原付並みコストの超小型EVが生活の足になる、KGモーターズの新型コンセプト…東京オートサロン2023

KGモーターズ 代表取締役CEO 楠 一成氏
KGモーターズ 代表取締役CEO 楠 一成氏全 16 枚

1人乗りに割り切ったミニカー規格の超小型EVを開発するKGモーターズが、東京オートサロン2023で『ミニマムモビリティ』コンセプトモデルの展示を行った。

一貫して1人乗りにこだわる理由は何か? 都市や地方におけるパーソナルモビリティの可能性はどこにあるのか? 先行する中国メーカーに対する勝算はどこにあるのか? 代表取締役CEO 楠 一成氏に熱い想いを聞いた。

◆超小型EV開発の難しい点

---:今回の展示のポイントはどこでしょうか?

楠 一成代表取締役CEO(以下敬称略):「世の中にこういうモノが必要なんじゃないか」という提案として、原付的な次世代の“チョイ乗りモビリティ”というコンセプトで作ってきました。その1回目の発表として、実際に見ていただくために今回準備してきたという感じですね。

---:1人乗りのミニカー規格の超小型EVということですよね。どんなモーターとか、どんなバッテリーとか、そういうことはまだ発表されないんでしょうか?

楠:モーターについては、この原付ミニカー規格のモデルは、モーターの出力が定格0.6kW以下という極めて小さな出力制限がされています。

単純に快適にするためにドアを付けてエアコンを付けたらいいかっていうと、やっぱり重たくなってくる。(パワーがないため)より軽量にしないといけないので、今回は試作のコンセプトということで、そこまで軽量化できてはいないのですが、今後は我々独自の、一般的なモビリティには使われていないような構造によって作っていく予定です。

楠:もう一つは、モーター・インバーターの効率を高めるところですね。こういう、いわゆる“ロースピードビークル”は、中国が先行してるんです。でも、とにかく安く作ってしまおうということなので、そのモーター・インバーターのレベル感が一般的なEVに比べて極めて低いんですね。

それを一般のEVと同水準までいかないにしても、かなり効率を求めていくっていうのを今から2年間かけて突き詰めていきます。2年後の2025年に量産と発売を開始しようと思っているので。

---:その前に一般からモニター試乗を実施するんですよね。

楠:2024年からですね、一旦このモデルを次の段階で市販車に近い形に仕上げて、まずはモニター専用の車両を用意します。今もちょうど事前登録を開始していますが、だいたい100人ぐらいの方に2か月くらいずつ乗っていただいて、そこからさらにフィードバックしていきます。モニター応募者は既に1000人を超えています。

例えば、航続距離の問題。今我々としては100kmと見ているんですけど、実はもう「50kmでいいよ」っていう声が圧倒的に多くて、それで安い方がいいと言われるかもしれない。

逆にみんなが「100kmだとちょっと少ない、200km欲しい」みたいになってしまうと、ちょっとそこは(コンセプトを)考え直さないとならなくなる。

KGモーターズ ミニマルモビリティコンセプト(東京オートサロン2023)。サイドから見るとコストダウンのためフロントとリアがほぼ相似形なのがよくわかる。KGモーターズ ミニマルモビリティコンセプト(東京オートサロン2023)。サイドから見るとコストダウンのためフロントとリアがほぼ相似形なのがよくわかる。

◆“チョイ乗り”にこだわる理由

---:先ほどエアコンの話が出ましたけど、100kmだと安全性と快適性がそこそこ必要だと思うんですよ。片道50kmってことですよね。

楠:いや、そうなってくると、究極「もう普通の車でいいじゃん」ってことになってしまうので。そもそも我々のコンセプトとしてはもう次世代の“チョイ乗りモビリティ”といったところで、今まで原付が担っていた役割であったりを変えていくつもりです。

世帯で1台しか車がなくて、旦那さんが出ていたら、ちょっとそこまで行きたいのに我慢して歩いて行くとか、帰ってくるまで「もうちょっと待とうか」ということがあったのが、本当に極めて原付に近いようなコストで「ちょっとそこまでいける」っていうのが、一番自分たちとして売りたいポイントになります。

---:今回のこの展示車は実際に動くモノなんですか?

楠:はい、動きます。ここはイレギュラーなところなんですけど、従来の自動車メーカーだったら、まずクレーモデルを作って、モックを作って、試作車を作って、コンセプトを出して…と、ものすごい台数とお金をかけてやるんです。でも我々はスタートアップなので、なにぶん先立つものが少ない。

なので、こういう展示で我々のコンセプトを理解していただきながら、これを使っていろんな実証実験をしていこうと考えています。

---:充電に関しては、100V、200V、急速充電などありますが、どう考えていますか?

