MaaS実現を支えるデジタルデバイス…Visaタッチ、LINE【MaaSがもたらす都市変革】

泉北高速鉄道に乗り入れる南海電車
泉北高速鉄道に乗り入れる南海電車全 6 枚

この連載ではいままで、都市や地域にスポットを当てて、MaaSをはじめとするスマートシティへの取り組みを紹介してきた。しかしMaaSを実現するには当然ながら、デジタルテクノロジーが不可欠である。そこで今回は、筆者が国内で見てきた事例の中で、自治体や交通事業者への採用事例が増えている2つのデジタルデバイスを取り上げたい。

タッチ結成導入で交通分野に積極進出…Visa

まずはキャッシュレス決済のパイオニア的存在であるクレジットカード、その中でも1958年に登場したバンク・オブ・アメリカのカードをルーツに持つという老舗Visaを紹介する。

多くの人がイメージするVisaの使用シーンは、ショッピングや食事、宿泊などになるだろう。そのVisaが近年、交通分野に積極的に進出している。きっかけとなったのはタッチ決済の導入だった。それまで交通分野でのクレジットカード利用というと、新幹線や高速バスのチケットを窓口や券売機で購入するときに使うのが一般的だったが、鉄道駅の改札口やバスの乗降口にタッチ決済の端末を置くことで、都市交通への導入も可能になったのである。タッチ決済が始まったのは、グローバルでも2004年からと最近の話だが、クレジットカードの更新時にタッチ決済対応に切り替え、それに合わせて商店や飲食店など人タッチ決済対応端末を配備していったことで、急速に普及していく。

交通分野では、2012年に英国ロンドンのバスに採用されたのが大きな契機となり、続いて同じロンドンの地下鉄やフェリーにも展開。日本法人のビザ・ワールドワイド・ジャパンによると、今では1日400万件のタッチ決済があるそうで、グローバルでは2022年11月現在で615以上の都市交通が導入している。

日本では2020年、茨城県ひたちなか市および東海村と東京を結ぶ茨城交通の高速バスに初めて導入された。鉄道では同年、京都府北部を走る京都丹後鉄道に採用されたのが最初だ。しかしながらその後の展開は早く、2020年12月時点ではわずか4つにすぎなかったプロジェクト数は、2022年12月には33にまで増えている。

国内でのVisaタッチ導入状況

ここまで急ピッチで普及が進んだ背景には、結果的には無観客開催になってしまった東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会と、2025年に大阪で開催が予定される日本万国博覧会(大阪・関西万博)の開催がある。我が国ではそれ以前から、SuicaやICOCAなどの交通系ICカードが浸透していた。しかしながらこれらは日本独自の規格である。一方のクレジットカードは米国発祥ということもあり、世界の多くの国や地域で通用する。外国人観光客対応として導入を進めるのは妥当な判断だろう。

ゆえに現時点では、沿線に空港や観光地を抱える鉄道やバス路線への導入が多い。筆者の利用経験も、南海電気鉄道の電車、福岡市交通局の地下鉄、熊本市交通局の市電、京福バスの小松空港連絡バスと、いずれも空港や観光地へのアクセスに使われる路線だ。この中でとりわけ積極的なのは、沿線に関西国際空港や高野山などを持つ南海だろう。南海電鉄、泉北高速鉄道、南海りんかんバス、南海フェリーのグループ4社で行ってきた実証実験を、昨年12月12日から本格サービスに移行させたからだ。

ニュータウンを取り上げた回でも触れた泉北高速鉄道では、すでに全駅がタッチ対応になっているが、この発表に合わせて日本で初めて、Visaのタッチ決済・QR乗車券・交通系 IC カードの3種類の乗車券に対応した一体型改札機を導入した。南海電鉄でも全駅で利用可能となることを目指すという。また和歌山県橋本市や高野山内で運行している南海りんかんバスでは、ロンドンやなどで実績があり、国内では神戸市中心部を走る神姫バス一部路線で採用した上限運賃制度(フェアキャッピング)を導入する予定としている。1日フリー乗車券と同様の機能を持たせることで、地域の回遊性向上を図ろうとしているようだ。

新たに参入する事業者としては、東急電鉄に注目したい。首都圏の鉄道事業者で初めて、Visaをはじめとするクレジットカードのタッチ決済を、QRコードとともに実証実験すると発表したからだ。まず今夏より、田園都市線を中心とする一部の駅に先行導入し、2024年春には全駅に拡大していく予定とアナウンスしている。首都圏ではこれまで、羽田空港連絡バスなど限られた路線での採用に留まっていたが、東急電鉄が動き出すことによって、話題に上ることが多くなるのではないかと予想している。

タッチ決済の実証実験が始まる東急電鉄

《森口将之》

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