人流データでできること、ジオテクノロジーズと東大が研究…よく歩く街ランキング発表

逗子市
逗子市全 5 枚

地図検索サイト「MapFan」で知られるGIS(地理情報サービス)プラットフォーマー大手、ジオテクノロジーズ東京大学空間情報科学研究センターは2月3日、人流データの共同研究の成果として「よく歩く街ランキング」を作成。東京、千葉、埼玉、神奈川の1都3県では神奈川県逗子市が1位だったと発表した。

[よく歩く街ランキング]

集計は自治体単位で平日と週末に分けて行われ、逗子市は平日が平均1.888km/人、休日が1.867km/人と、両方で1位を獲得したという。

◆歩行者データで健康な街づくり

歩行者データはユーザー数1200万人というジオテクノロジーズのスマホアプリ「トリマ」によって取得されたもの。間断なく位置情報を捉えるというスマホのGPSの特性を生かし、位置情報をつないで移動として捉え、歩行者と判定されたものを抽出することができる。東京大学側は提供されたデータを単に集計するだけでなく、データマイニングでそうなっている理由を高度に分析。ジオテクノロジーズはそれを人が積極的に歩く、住民の健康増進に資する街づくりに関するコンサルティング手法に落とし込み、新ビジネスを開拓する…というのが共同研究の狙いである。

今日において、人流データの解析は珍しいものではない。アップルやグーグルがスマホから得られる膨大な位置情報を使ってビッグデータビジネスを展開しているのはよく知られているところである。交通渋滞ひとつとっても、巨額の費用をかけて道路に大仰なセンサーを設置した国土交通省のITSは、スマホのビッグデータ方式に呆気なく敗れた。渋滞情報の信頼性はもはや比較にならないくらいの差がついているうえ、ビッグデータ方式は、歩いているのかクルマに乗っているのか鉄道やバスで移動しているのかも高確率で言い当てる。

(イメージ)(イメージ)

◆スマホから取得するビッグデータとどう違うのか

そんなメガプラットフォーマーに対するジオテクノロジーズ・東京大学連合のアドバンテージは何なのか。ジオテクノロジーズCEOの杉原博茂氏は、GPS情報と高精度なマップとの両方を持っていることによる強みをアピールした。

「2021年にインクリメントP(ジオテクノロジーズの旧称)にCEOとして入社したとき、保有している情報や技術を見て宝の山だと思った。それまではカーナビの地図を作るための会社でしたが、それらを組み合わせたらすごいことができる、と。マップと移動情報の融合はその一例です」

GPSによる位置情報とMapFanの地図データを重ね合わせ、それにタイムラインを組み合わせると、移動が徒歩なのか原付なのか、はたまた自動車、バス、電車なのかといったことの推測の精度をさらに高めることができるという。今回のよく歩く街ランキングは徒歩による移動を正確に抽出できるという特質を利用したものだ。

それだけなら先行するメガプラットフォーマーと大きな違いはない。ジオテクノロジーズ×東京大学が狙うビジネス創出のフィールドはその先にある。移動情報と情報精度の高いマップを重ね合わせると、人がどう移動したり滞在したりするかということだけでなく、喫茶店やレストランにいるのか、オフィスにいるのか、家にいるのかといった居場所や滞在時間をデータとして取ることができる。

メガプラットフォーマーはAIによってそれらを推測するが、高精度マップを使うジオテクノロジーの手法はバーチャルオンリーではなく、リアルフィールドとのクロスオーバーと言える。それを分析し、たとえば人がよく歩いて健康的な街にするにはどのような都市設計を行うと効果的なのかといった知見を獲得して、高度なコンサルティング手法を生み出すのが狙いだ。現時点で歩行者にフォーカスしているのは、歩行者は都市の分析のラストピースであるという、同社の考えによるものだという。

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◆人流データから手にする知見の付加価値で勝負

「ジオテクノロジーズは広告に依存しない経営を目指しています。トリマでは広告は表示されますが、それはすべてユーザーさんへのポイント還元に使います」と杉原CEOは言う。収益源にしようとしているのは広告で得られる利益ではなく、移動するだけでポイントがたまるトリマをユーザーに使ってもらうことで得られた、人流データから手にする知見の付加価値で勝負をしようというのである。

ジオテクノロジーズが取得するデータは歩行者の人流だけではなく、徒歩以外のトラフィックも含め、端末を持っての移動はすべて取得可能。ジオテクノロジーズがそれらをどう生かせるかどうかは未知数だが、将来はよく歩く街といった比較的小規模なコミュニティ単位だけでなく大都市の設計、さらには都市同士がどう連携するかといった大規模な移動のコンサルティングに発展する可能性がある。

たとえば地方活性化。今、地方では中核都市が周辺人口を吸い込み、都市部での交通環境や住環境は悪化の一途、その周辺部では急速に過疎化が進むという非常に悪い流れを止められずにいる。これは人をできるだけ狭いエリアに集めれば効率を高められるという古いスマートシティの概念そのものだが、現時点ですでにそれが良い結果をもたらさないことは明白になっている。

◆人流データのマイニングを深化させる

「我々の目的はより良い社会作り。人やモノを集めたほうがいいのか、それともジャンルによっては分散を図ったほうがいいのか、公共交通機関をどう整備すれば地域が活性化するかといったことについても、人流データのマイニングが深化するにつれて新しいことがどんどんわかるようになると思う」

東京大学空間情報科学研究センター元センター長でもある柴崎亮介同センター教授は、将来ビジョンについてこのように語る。人の交流の根幹であるモビリティはこれまで徒歩、自転車、自家用車、鉄道、バス…、と細分化され、相互の連携はほとんど取れていなかった。MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)に関する試みも出てきているが、サービスとしてはスタンドアロンで、根本的には昭和時代から存在した目的地までは鉄道で、目的地ではレンタカーでというレール&レンタカーのような商品からほとんど進歩していない。ジャンルの壁を取り払い、すべての人流をシームレスに扱うことが社会づくりを変えることにつながるのか…。ジオテクノロジーズと東京大学のタッグのチャレンジは要注目である。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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