:外部の充電スタンドのネットワークなどありますが、そこへの接続は今のところ考えていません。

そもそも“ちょい乗り”なので、継ぎ足し継ぎ足し充電する必要はないだろうと。そちらに対応させるだけでも、ものすごくコストがかかってしまうので。

基本は家庭用の100ボルトで、特に何もなく繋げてしまう形です。

---:現状のこのコンセプトカーは、何ボルトですか?

楠:100ボルトです。

---:普通にコンセントに差す家電的なイメージですね。

楠:はい。例えば、お友達の家に行くとしたら、そこでちょっと充電させてもらうとか。

ACの単相200ボルトは、一般家庭にもう結構入ってきているので、もしかしたら対応する可能性はあるかなと思っています。ただ、急速充電はあまり考えていません。

KGモーターズ ミニマルモビリティコンセプト(東京オートサロン2023)。正面の液晶ディスプレイがメーターとなるKGモーターズ ミニマルモビリティコンセプト(東京オートサロン2023)。正面の液晶ディスプレイがメーターとなる

◆EVを日本で生産するべき理由

---:まだいろいろ考えてらっしゃると思うんですけど、例えば生産は日本で行うべきなのか中国なのか、みたいなことは考えていますか?

楠:車体の生産自体は日本で、と、ほぼ考えてます。というのは、私自身も自動車部品を開発してきた中で、中国製の部品を輸入して販売や企画をやってきたんですけど、今はメリットがそこまでなくなって来ている。

もちろん先行していたり圧倒的な物量があるので安かったりという部分があるんですけど、そこら辺は、ただコストを安くするために中国で作るというよりは、適材適所で一番いい条件のものを集めてきて日本で作るっていうのが一番ベストなんじゃないのかなというふうに思います。

---:部品は中国でも、組み立ては日本とか。

楠:中国とは限らずですね、一部中国のものも使用しますけど、やっぱり日本の物作りって言ったところで、日本だからこそできる部分があるかなと思うので、日本生産というものに一旦こだわってやっていこうかなと思っています。

---:日本の中でも、生産は地元の広島で考えてますか?

楠:そうですね。幸い我々の地元の広島は、マツダを中心としたサプライチェーンがあるので。今は電動化というところで日本がもうちょっと頑張らないといけない状況なので、そういった地場のサプライヤーを中心に面白いことを世界に発信できたらと思っています。

---:想定しているユーザー層もどちらかというと、都会の生活者というよりは、 地方の生活ニーズに合わせていくのでしょうか。

楠:まず我々としては「ちょい乗り」のメリットはどこにでも確実に存在するので、都会も地方も関係なく使っていただきたい。最終的には広めていきたい。ただ、我々自身が広島という地方で育って地方で生活していく中で、都会の人じゃ考えられないようなレベルで車がないと生活できないんです。

一家に2台、3台、4台。1人1台あるのが当たり前で、しかも地方は都会に比べて収入もそれほど高くない。

でも、みんな1人ででっかい車に乗ってるけど、よくよく考えたらほとんど1人で乗っている。それなら割り切って1人乗りにして安くして、しかも地球の脱炭素に貢献できれば、それが1番ベストなんじゃないのかなと。

ただ都会でもメリットがあって、都内は駐車場代がもの凄く高い。でも我々の1人乗りモビリティなら、自転車を置くぐらいのスペースでも置けてしまう。なので、都会にもアピールしていこうと思っています。

《根岸智幸》

メディアビジネスコンサルタント、ソフトウェアエンジニア、編集者、ライター 根岸智幸

メインフレームのOSエンジニアを皮切りに、アスキーで月刊アスキーなど15誌でリブート、リニューアル、創刊を手がける。クチコミグルメサイトの皮切りとなった「東京グルメ」を開発し、ライブドアに営業譲渡し社員に。独立後、献本付き書評コミュニティ「本が好き!」の企画開発、KADOKAWA/ブックウォーカーで同人誌の電子書籍化プロジェクトなど。マガジンハウス/ananWebなどWebメディアを多数手がけ、現在は自動車とゲーム、XRとメディアビジネスそのものが主領域。 ・インターネットアスキー編集長(1997-1999) ・アスキーPC Explorer編集長(2002-2004) ・東京グルメ/ライブドアグルメ企画開発運営(2000-2008) ・本が好き!企画開発運営(2008-2013) ・BWインディーズ企画運営(2015-2017) ・Webメディア運営&グロース(2017-) 【著書】 ・Twitter使いこなし術(2010) ・facebook使いこなし術(2011) ・ほんの1秒もムダなく片づく情報整理術の教科書(2015) など

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