ソニー・ホンダモビリティが「AFEELA」でめざす新たなモビリティ像とは? 川西社長に聞いた…CES 2023

ソニー・ホンダモビリティが発表した新ブランド「AFEELA(アフィーラ)」のプロトタイプ(CES 2023)
ソニー・ホンダモビリティが発表した新ブランド「AFEELA(アフィーラ)」のプロトタイプ(CES 2023)全 14 枚

CES 2023で話題の中心となったのが、ソニー・ホンダモビリティ(SHM)が2025年に発売を予定するEVに関してだ。SHMは昨年10月、ソニーとホンダが50%ずつ出資して設立した新会社。そのSHMが何らかを発表するとなり、日本のメディアは一気にそこへ関心を向けたのだ。

◆2025年の前半に先行受注を開始、26年春に北米からデリバリー

日本は生産台数でトップを占める自動車メーカーを抱えるものの、こと電動化になると現状のシェアを守るために動きが消極的との見方をされることが多かった。そんな中で日本発の新たなEV会社設立のニュースは、電動化への動きに乏しかった日本の自動車業界に一石を投じるものとして大きな注目を浴びたのだ。

そして1月4日、米国ラスベガスで開催されたCES2023でついにその姿が披露された。新ブランド名は「AFEELA(アフィーラ)」。その第一号となるプロトタイプも『VISION-S』をさらにブラッシュアップした近未来的なデザインとして登場した。

プレスカンファレンスにはSHMの代表取締役会長 兼 CEOである水野泰秀氏が登壇し、アフィーラに搭載する技術と今後の展望を説明した。それによると「アフィーラのクルマ」は2025年の前半に先行受注を北米で開始し、年末までには正式に発売となって26年春にはデリバリーが北米からスタートする。

車両には800TOPS(毎秒800兆回以上の演算)の処理をこなす高性能なSoCが搭載され、これを使ってクルマの内外に搭載した合計45個のカメラやToFセンサーなどを制御する。これにより、特定条件下での自動運転機能はレベル3、市街地などより広範な運転条件下での運転支援を行うレベル2+の実装を目指すことにしているという。

その中核を司るのが米クアルコムが提供する車載用SnapdragonシリーズのSoCだ。これにより、アフィーラの自動運転や先進運転支援システム(ADAS)や写真インフォテインメントシステム、テレマティクス(通信情報サービス)といった制御全般を支えていくことになる。

また、プレスカンファレンスで水野氏は「アフィーラではモビリティにおける時間と空間の概念をより拡張する」ことを宣言したが、この点の技術革新については今後Epic Gamesとの連携強化がカギとなりそうだ。それを示すものとして新搭載されたのが「Media Bar(メディアバー)」と呼ばれる新たなインフォテイメントシステムである。

フロントグリルとリアエンドに搭載され、ここにはバッテリーの充電状況や天気予報といった情報が状況に応じて表示される。SHMでは「メディアバーの活用法については様々なクリエイター、企業パートナーを招き入れて一緒に可能性を模索したい」としており、今後の進化が期待される。

ソニー・ホンダモビリティの水野泰秀 代表取締役会長 兼 CEO。CES 2023で新ブランド名「AFEELA」を発表し、そのプロトタイプも披露したソニー・ホンダモビリティの水野泰秀 代表取締役会長 兼 CEO。CES 2023で新ブランド名「AFEELA」を発表し、そのプロトタイプも披露した

◆ソニーは“エンドtoエンド”でコンテンツを提供できる数少ない会社

そんなSHMが「アフィーラ」でめざす新たなモビリティ像について、同社で代表取締役社長兼COOを務める川西泉氏に話を聞いた。

---:EV時代になると新規参入組が増えると言われていましたが、CES 2023でもベトナムやトルコから新興EVメーカーが出展していました。そんな中で家電業界からの新規参入としてソニーが一番乗りを果たした。ソニーは35年の実績を持つコンテンツホルダーであり、アフィーラもエンタテインメント系コンテンツとモビリティの融合の結果だと思っています。そんな中でソニーがこれを実現できたアドバンテージは何だったのでしょうか。

川西泉氏(以下敬称略):ソニーの立場で答えれば、ソニーは“クリエイティブ・エンタテインメントカンパニー”であるという言い方をしています。ソニーはエンタテインメントの会社であり、そこにテクノロジーを使っていくのが基本的なスタンスです。2020年の時にこれまでモバイル商品を扱ってきて、世の中のトレンドがモバイルという大きなトレンドからモビリティという新しい領域に移っていくのではないか。そう思い(VISION-Sを)提案させていただきました。

ではそれが何かと言えば、大きなライフスタイルを変えていくトレンドがモバイルで起きたように、モビリティでも技術の発展が生まれているということ。もう一つは移動する時間、あるいは空間というのが人々の生活の中で一定の割合を占めることを考えると、ソニーが提供できる可能性の場を広げることになります。

ソニーの場合は、「ウォークマン」でリビングから音楽を外に持ち出し、移動する空間で楽しむ体験へと拡張しました。それがソニーの価値でもあるんです。今回、クルマという商品を用いて、自分が移動する中でその時間を使ってエンタテインメントを楽しむ時間に変えていく。これはソニー側からすれば、これまで提供してきたことに通じることでもあるんです。

---:とはいえ、それはコンテンツホルダーでもなくてもできることだと思います。ホルダーだからこそできることって何でしょうか?

