「CMFGデザイン」に挑む若き女性デザイナー 夢は「ヤマハのデザイン哲学を作る側へ」

ヤマハ発動機 クリエイティブ本部 プロダクトデザイン部 プロダクトデザイン4グループの土屋さおりさん
ヤマハ発動機 クリエイティブ本部 プロダクトデザイン部 プロダクトデザイン4グループの土屋さおりさん全 8 枚

デザイン業界では「CMF」という考え方がある。Color(色)、Material(素材)、Finish(仕上げ)の頭文字をとったもので、モノの表面(サーフェイス)を構成するデザインを言う。バイクメーカーの中でもとりわけデザインにこだわりを持つヤマハ発動機は、この考え方をさらに一歩進め「CMFGデザイン」をおこなっているという。最後の“G”とはGraphic(グラフィック)のことだ。ヤマハが注力するこのCMFGデザインに、若き女性デザイナーが挑んでいる。

そのデザイナーとは、クリエイティブ本部 プロダクトデザイン部 プロダクトデザイン4グループに所属する、入社3年目の土屋さおりさん。夢は「ヤマハのデザイン哲学を作る側になること」と大きい。なぜ彼女が活躍の場をヤマハに見出だし、そして何を作り出そうとしているのか。

◆きっかけはルマンのポルシェだった

2014年にルマン24時間レースを走ったポルシェ919ハイブリッド2014年にルマン24時間レースを走ったポルシェ919ハイブリッド

そもそも土屋さんがデザイナーを志望したきっかけは、高校生の時にテレビでたまたま見たルマン24時間レースだった。画面に映ったポルシェ『919ハイブリッド』(2014年)のグラフィックに釘付けになったという。そこで初めて、乗り物のグラフィックデザイナーという存在を知り、デザイナーになろうと決心した。だが、クルマではなくバイクメーカーを選んだ。その理由は「グラフィックのデザインがより楽しいのは二輪だろうなと考えた」からだった。また趣味性が高い製品をメインに作り出す二輪業界全体の雰囲気も、四輪と比べて肌が合っていると感じた。

現在はヤマハのバイク2台を所有する土屋さん。愛車は『SR400』と『YZF-R25』だ。デザインを学ぶと決め大学に進学したあとで、通学のためにホンダ『CB400SS』を買ったのがきっかけで、バイクそのものにもハマったという。現在所有するSR400は年式の古いものだが、どうしても白いカラーが欲しかったため色優先で選んだ。デザイナーらしいこだわりだ。

きっかけはルマンのポルシェ、最初のバイクはホンダだが、就職先として選んだのはヤマハ。決定的だったのはそのデザイン哲学だったという。

「川上源一氏(ヤマハ発動機の創業者)の言葉に『自分が贅沢だと思ったもの、自分が楽しいと思ったものは、自分だけで独占しないで人に分け与えよう。デザインもそうだろう。美しいと思ったものを自分だけで独占するのは、デザイナーとは言わないよ。それを人に分け与えてはじめてデザインと言うんじゃないだろうかね』という言葉が残っていてるんです。趣味性の高い商材のデザインって、利便性によるデザインよりも所有欲を満たしてくれるようなデザイン性が高いもの、美しいと思えるものじゃないといけないと考えていました。その思いが一番強そうな会社だなと思ったのがヤマハだったんです」(土屋さん、以下同)

◆何かわからないけどうっとりしちゃうデザイン

ヤマハ発動機 クリエイティブ本部 プロダクトデザイン部 プロダクトデザイン4グループの土屋さおりさんヤマハ発動機 クリエイティブ本部 プロダクトデザイン部 プロダクトデザイン4グループの土屋さおりさん

ヤマハが手がけるCMFGデザインは、まさに土屋さんがルマンのポルシェに一目惚れをしたような体験を製品デザインとして形づくる仕事だろう。土屋さんがデザインをする上で最も心掛けているのが「見惚れるものにしよう」ということだという。

「見て、何かわからないけどうっとりしちゃう、みたいなものにしたい。CMFGというデザイン分野は、第一印象と愛着に関わるデザイン分野だと思っています。一瞬で通り過ぎたバイクの形は覚えられなくても、色は覚えられる。『あの色、すごい綺麗だったな』と思って止まっているバイクをみた時に、今度はメタリックのラメの量とか、マットなのかツヤなのかとか、どういう質感になっているのか…というところを見ていくうちにどんどん愛着がわいてくる。それがCMFGデザインの分野だと思うんです」

現在はアセアン向けのスクーター、モペットのグラフィックを担当しているが、趣味性が低く思えるような製品でも考え方は変わらないという。「生活必需品の中でもやっぱりカッコいいものに乗りたいというマインドの強いお客さんは必ずいる。例えば生活の足として買ったけど、乗っているうちにどんどん愛着が湧いていって、乗り物って楽しいって思っていただけるきっかけになったら」。

MotoGPの日本グランプリに向けて、小型3輪モビリティの『トリタウン』のプロモーションのためにMotoGPマシンと同じカラーにしたいというオーダーが土屋さんの元に舞い込んできた時には「これより良いものが思いつかない」というところまで追い込んでデザインした。「形が決まっているグラフィックの場合、(ロゴなどを)どこに配置するとか、どれくらいの色の割合にするか、角度などというのは、『これだ!』ってピタッとハマる瞬間というのが存在していて。もうちょっと何かできたんじゃないかというのが1ミリもないというのが、決まったもの、決まったグラフィックだとできる」という。とはいえ、新規車種をゼロからデザインする場合には必ずしもそうはいかない。そこにデザインの難しさと面白さがあると話す。

土屋さんが手掛けた MotoGPマシンのグラフィックが施されたトリタウン(右) 土屋さんが手掛けた MotoGPマシンのグラフィックが施されたトリタウン(右)

◆ヤマハの作るものだったらきっと楽しいデザインが続けられる

土屋さんがデザインを手掛けていく上で目指すものとは。

「たくさんの人に受け入れられるものよりも、一部の人が本当にこれがないと自分の人生は豊かにならなかったと言ってしまうくらい、誰かの人生を変えるものを作りたい。イメージしているのはSRで、便利なものとして作られたわけではないと思うんですよね。誰かひとりに愛されることで、結果的にいろんな人に愛されるバイクに育って行ったと思うので」

夢は製品のデザインそのものだけではない。ヤマハの製品デザインと言えば、デザイン会社のGKダイナミックスが手掛けていることは広く知られている。実際土屋さんもバイクのデザイナーを志した際に、GKダイナミックスの面接も受けたのだとか。それでもインハウスであるヤマハでデザイナーを目指す道を選んだ。

「インハウスデザイナーになることの強みってなんだろうというのを考えた時に、デザインディレクションとかマネジメントに携われるのは強みだなと。将来的にヤマハブランドのデザイン哲学に関わろうと思ったら、外のデザイン会社じゃなくてインハウスデザイナーだろうと思ったので、将来的にはアセアングローバルとかのデザインディレクションやマネジメントに関われたら、ヤマハデザイン哲学を作る側に行けるんじゃないかと思っているので、その方向を目指したい」

「自分が定年退職するまで、内燃エンジンのデザインができるとは思っていない。自分の働いているキャリアの中で必ず、乗り物の変革期が起きるはず。その激動の中を生きるのであれば、感動創造企業という理念を掲げているこの会社は絶対楽しいだろうなという思いがありました。自分が何を将来デザインするのかは今わからないですが、ヤマハの作るものだったらきっと楽しいデザインが続けられるだろうなと」

若きデザイナーの挑戦は始まったばかりだ。

《宮崎壮人》

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