必要のないトランスミッションをあえて搭載した、EVハチロクの「なぜ?」…東京オートサロン2023

電動車には必要のないトランスミッションをあえて搭載した、トヨタのAE86 BEVコンセプト。その理由とは?
電動車には必要のないトランスミッションをあえて搭載した、トヨタのAE86 BEVコンセプト。その理由とは?全 32 枚

今年の東京オートサロンは「カーボンニュートラル」が大きなテーマ。これまでは電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)が脚光を浴びてきた世界である。

一方で古い車を乗り続けようという提案も今回のショーでは多かったように思う。日産自動車では『キューブ』をリフレッシュするアイデアが展示されていたし、トヨタもGRヘリテージパーツプロジェクトとして古い『ランドクルーザー』のパーツを復刻すると紹介していた。

そんなリフレッシュあるいは旧車を乗り続けるための究極の提案がAE86『カローラ・レビン』と『スプリンター・トレノ』のカーボンニュートラル車両の製作である。

◆ドライブフィールまで考察した電動化

トヨタ AE86 BEVコンセプト(東京オートサロン2023)トヨタ AE86 BEVコンセプト(東京オートサロン2023)

基本はやはり「古い車をいつまでも乗り続けよう」ということで、この場合はリフレッシュという言葉は当たらないかもしれない。レビンの方は電気自動車化された。そしてトレノの方は水素エンジン車化されていた。どちらも洒落が効いていて燃料注入口に「電気に限る」とか「水素に限る」と言った注意書きのステッカーを貼ったり、リアウィンドーにも「交流電源をご使用ください」とか「高圧水素をご使用ください」と言ったステッカーを敢えて作って雰囲気を盛り上げている。

既存の古いクルマの電動化は既に海外のメーカーでも行われているし、日本でもそれにトライするベンチャーもある。しかしどのケースでも単に動力源を電気に置き換えるだけで、ドライブフィールまで考察した電動化が行われていることはなかった。

トヨタ AE86 H2コンセプト(東京オートサロン2023)トヨタ AE86 H2コンセプト(東京オートサロン2023)

今回のトヨタの取り組みで一番感心したのがこのドライブフィールを残したままの「カーボンニュートラル化」である。どちらのモデルもマニュアルのクラッチとトランスミッションを残していて、そのどちらもが機能する。水素燃焼エンジンを使うトレノの方は、昔の4A-GEU型1.6リットルツインカムエンジンをそのまま流用し、インジェクター、フューエルデリバリーパイプ、プラグなどを変更した最小限の改造にとどめ、トランスミッションとクラッチを使えるようにしている。

◆必要のないトランスミッションをあえて搭載した

トヨタ AE86 BEVコンセプト(東京オートサロン2023)トヨタ AE86 BEVコンセプト(東京オートサロン2023)

一方の電気自動車のレビンの方は内燃エンジンに代えて電気モーターを搭載しているのだが、トランスミッションとクラッチは活かされており、内燃エンジン車と変わらぬドライブフィールを大切にしているという。しかし、本来必要のないトランスミッションを使うと効率は悪くなるでしょ?という質問をしたところ、「仰る通り効率は悪くなります。しかし、それ以上にドライブフィールを大切にしました」という返事が帰って来た。

流石にバッテリーを搭載するためにリアシートが取り外され(水素燃料車はリアシートが残っている)、そこにレクサスのエンブレムをつけた大きなバッテリーパックを含むモジュールが搭載されていたが、重量バランスなどにも気を使っているそうだ。

トヨタ AE86 BEVコンセプト(東京オートサロン2023)トヨタ AE86 BEVコンセプト(東京オートサロン2023)

しかも疑似音ながら、エンジンサウンドも楽しめる。さすがに4A-GEUの音ではないそうだが、音なら何でも出せるはずなので、本当にやる気なら4A-GEUを再現できるはずである。電動化のアイデアがここまでくると、少しは電気にしてもいいかな?なんて考える。何せ私も古いクルマを持っているもので…。

《中村 孝仁》

中村 孝仁

中村孝仁(なかむらたかひと)|AJAJ会員 1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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