川西:ソニーの場合は、コンテンツを作るところからお届けするところまでの“エンドtoエンド”のソリューションを持っている会社です。なにせソニーはコンテンツを作る撮影機材から作って提供しており、他がそう簡単に作れるものではありません。そういう意味でもユニークさは確実に持っているのがソニーだと思っています。

そして、“エンドtoエンド”だからこそ得られる体験として、移動する時間/空間というものを、自分たちが持っているアセットを使いながら実現していきたいというのが今回のテーマでもあるんです。ただ、それでも既存のアセットを使っているだけであって、新しくはない。そこに相手のテクノロジーを含めて新たなエンタテインメントを創出していくチャレンジは、これからの課題だと思っているところです。

思い起こしてみて下さい。何年か前にTikTokが流行るなんて誰もわからなかった。そういったわからない価値観というのをどれだけ想定しながら商品を考えていくのか、というところが重要だと思うんです。たとえばそれはクリエイティビティなことだと思うが、そこはソニーが追求してきた。既存のエンタテインメントもあるが、新しいものを創出していくことは、モビリティに対する新たな可能性、チャレンジになっていくことなんだと思っています。

ソニー・ホンダモビリティの川西泉 代表取締役社長 兼 COOソニー・ホンダモビリティの川西泉 代表取締役社長 兼 COO

◆「メディアバー」をもっと活かすアイディアを考えていきたい

---:今はテクノロジーカンパニーがコンテンツに投資してコンテンツホルダーになるのがテック業界の流れです。それはテクノロジーがコンテンツを求めているのか、それともコンテンツがテクノロジーを求めているのか、どっちなんでしょうか。

川西:それはどちらとも言えることです。技術というのは手段であって、その進化も手段であって目的ではありません。今、AmazonとかNetflixの話をしているのだと思いますが、彼らは自分たちでコンテンツを作ってはいますが、実質的にはディストリビューターであると考えています。むしろ、彼らはソニーにとってパートナーでもあり、ソニーの機材を使ってコンテンツを作っているお客様でもあります。それはAppleも同じなんです。

---:メルセデスベンツやBMWがどんどんエンタテインメント機能を拡充していますが、それはソニーにとってもプラスとなるというわけですか?

川西:結果的にソニーが作ったコンテンツやゲームがビジネスになっているのは事実です。ソニーとしてはそういった流れが生まれているのは良いことだと思ってますし、それがより多くの人により良いコンテンツとして楽しんでもらえるのは企業としての価値でもあると言っていいでしょう。もちろん、コンテンツに関しては完全にオープンなものとして対応するので、他ブランドのコンテンツにも対応していくつもりです。

---:SHM自身が何らかのコンテンツを準備すること、あるいは提案することはあるのでしょうか?

川西:広義の意味ではあるかもしれませんが、固有のコンテンツを作っていくかは今の時点では何とも言えません。とはいえ、新しい価値をSHMのクルマを通して見せられる立場ではありたいし、自分たちが実験台だったとしても、そういうことにチャレンジしていくべきだと思います。そういう意味では既存のコンテンツよりも新しい何かを提供できるような立場でありたいし、そこにやってみたいなという人たちが関心を持ってもらえるような会社にしていきたいと思っています。

わかりやすいところで言えば、今回のプロトタイプには「メディアバー」を搭載しましたが、それをどういう価値で作っていけばいいか自分たちも考えていく必要があるでしょうね。それができるんだったら、こんなこともできるよねというふうに、サンプル的なものは考えていくべきだと思っています。何を目指すかは断言できませんが、そういうものを提案することで、いろんな人がいろんなアイデアを出してそこで盛り上がれるといいなと考えています。

様々な情報が表示される「メディアバー」様々な情報が表示される「メディアバー」

◆移動しない時のクルマの価値についてどう考えるか

---:川西さんはプレイステーションのソフトウェアのクリエイターをまとめ上げて新しい創造するチームを作り上げたという経歴をお持ちです。TikTokが流行るとわからなかったように、今はまったく想像もしたことがないようなコンテンツが出現する期待が高まっています。「この手があったのか」ということをぜひ創造してほしいと思っています。

川西:今の立場で言えることは、日本ではクルマに乗っている時間はあまり長くないということです。長距離で出掛ける時は別として、基本的にクルマで2時間の映画なんか見ませんよね。そうなると短時間のコンテンツが必要になる。つまり、モビリティに合わせたコンテンツが必要になってくるわけで、そこは時間と空間をどう作り上げていくかにつながってきます。一発芸的なコンテンツがバズったりする可能性もありますが、そういう可能性を仕込んでいくことが大事ですよね。

---:それをやっていくパートナーとしてホンダがベストという認識はありますか?

