【トップインタビュー】2025年に電動化+45%超目標に「チャレンジャーであり続ける」ボルボ・カー・ジャパン マーティン・パーソン社長

ボルボ・カー・ジャパン マーティン・パーソン社長
ボルボ・カー・ジャパン マーティン・パーソン社長全 15 枚

昨年は2年ぶりに国内販売の減少を見たボルボ。一方で2022年末にかけて、尻上がりに登録台数が上昇していたのも事実。電動化を急速に進めるボルボは、日本市場での2025年までのEV販売目標を引き上げている。唯一無二のスウェーデンブランドが、日本においてどのような戦略を描き展開していくのか。ボルボ・カー・ジャパンのマーティン・パーソン社長が独占インタビューに応えた。

・PHEVが一番売れている理由
・プレミアム市場のBEV割合を上回る成長
・年内にBセグメントBEVを日本に投入する
・ボルボが考える充電ネットワークとは
・ボルボはチャレンジャーであり続けるべき

◆PHEVが一番売れている理由

まずは国内販売の減少と、年末にかけての登録台数の上昇についてその要因となった背景を尋ねた。

「登録台数は上昇が見られましたが、受注台数は年間を通じてフラットで安定していました。ご存知の通り、昨年は受注台数をとる以上に、登録するのが難しい状況でした。年末に登録台数が上がった要因を簡単にいえば、船便が沢山着いたということ(笑)。受注は一年間、安定していたけど納車デリバリーがまとめてになってしまった」(マーティン・パーソン社長、以下同)

「ボルボのグローバル市場での実績は61万5000台で、前年比マイナス12%。他メーカーと同じく半導体の問題がグローバルでも影響したということですが、それでも日本市場は1万6164台で縮小幅が2.8%でした。本社が日本のマーケットに優先的に供給してくれたこともあり、そこがキーポイントでした。日本は昨年、ボルボにとってグローバル6位のマーケットになりました。それより上位を占める5か国は、上から中国、アメリカ、スウェーデン、英国、ドイツ。この辺りは…絶対に勝てないほど伝統的に強い、大きなマーケットですね。だから私は、これは日本で可能な限り最大の数字をあげられたのではないかと考えています」

社長の自画自賛のようにも聞こえるかもしれないが、ベルギーやフランス、イタリアといった欧州の他国より日本が上位に来たことは、確かに少なからぬサプライズではある。とくにベルギーはボルボの生産拠点が置かれるなど、半ばホームに近い環境ですらあるのだ。

「ラッキーでこうなった訳ではありません。まず本社が日本市場を重要視し、グローバル規模でマイナス12%の縮小の中で日本を優先してくれたのは大きい。今までは、日本市場が電動化に進むのか否かという問いでしたが、逆に我々が積極的に電動化は成功します、力を入れます、頑張りますよ、と本社を説得したのが二つ目のキーポイントです。とはいえ、まだピュアEV(BEV)は2車種のみ(『C40リチャージ』と『XC40リチャージ』)ですから、2年前からPHEVに注力しテコ入れしてきました。BEVは日本には、まだ早いかもしれない。でもPHEVなら(2年前の)現時点での可能性は強いんじゃないか、という読みです」

「去年のPHEVとBEV、つまりリチャージャブルな車種を全部含めた実績の数値を見ると、1位はテスラですが、2位BMWと3位ボルボの差は100台しかないんです。純粋にBEVだけで見るとメルセデスベンツに抜かれボルボは4位ですが、まだコンパクトな2モデルしかない中では悪くないと思っています。逆に2年前からずっと注力してきたPHEVでは、強みを発揮できています。価格が相対的に高いはずのPHEVを、かなりの顧客が購入してくれたのです」

PHEVが一番売れているという他ブランドでは難しかったであろうケースが、なぜボルボでは起きているのか? それはボルボの技術オリエンテッドで、クリーンなイメージのなせる技、あるいは顧客たちに帰せられる独特の傾向なのだろうか?

