されていたiKamper(アイキャンパー)のルーフテントとは別物のようだ。

ドルフィンアンテナの位置には12V電源アウトレットがドルフィンアンテナの位置には12V電源アウトレットが

ちなみに今回、アーモンドグリーンの911ダカールと並んで展示された「ラリーデザインパッケージ」のオプションは、日本では433万7000円となり、ホワイトとブルーメタリックのツートンカラー塗装にデカールによるストライプや、0から999まで任意のゼッケンナンバーが選べる他、往年のロスマンズの書体を模したRoughroadsのレタリング、さらに内装の特別色トリムやブルーのシートベルトが用意されている。

◆ポルシェが本気でオフロード性能を磨いた理由

911ダカールの走行性能についてだが、3リットルツインターボで480ps・570Nmというスペックはカレラ4GTSから受け継がれ、8速PDKを介して後輪操舵システムをも標準装備する点も同じ。一方で911GT3と同じエンジンマウントを用い、ロール安定制御システムであるPDCCも標準で備えるという。ポルシェのリリースによれば、これらすべてのコンポーネンツが噛み合わせた結果、911ダカールは砂地やグラベル路面でも、ニュルブルクリンク北コースでそうであるように、同じぐらいまさしくダイナミックであるという。

オフロードでの911ダカールのパフォーマンスを決定づけるのは、ステアリングホイール上のロータリースイッチで操作する2つの新ドライブモードだ。ラリーモードは後輪重視のAWDモードで、ルーズな路面に適しており、もうひとつのオフロードモードでは車高を自動的にリフトし、砂地や滑りやすい路面で最大限のトラクションを発揮するという。いずれのモードでもラリーローンチコントロールを組み合わせられ、車輪のスリップを約20%ほど抑えながらの加速を可能にする。加えて、先の「ラリーデザインパッケージ」とは異なる別オプションで「ラリースポーツパッケージ」には、ロールバーに6点式シートベルト、消火器が含まれ、本格的なモータースポーツ・キットとなる。

ポルシェ 911ダカール ラリーデザインパッケージ(ロサンゼルスモーターショー2022)ポルシェ 911ダカール ラリーデザインパッケージ(ロサンゼルスモーターショー2022)

かくして一連の情報を繋ぎ合わせると、果たして大きな疑問が残る。

911ダカール開発のためポルシェは1万km以上ものオフロード走行テストを行い、現行992のオフロード性能を磨き上げた。しかもワルター・ロール以外にもル・マン24時間で911RSRでも919ハイブリッドでも優勝や入賞を何度ももたらしたロマン・デュマをテストドライバーに起用している。さらに、オプションパーツの信頼性向上とはいえルーフラックにスペアタイヤを積んだ条件さえ試して、オマージュやキュレーション目的だけの限定市販モデルを、モータースポーツへの参戦ベースでもないモデルを、あのポルシェがわざわざ造るものだろうか?

◆パリダカ復帰? ランクルvs911の異種格闘技戦も

ポルシェ 911ダカール ラリーデザインパッケージ(ロサンゼルスモーターショー2022)ポルシェ 911ダカール ラリーデザインパッケージ(ロサンゼルスモーターショー2022)

モーターショーに先立つ11月9日の発表で、ロマン・デュマはこうもコメントしている。

「あらゆるダカール参戦チームはここ(南仏のシャトー・ドゥ・ラストゥールのテストトラック)にやって来て、ラリーの前に欧州で車両をテストするのです」

数日後に発表された911ダカールの内容を見ると、これはほぼ、ポルシェのパリ・ダカール・ラリーへのワークス復帰参戦を裏づけるコメントに聞こえてこないだろうか。耐久で輝かしいキャリアを築いた後にラリーレイドに転向するという、1980年代にジャッキー・イクスが辿った筋書きを、今度はロマン・デュマが再現するようにも見える。

無論、911ダカールが相当するカテゴリーは、俗にパリ・ダカの4輪部門で「市販車クラス」と呼ばれ、「ディーラーで買える市販4×4をベースに、おもに安全面でのモディファイのみ認められたクラス」と定義されるT2クラスだ。だからこそ横に並んだヒストリック車両は、グループBのスターたる959でなく953だったのかと、合点がいく。それこそ、2022年までにトヨタ車体が『ランドクルーザー』200系で9連覇し、2023年は初投入となるランドクルーザー300系で10連覇を目指しているクラスでもある。

ポルシェ 911ダカール ラリーデザインパッケージ(ロサンゼルスモーターショー2022)ポルシェ 911ダカール ラリーデザインパッケージ(ロサンゼルスモーターショー2022)

プロトタイプが競うT1クラスでは、トヨタGRが『ハイラックス』でここ数年、つねに総合優勝か入賞を収めているが、あくまで市販車クラスの絶対的チャンピオン、トヨタ車体のランドクルーザーを仮想敵と見なしているのではないか?という話だ。

WECでのトヨタ(自動車)VSポルシェのライバル関係は記憶に新しいが、それ以来とはいえトヨタ(車体)VSポルシェという微妙に異なる対決構図ゆえ、耐久の王者ポルシェとして大人気ない気もしつつ、承知の上でSUV対スポーツカーという、究極の異種格闘技対決を仕掛けたのかもしれない。逆にそれだけトヨタ車体のランクルの活躍と、ランドクルーザーという車がマークされている裏返しともいえる。もし実現すれば、ランクルVSポルシェ911だなんて、W杯の日本―ドイツ戦と同じぐらいかそれ以上の、世紀の一戦となるのではないか。

《南陽一浩》

南陽一浩

南陽一浩|モータージャーナリスト 1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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