川西:経験からして(ホンダに)コンテンツとしての期待はしていません。本業じゃありませんから。ホンダに期待するのはクルマとしての完成度だったり、安全性だったり、そういうところに対するアセットを十分お持ちだという理解で今回の合弁に至っています。合弁という両社の融合によって何らかに新しいものができるかもしれませんが、新しいエンタテインメントを考えていくのはソニー側の役割だと思っています。

---:移動しない時のクルマの価値というのはどう考えますか。庭先にクルマが停まっていて、コンセントから充電している状態なら一つの部屋とも捉えらることもできます。そうなれば2時間の映画だったゲームだって遊べるし、ゲームで対戦などもできます。

川西:よく言われることですが、クルマにはハンドルが付いているんだからレースゲームをやればいいってね。クルマとクルマの通信対戦だってできるでしょう。ただ、実際はGがかからないから、そこだけはリアル感に欠けるかもしれませんね(笑) それとクルマは乗っていない時の時間が長いし、渋滞の時にクルマをどう活かすのかというのも課題の一つです。これはエンタテインメントと違うところがあるので、そこはエネルギー的な観点も含めてホンダの知見も取り入れていこうかと思っているところです。

車内はソニーが考える充実したエンタテイメント機能が満載されている車内はソニーが考える充実したエンタテイメント機能が満載されている

---:今回のプロトタイプを見て、セダンに戻ったなと感じました。てっきりセダンからSUVと来ていたので、庭に停まっている時のシアターボックスみたいな、エンタテインメントが楽しめるボックス型のミニバンで登場するのかもと想像していました。しかし、登場したのは平たいセダンで、そのココロはなんだったのでしょうか。

川西:クルマは家の次に高い買い物です。それを考えるとカッコイイとか、自分で欲しいと思うか、そういった購買力に訴えるものは必要だと思います。最初に感じるインスピレーションだとか、それを考えるとある程度スタイリッシュなものを持ってくる方が商品企画の観点からして有効なんじゃないかと思うのです。もちろん、最初にいろいろと議論はありましたが、最終的にはカッコイイ方がいいよねとの結論に落ち着いたのです。

ソニー・ホンダ「AFEELA(アフィーラ)」のプロトタイプ(CES 2023)ソニー・ホンダ「AFEELA(アフィーラ)」のプロトタイプ(CES 2023)

◆クアルコムやEpic Gamesとの協業については?

---:「アフィーラ」から登場するEVは価格面でも高いと聞いていますが。

川西:ある一定の技術を取り込んでいくためには、それなりのコストはかけないと難しいのが現実です。とはいえ、IT技術というのは今までの実績から言っても、コストを下げるのはそれほど難しくないこともあります。安い方から上げていくのと違って、高いゴールを目指してそこから落としていく方が実際にはやりやすいと考えています。

---:エンブレムに使われるシンボルマークはあるのでしょうか?

川西:明確には答えていませんが、当面はアフィーラのロゴマークがその役割を果たすと思って下さい。エンブレムを付けないのは、「メディアバー」というディスプレイを装着することによって自己表現が可能だということにあります。一般的なエンブレムは固定で付けることになりますが、我々はディスプレイでの表現でそれに対応することで動的に変えられることを考えました。そこでアフィーラの表示をできるようにしたのもそれが理由です。その意味では、アフィーラのロゴマークがエンブレムということになるのかもしれません。

---:ソニーはデバイスをたくさん作っていて、このプロトタイプにも45個のセンサーを載せています。クルマでなければできないエンタテインメントの中で、車載品質になっているセンサーから来る信号情報を利用して、何かをやるという発想はありますか?

川西:ADASは一つのエンタテインメントになるんじゃないかと思っています。もちろん、安全性は担保した上での話ですが、たとえば挙動が完璧ではないクルマに乗っていて、その作動状況をディスプレイに表示してそれを楽しんだりしていることがあります。それをエンタテインメントとして言うには適切ではないかもしれませんが、ある意味、楽しめる情報になっているのは確かです。それを踏まえれば、必ずしもオーソドックスなエンタテインメントだけを考えなくてもいいのではないかと思っています。そうなればADASはもっと面白くもできるかもしれない。それが意外な見せ所になるのかもしれません。

---:クアルコムとの提携で「SnapDragon DigitalChassis」の採用などが話題になっていますが?

川西:それはあくまでソリューションとして提案されたということです。ただ、提供されているSoCを中心に自分たちのモビリティを投入していくことは事実なので、それを使ってくことをベースにしながら作り上げていくことにはなります。Digital ChassisにしてもAD/ADAS、HMI/IVI、テレマティクスなどいろんなものがあります。全部使っていくことを約束したわけではありません。(Epic Gamesのゲームエンジン「Unreal Engine」の採用も発表されましたが)他のOEMもやっていることなので、新しいモビリティとしての楽しみ方、エンタテインメントをEpic Gamesと、テクノロジーにとどまらずコンテンツの領域にまで踏み込んだ形を検討していきたいと考えているところです。

《会田肇》

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