「確かに我々の顧客は、サステイナビリティや環境といったところに興味のある、敏感で意識の高い方々です。でもBEVへは一足飛びに過ぎるかな?ということで、ミドルステップとしてPHEVに目を向けました。私自身も今、PHEVに乗っているのですが、こんなにエンジンを使わなくても走れるのかと驚かされます。ほとんどEVのように感じる時すらありますし、EVモードの航続距離は80kmあります。この1か月はガソリンスタンドにもほとんど行っていない。だからボルボのPHEVはホント、「電気自動車みたいな車」。我々はBEVの車種がまだ少ない以上、PHEVに注力すべきだと考えたのです。それを本社が認めて、日本法人の戦略をサポートしようという流れができあがったのです」

いわばボルボは、当初は決して主流ではなかったPHEVに長い時間をかけて育て上げて、その勢いをさらにBEVへの移行へ繋げようとしている。

◆プレミアム市場のBEV割合を上回る成長

1年半ほど前、ボルボ発のBEVとなったC40リチャージを投入した際に、パーソン社長はEVの日本市場での販売目標を2025年までに35%に引き上がると説明したが、その途中経過といえる2023年を、どのように位置づけているのだろう?

「BEVの販売実績がまだ限りなくゼロに近かった時に立てた目標は、35%でした。電動化へ舵を切れたことで、BEVの販売はニッチから、規模感のある市場へと急速に移行しています。全体のシェア割合で(BEVは)5%と予想していたのですが、輸入車全体に占めるシェアは2022年通期で5.9%、プレミアム市場では同じく年間で4.9%まで伸びています。でもBEVの伸び率が強まったのは昨年9月からで、直近の四半期、昨年最後の3か月はとくに8~10%で推移しているんです。その中で2車種しかBEVがないながらもボルボは販売台数全体の中でBEVを5.7%と、日本のプレミアムマーケット平均より早く成長しています。ですが、さらにBEV割合を加速させなければなりません」

「プレミアム市場のプレーヤーとして、ボルボとしては日本市場全体のBEV割合がどう推移するかに興味はありません。日本でBEV普及はスロースタートだったようですが、これからもっと伸びていく。実際にプレミアムブランドを見渡してみると、これから投入される車種はBEVが中心になる。先日のカンファレンスでアウディは、今年のBEV比率の目標を12%と公表していましたから、すでにマーケットの2倍以上を設定していることになります。我々も、2023年の具体的な数値こそ申しませんが、目標をシフトアップさせていきます。だから2025年までに35%目標といっていたのを、45%に上方修正しました。でも45%は、今思うに最低限のミニマム目標で、それ以上になると思います」

プレミアム市場の中でBEV割合を平均を上回って増加させ、早い成長曲線を描く戦略といえる。ちなみに2021年頃に、2025年のBEV販売比率35%とは台数にして約9000台に相当していたが、45%に上方修正しても、全体の分母は変わらないのだろうか?

「大体1万1000台ぐらい。それがBEVになるように、ということです。でも先ほども申し上げた通り、今のトレンドの強さを見ると、それはミニマム目標で、もっと伸びる可能性もあると思います」

電動化へ質のいい置換がプライオリティとはいえ、それが実現できれば販売台数の規模拡大も徐々に伴ってくるという見通しだ。かくしてプレミアム市場内でのプレゼンスとシェアを少しづつ拡げていく戦略といえるだろう。

◆年内にBセグメントBEVを日本に投入する

現状では「60シリーズ」と「40シリーズ」も好調で、輸入車のモデル別販売台数のトップ10内に入っている。プレミアムセグメントの中でリーダーを目指すという目標に対し、達成度をどのように感じているか、また本国ですでに発表されている『EX90』の日本導入はどうなるのか?

「我々の考える『リーダー』の意味は、台数を追うよりも、新しいことに挑むこと。ボリュームでボルボがメルセデスと肩を並べるのは難しいですから。我々のイメージとして、フロントランナーであると認識してもらえるようになること。でも昨年は国内4位で、アウディより少し上でゴールした。テスラほど尖るのは難しいとしても(笑)、全体に占めるBEVの比率、5.7%は現時点で悪くないと思っています」

「他ブランドもそうですが、受注が登録を上回る状況ですので、本社からの供給、日本市場をどれだけ優先してくれるかが、非常に大事。ボルボはこれから、一年に1台はBEVのニューモデルを投入していきます。今年、日本市場にはBセグメントのSUVのBEVを投入します。欧州は先にEX90を投入してからBセグのSUVでBEVが登場します。日本市場ではやはり小さめの車のポテンシャルが高いですから、そちらを先に、今年中に導入したいのです」


《南陽一浩》

南陽一浩

南陽一浩|モータージャーナリスト 1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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