「マツダ車は純正オーディオの音が良い」という評判を聞いて調査をはじめ、たどり着いた今回の取材。取材を通じてMAZDA3からマツダの純正オーディオは大きな変革を果たしていたことがわかった。
オーディオのあり方を音質重視へと転換し、クルマの中でも添え物的存在であったオーディオをメインストリームへと押し上げた。そこには既成概念にとらわれないカウルサイドへのスピーカー取り付けやエンクロージャー化、さらにはDSPを使ったデジタルコントロールなどを取り入れた開発者の思いがあった。その結果、アフターにおけるハイエンドオーディオを思わせるレベルにまでそのサウンドを引き上げることに成功している。最終章となる連載5回目は、これからの純正オーディオについて語ってもらった。
◆自動車業界大変革期を迎えた中で純正オーディオの未来像とは

自動運転やEVを始めとしたクルマにまつわる環境は激変の時期を迎えている。そんな中、車載の純正オーディオはどのように進化して行くのだろう? これからのオーディオはどんなスタイルへと変貌していくのだろう? 今回の開発をとりまとめたマツダの若松さんに純正オーディオの未来像についてうかがってみた。
「クルマの中にはウインカーの音やワイパーの音、NVHのノイズなど、さまざまな音が共存しています。そのひとつにオーディオの音があるという認識です。オーディオの音も車室内の音の一部なんです。現在はそれぞれの音を各々のパートで考えていますが、これからはみんなが協力してクルマを作ると音に関する快適性が上がると考えています。車内をさらに快適空間にするためにはいろいろな音を総合的に調和させていく開発が重視されると考えています」
さらにオーディオの分野だけにスポットを当てると、従来の2チャンネルステレオ音源からの進化がテーマになると言う。
「今後は360RAやドルビーアトモスなどに代表される立体音響システムが車載オーディオで注目されていくでしょう。立体音響は車内という環境に合っていると思うので、クルマのオーディオでこそ実現できるのではと考えています。クルマがオーディオルームになることはかなり現実的だと思っているんです」
「そもそも従来は左右2チャンネルのステレオ音源で立体的な音を感じていたわけです。これはいったん耳から入った音を脳内で変換して、あたかも立体であるかのように感じていたのです。つまり立体的な音像は人の脳が作ったもの、擬似的なサウンドだったんです。対して立体音響はもともとが立体的な音なので脳内での変換が不要になります。このような音源だと運転時のストレスを少なくする可能性もあります。そうなると音響面からクルマの快適性を高めることができるので注目していきたい分野だと考えています」
純正オーディオがクルマの価値を上げていく

今回は純正オーディオの高音質化をテーマに新たな開発に取り組んで来たマツダ。クルマとオーディオの関係はさらに強く結びついていくと考えているのだろうか?
「オーディオの高音質化はクルマの価値を上げることにつながります。そのためマツダとしてもオーディオを大切にしているのです。よりクオリティの高いオーディオを欲しているユーザーがきっといるはずです、オーディオのグレードが上がればクルマに乗る快適性も確実にアップすると考えています。そんな思いを持って、これまでの開発ノウハウを生かしてさらにレベルの高いオーディオを開発していく予定です。スピーカーの取り付け位置ひとつ取っても今回はカウルサイドを利用しましたが、もっと良い場所があるかも知れないと探求の手は休めることはありません」
これまで紹介してきた通り新しい純正オーディオを投入したMAZDA3以降、マツダ車のオーディオに対する評価はどのように変化したのだろう?
「概ね高評価をいただいています。実際にSNSでマツダのオーディオに関するコメントも多くなっている傾向です。それだけオーディオが注目されている証だと感じています。“MAZDA3は良いね、音も良いね”といった趣旨の書き込みも実際に確認しています。また奥さまがMAZDA3のオーディオの音の良さに感動して決め手となり購入に至ったというケースも報告を受けています」
近未来的なオーディオの進化や具体的な開発で、今後手がけていきたいこと、実現可能性の高い項目などはどんなことがあるのだろう。まずはハイエンドオーディオを純正で取り入れることは可能なのだろうか?
「もちろんコスト度外視のハイエンドなオーディオを純正で取り組みたいと思っています。今のところ未知数ですが手がけたいテーマのひとつであることは間違いありません」
◆純正オーディオを進化させたからこその評価
時代に合わせた次の手を探り続ける姿勢

さらにMAZDA3でカウルサイドへの移設とエンクロージャー化が大きなトピックになったスピーカー。次なるスピーカーの進化はどのようなものが考えられるだろう?開発に協力したパイオニアの五十嵐氏に聞くと更なる可能性を示してくれた。
「MAZDA3では部分的ですが車体構造と一緒に開発したのが大きな経験でした。これからはクルマ開発の早い段階で一緒にオーディオ開発を進め、最適な取り付け位置などを模索していくことも可能になって行くと思われます。そうすることでもっと高音質なオーディオが完成すると思っています。同様にDSPも車体設計の段階から参加すれば電源供給などの面でも余裕が生まれるはず。やれることももっと増えるはずなので、車体の設計とオーディオの設計は早い段階から協力して進めて行くことで次の段階に引き上げることが可能だと思っています」

MAZDA3でスピーカーをドアからカウルサイドへと移したマツダの開発陣。社内はもちろんサプライチェーンや流通までを巻き込んだ大きな変革になった。しかし高音質のためにはそんな調整もいとわない開発スタッフの熱意が新時代の純正オーディオを生み出したと言えるだろう。そして協力したパイオニアも社名が示すように“開拓者”として今までの常識を覆す仕様でありながらもマツダの期待に応えて見せた。こんな変革ができるのも自由で開放的なマツダの社風と、常に先駆者として技術を追い求めるパイオニアの社風だからではないだろうか。MAZDA3以降の各車で純正オーディオによる高音質化の実績を作り上げ、今後のマツダ車ではますます音の良いオーディオへの期待が高まる。次なる高音質・純正オーディオの登場が楽しみだ。