VWのEVミニバン、『ID.Buzz』の日本導入はなぜ? 遅い? 早い?

VW ID.Buzz
VW ID.Buzz全 13 枚

フォルクスワーゲンジャパンが3月9日、小型バスタイプのEV『ID.Buzz』の正式日本導入を発表した。往年の「ワーゲンバス」を彷彿とさせるデザインのミニバンは、EVかどうかを超えて誰もが気になる存在でもある。日本導入はどのような意味を持つのか。

ID.Buzzの内装他

■ID.Buzz日本導入決定の背景

「ID.Buzz」は、欧州において昨年秋の発売と同時に2万台を超える受注(乗用モデル・商用モデル含む)を記録した車だ。北米でも注目されており、同社の電動車戦略の象徴にもなっている。まずこのあたりから整理してみよう。

フォルクスワーゲンの新しい戦略には2つの柱がある。ひとつはこれまで積み重ねてきたドイツ車の信頼や安全性、作り込み。もうひとつはEVやコネクテッド技術をベースとした先進性や環境性能など新しい世代に向けた価値の提供だ。同社のオリジナルの価値と新しい価値をうまく組み合わせた商品戦略、「Love Brand」を掲げている。

EVでありながらレトロなデザイン、とくにフォルクスワーゲンのアイコンである「ビートル」と「ワーゲンバス(COMBI)」に強くインスパイアされているID.Buzzは新しいフォルクスワーゲン車のシンボル、まさにアイコンともいえる存在だ。

ID.Buzzは昨2022年12月、同社『ID.4』ローンチ関連のイベント「ID.Square」の際に、日本最初となる実車展示が行われ、話題になった。そのときも記者の「日本投入はいつ?」という質問には「なにも決定していない」との反応だった。だが、本日の発表では、そのときにすでに本社とは日本導入について検討および、話し合いが行われていたという。また、ID.Square後、フォルクスワーゲンジャパンには、ユーザーなどからID.Buzzの発売について多くの問い合わせも寄せられた。国内市場の反応にも後押しされる形で今回の発表となったようだ。

■導入決定した国・地域の共通点

日本へのID.Buzzの導入時期は「2024年後半以降」とだけ説明された。1年半以上先の話なので、いささか遅いのでは? という気もしないでもないが、現在フォルクスワーゲンがID.Buzzの導入をアナウンスしているのはEU以外ではアメリカだ(2023年夏を予定)。中国への導入も確実視されているが報道ベースの情報で正式なアナウンスはない。時期は24年と言われている。その中、24年後半以降とはいえ日本導入が正式発表されたのはなぜだろうか。

中国はEV市場で先行しており、世界の自動車産業の主要マーケットである。ここでのローンチや投入計画はID.Buzzに限らずEVであればむしろ必然だろう。アメリカと日本はEU圏とともに重要な市場であるが、ID.Buzzに限ってみると、違ったマーケット要因が見えてくる。

EU(同社の本拠があるドイツ)において、ワーゲンバス(Type2)はビートル(Type1)とともに文字通りの国民車・大衆車の代名詞であり「記号」にもなっている。市民が乗る車がビートルなら、市民の生活を支える車がワーゲンバスなのだ。それがEVでリニューアルされるということはビジネス以上の意味がある。

アメリカは70年代、若者や、とくにヒッピー文化の象徴だったのが「COMBI」の愛称で親しまれたワーゲンバスだ。ID.Buzzが特別な意味を持つ市場である。日本は、中国が台頭する前はアメリカ・欧州に次ぐ自動車大国であり歴史も文化も深い。日本もビートルやワーゲンバスに特別な想いを抱くファンやエンスーが多くいる。

そう考えるとID.Buzzは、単にフォルクスワーゲンの電動車世界戦略以上の意味を持つ車であることがわかる。前述した「Love Brand」の2つの柱(ドイツ車クオリティとモダン)にふさわしい市場に象徴的に投入される車なのではないかと言うことができそうだ。

《中尾真二》

テクノロジージャーナリスト・ライター  中尾真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。現在はWebメディアを中心に取材・執筆活動を展開。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から利用し、ネットワーク、プログラミング、セキュリティについては企業研修講師もこなす。エレクトロニクス、コンピュータのバックグラウンドを活かし、自動車業界についてもテクノロジーを中心に取材活動を行う。

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